05 彼女が彼を嫌いな理由(1)
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季節は巡り、時計は遡る。
これは、過ぎ去ってしまった日々の物語。
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ふと桜が目に留まると、思い出すものがある。
それは、じゅくじゅくと音を立てて癒えぬ傷口。私の中に今だ残る苦々しい敗北の記憶。
一年前、私はモヌケノカラになった。
それからたかだか数百日とちょっとが過ぎて。その間にいろいろあって。
今では、桜並木を歩く私の隣をからからと、知らないヒトを乗せた車輪が二つ転がって、通り過ぎていく。
春。そうして私は、高校生になった。
◆
──まあ、だからと言ってなにかが変わる訳でもなく。
春と夏は、ものの見事になにもなかった。
普通に授業と試験を受けて、行事をこなして。
教員のすすめで生徒会に入って。
騒がしいその雰囲気に馴染めないながらも、それなりに仕事をこなして。
それだけだ。
ほとんど、それだけ。
文章にしてしまえば、僅か数行にも満たないだろう、特に起伏のない高校生活。
ああ、こんなものか、と。そう思ったことがないと言えば嘘になる。
やっぱり私はどこにいても同じなのだ、と。
逃げてきた人間に、与えられるものなど、手に入れられるものなどないのだ、と。
私はずっとそう思っていたし、思っていく。それだけは間違いないだろう。そう、言い切れていた。
けれど。
一つだけ、私の捨ててしまった感情を揺り動かすに足りたものがあった。
それは──そう。何のことは無い、一人の人間だった。
◆
季節はあっという間に秋だった。
晩秋。冬はもうすぐそこまで迫っているけれど、まだ足音は聞こえない。そんな微妙な時期、季節と季節の境目。
生徒会の大一番である後期生徒総会と、それに続く新役員選挙もつつがなく終了した土曜の午後。
窓の外では秋の間延びした雲が漂っている。そんな、文化祭までの短い平穏な空気の中。
「会長。私は会長が嫌いです」
私は、爆弾を投下した。




