05 彼女が彼を嫌いな理由(5)
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「ぶち切れてるとこ見てるじゃねえか。ていうかあれか、あの日悠の機嫌が悪かったのはお前のせいか」
私のそんな回想を聴いて、呆れたように匠先輩が苦笑する。
「やっぱりそうですか……」
普段の会長の姿を見ていると、あの日の面影は全くない。
適当におちゃらけて、面倒くさそうに仕事をして。
しいて言えば、無駄なボケで笑わせてこようとするところだろうか。
「いや、機嫌悪いこと自体は助かるんだけどな、仕事が早く進むから」
「態度やら言動はそのまま、仕事のスピードと量だけが異常に増加するのよね。私も去年気付いたのだけれど」
「……けど、今は怒らない。会長にあの時の面影なんか全くないじゃないですか」
そもそも、あれだけ人のことを叱りつけておいて、この半年あの体験入学の話題に触れてもこない。実は別人だったんじゃないか、と疑うくらいに。
「……それはつまり、あなたはその時の──いえ、これはワタシが言うことじゃないわね」
「何です?」
秋穂先輩が何か言おうとして、眉をしかめて取り消す。私はその続きを尋ねたけれど、
「自分で気づけってことよ」
「そうだ、ね。自分以外、わからない、から」
答えては貰えなかったし、朱音先輩までそんな風に頷いている。
「?」
疑問符。やっぱりこの先輩たちのいう事は、時々解らない。
私が眉根を寄せて考え込んでいると、それを見かねたのか、
「でも確かに、りゅーくん。あの頃とは、別人」
「それはまあ、そうね。でも理由なら簡単でしょう? 会長であろう、としているのよきっと、あの見栄っ張りは」
「まあ、それがアイツの方針なら俺は従うぜ? 会長はあいつだ」
三者三様。先輩方なりに私を手助けしようとしてくれたのだろうか、私の言葉を否定するでもなく、けれどやんわりと今もあの会長を支持している風な、庇うようなそんな意見を飛ばしてきた。
「それにまあ、アイツが怒らないってのは、ある意味じゃいいことなのかもしれないしな」
「それは、自分が怒られなくていいから、ってことですか?」
「や。誰にだろうと、あいつが怒るところは、出来れば見たくない。俺が悠に怒られるのは別にいい。その時は間違いなく俺が悪いんだから」
「なぜです? 普通は逆でしょう。別に自分に怒りの矛先が向かないのであれば、問題ないと思うんですが」
「いや、あいつが怒るってことは、そうだな」珍しく苦笑い「なんつーかさ。優しすぎるんだよ、あいつは。こっちが気恥ずかしくなるくらいにな」
「……はあ」
そうなんですか、と不承不承うなずく。どこまでも気の無い返事。当然、納得なんかしていない。
あれは優しいのではなく、生ぬるい、と言うのだと、私はそういう風に思うのだが。
「ま、友香にもそのうち解る日がくるさ。あいつなりのいいところ、っていうのがな」
匠さんは、それだけ言って、お茶を口に含んで、「まだあっついぜ、これ……」などと言いながら書類に視線を戻していた。
ふと見ると、女性陣もそれぞれの作業(朱音先輩は毛布の中)に戻っていた。
ぽつん、と。私の思考だけがひとりぼっち、生徒会室の中においてけぼりを食らう。
あの会長のいいところが解る日、ね。
「はあ……」
そんな日は絶対に来ないだろう。欠点だけは、嫌いな理由だけは、山ほど理解しているけれど。
私は、ため息と共にそんな確信を吐き出しながら、自分の仕事に戻ったのだった。




