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04 冬の唄・夢の跡(1)

   1


 君のその予想は大外れだ。

 なんて、そんな奇をてらった文章から始めた物語に、一体どれくらいの人が食いついてくれるだろうか。

 冬である。とかいうありきたりな書き出しなんかよりよっぽど人目を引きそうなものだが、なぜだか僕には言えた義理ではないような気がするので自重する。つまり、何が言いたいかというと、夏、秋と繰り返したからって冬もやるとは思うなよ、ということである。

 天丼の作法なんか知った事か。

 って……いきなり何を言っているんだ、僕は。

 何を言いたいのか、についてはどういう訳か解かっていても、誰に言いたいのか僕自身さっぱり見当がついていないのだ。

 そもそもなぜ書きもしないものの書き出しについて突然思考が及んだのか。しかも、あたかもこれまでいくつか同じような物を書いてきたかのような前提で、だ。意味が解からない。

 と、まあ。

 朝からこんな不毛な事を延々と考えてしまうのも、ひとえに今のこの胡乱な頭の状況を作り出している現状の所為に他ならない。

 部屋の窓からはカーテンを貫通して、昇るのが遅くなった太陽が弱った光を送り込んでいる。その向こうには雪の積もった町並みがあるはずだ。そして、今は朝だ。

 そう。つまりは、冬の、寝起き。

 「うぐう」

 言葉をなしていない声が、布団の外、冷え切った空気の中を反響する。体を包み込む温さとは裏腹に、部屋の空気は目に見えるのではないか、と思うほどに冬の冷気を纏っていた。

 「うう」

 起きたくない、という意思のうめき声。当然僕のものであるそれは、部屋の中だというのに、白く靄になって消えていった。鼻の頭が冷たいことに気付いて、首まで掛かっていた毛布をずりあげた。

 とたん、言葉では言い切れないような幸福感がはふう。

 ………………ん。

 ……失礼、あまりの心地好さに一瞬で眠気に足を取られてしまった。これだけモノローグ全開だというのになんだろうかこの強制力は。

 ああ、至福。

 冬の朝の二度寝って、どうしてこんなに気持ちいいのだろうか…。布団に『もっとオイラとランデブー(睡眠)しようぜ!』とか、『行こうぜ──君が望む所(睡眠)まで』とか、そんな言葉を延々耳元で呟かれている気分である。

 この時間があまりに好きすぎて、僕などは目覚ましを二段階でかけて、わざわざ二度寝する時間を作っている始末。ちなみに二回目のアラームは先ほど止めた。つまり今現在起きなければいけない状態。ついでに言うと今日は平日。月曜日。

 別に学校行きたくない、なんて甘っちょろい事を言うつもりはないが、そもそも布団から出たくない。この幸福を手放したくない。

 ほら、布団だって、

 『私を置いて、行っちゃうの……?』

 と学校の廊下で涙目上目遣いで……。

 『やだ、行かないでよ──先輩』

 って、え? 学校──?


 ◆


 「うわあ!?」

 自分の叫びで、完全に目が覚めた。そのままの勢いで上半身を跳ね起こす。

 「っつ……。どういう夢だ、これ」

 ガリガリと音を立てて、自分の頭をかく。布団がよりにもよってアイツの姿に化けて泣いていた、なんて。夢診断するまでもなく、人にばれたら恥ずかしい系のものである事は解かった。なんだろう、後輩に別れを惜しまれたい欲求とかあるのだろうか、僕。

 というか、どこからどこまでが夢だったんだろうか。冒頭からだろうか。思えば決して叶わない、という点で三度寝と終盤の展開には共通項がある気がする。

 ふと、自分の周辺に目をやる。飛び起きてしまった所為で、掛け布団や毛布はすっかりめくれあがってしまっていて、自分の体の近くの敷布団を触っても、先ほどまでの温かさは微塵も残っていなかった。むしろ冷たいくらいだ。

 壁に掛かった時計を見る。本来の起床予定の少し前、もう布団からの誘惑もないし、どうやら遅刻はしないで済みそうだ。

 そこで、タイミングよく二回目のアラーム。ふむ、どうやらそれを止めた辺りではもう夢の中だったらしい。どうりで意味の解からない考えが浮かんでくる訳だ。

 僕はそう納得して、朝向けに爽やかなジムノペティを流す携帯の動作を止めて、

 「起きます」

 頭に寝起き特有の少しの澱みを感じながら、僕は誰に言うでもなく、そんな朝の時間との別れの言葉を呟いていた。

 

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