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00 「コエ」と「コタエ」(3)

     4


 「そんな訳で、写真の分別をします」

 「僕に拒否権は?」

 「ありません」

 「はい……」

 そんなこんなで僕が生徒会に入ってからの三年間、溜めに溜めこんだ写真を片付けることになりました。まる。

 チェックして、必要なものはアルバムに、必要ないものはゴミ箱にという方式を採用。スムーズ優先、これならそんなに時間もかからないだろう。

 「しかし、ずいぶんありますね……どうしてこんなにほったらかしなんですか?」

 「写真っていうのは、思い出しながら整理するものなんだよ。僕はまだ、全部覚えてる」

 「本音は?」

 「なんかメンドイ」

 …………。


 ──三年。

 「これ、めちゃくちゃ最近だな。研修旅行のヤツだ」

 「……パスです」

 「ん? ああ大丈夫、研修先で旬の山の幸食いまくって、その後イチゴ狩りでさらに食いすぎた挙句、バスで『うー、もう食べれません。というかもう食べません。ごめんなさいごめんなさい』とか言いつつ死にかけてた写真だからって気にすることないって」

 「半笑いで言っても慰めになってないです……」

 「そうだ、これコルクボードに貼って永遠に語り継ごう」

 「先輩は鬼ですか!」


 ──二年。

 「あ、先輩。これどうします? 先輩が珍しく満面の笑みで演劇部と握手してる写真ですけど」

 「ん? ああ懐かしいな。これ広報撮影用の演技だよ。僕あいつら嫌いだし。演劇部を演技で騙す男。それが僕。」

 「うわ、聞きたくなかったです、そんな話……」


 ──一年。

 「ああ、それは文化祭だろ? 実行委員長くす球撲殺事件。死んでないけど」

 「先輩が仕掛けミスしたんですよね?」

 「僕じゃ」ジト目「な、い……ゴメン、僕だった」

 一年生の時の話である。もう時効にしてほしい……。

 「こっちは先輩の先輩から事の詳細を伺っていますからね?」

 ネタは上がってるんですよー、と友香は笑う。

 「あの人達は僕をどうしたいんだろうな、一体……」


 ──次々と、古い写真が出てくる。

   それはさながら、カウントダウンのようで。


 「しかしお前、だいぶ表情豊かになったよな……」

 こうして写真を見て、比べてみると解かる。入学したてのこいつは本当に愛想の欠片もない人間だった。

 「そうですね……」一枚の無表情な少女が写る写真をなでて「この頃の私は、なんというかこう、灰色でしたから」

 昨年度の秋あたりだろうか。僕に対してある宣言をしてから、なにかのつかえが取れたのか、段々と表情が豊かになって。

 あの冬の出来事から、その宣言に反して僕にも多少人当たりがよく……というか、若干舐められてるような気がしなくもない。

 けれど、どこまで態度が変わっても、結局あの『宣言』は変わらないんだろう。僕も笑いかけられる位で変な勘違いするほど子供じゃないし、それにあれから僕はほとんど何にも変わってない。仕事じゃ相変わらずコイツに怒られてばっかりだしなあ。

 まあ、けれど、こいつが今ココで笑っていられる一つの歯車に僕なんかでもなれているなら、それで──

 「いい感じに明るくなって、柔らかくなったよ、お前」

 「灰色の私にひたすら色を塗りたくってくれた人たちが、ココにいますからね」

 おまけにマッサージ付ですから。なんて、一人もみくちゃにされている5人の集合写真をひらひらしながら、口を尖らせて言う。

 「はは。まあ、あれだけ揉まれりゃ柔らかくもなるか……って、どうした?」

 気付くと、じー、と友香が至近距離でこちらを覗き込んで来ていた。

 「んー」意地の悪い、いたずらっぽい笑み「それを言うなら先輩も、よく笑うようになりましたよね」

 その言葉に思わず目をそらし、頬を書く。

 「う……僕のことはいいんだよ」

 「ふーん、そうですか……。まあ、いいんですけどね?」

 とんっ、と軽い音を立てて一歩ひいて、ジト目。なんだよその全部見透かしてますよー、みたいな目は。

 「そうそう、ソウナンデスヨー、イインデスヨー」

 と、適当にあしらって、写真の分別に戻る。これ以上余計な会話をしてると、これまた余計なボロを出しかねないから。

 あ、逃げましたね、などと言いつつ、友香もトテトテと横に戻って、作業再開。

 既に僕が一年生の時の年度の中盤位の写真に差し掛かっている。んで、無言で作業なんてものが続く訳が無く。

 「……しかしまあ、段々懐かしさレベルが上がっていくな」

 手は休めずに会話再開である。

 「そうですね。新しい写真を上から重ねてますから。古い写真は下のほうです。」

 「して、どんどん恥ずいレベルも上がっていくよな……」

 「そうですか? まあ、私はこの頃いませんから気楽ですけど」

 「人に好んで見せたい写真じゃない……というか、もう後輩にこういうのを見られるのは苦行に近いんだが」

 「ですか?」

 友香は写真(僕の副会長時の選挙演説。詳細は勘弁して欲しい、顔からの自然発火で死ぬ)を見たままで僕の愚痴に答える。

 「んー。私はなんだか嬉しいですけどね?」

 「……なんだよ、僕の失敗の歴史がか?」

 「まあ、それもありますけど」本当に嬉しそうに「私の知らない先輩が見れますからねー。なんだかそういうのって嬉しくて、楽しいです」

 「……さいですか」

 僕は友香を横目で見て、少し迷ってから、反論の言葉を飲み込んでそれだけ返した。

 というか、あの表情を見て文句を言える奴はいないだろう。


 ──まあ、その言葉に不覚にも少しだけ赤面してしまった事は、絶対に秘密だけれど。


んー、青春。いいなあ・・・青春。私が言うのもなんですが。

高校時代の青春って、きっと他のどの時代のそれとも違うんですよね。



今回は少しでも連作っぽい話に出来ていたでしょうか?

この短編もいよいよ中盤。あと2話です。

ではでは、また。

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