02 刹那の夏(1)
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夏である。
日差しは強いし湿度は高いし風は無いし蝉はうるさいし当然のように不快係数マックス。
そんな絵に描いたように模範的な夏である。
いや、それ自体に恨み言を言うつもりはないのだ。
遥かな大自然に逆らえる、なんて思うほど高慢な人間であるつもりはない。夏は暑い。これがこの国におけるこの季節の基本原理である。
いくらじめじめしていようと。
いくら太陽が照りつけようと。
それが夏だ。自然の全力だ。
けれど。
一つだけ、この夏について語ることが許されるならば。
ただ、少し。
ほんの少しだけ……
◆
「あー。太陽、有給取らねえかな……」
「言ってるじゃないですか、恨み言。壮大な前フリしないでくださいよ。しかも規模大きくなってますし」
なに大宇宙に喧嘩売ってるんですか、なんて、後輩の冷たい呆れ声が暑さで緩んだ脳に響く。
もう本当にここ日本なのかというくらい暑い昼。役員5人のうちの3人が休憩で出払っている生徒会室の中。僕らはそんな愉快な会話を繰り広げていた。
休憩ローテ決めじゃんけんに負けた結果である。
「エアコンつけようぜー友香。このままじゃ僕溶解する。溶解して妖怪になる」
逆向きに椅子に座って、背もたれに顎を乗せてよりかかる形で全力のだらけを表現する。
半そでをさらにノースリーブ風にめくり、腕ぶらぶら、スクウェアテイルのワイシャツの裾は当然出し、ボタンは3つ外してある。会長としてはあるまじき姿だが、まあだいたいいつもこんなものである。
「人間は溶けません。というか、エアコンつけて気温下げるのは自然に逆らうことにならないんですか? エコじゃないですし」
むしろそんな冷たいことを言い放つ友香のように、ボタンは標準の一つ外し、ワイシャツは2まくりでヘアピン使って止めている程度なのに、平然としていられるほうが違和感を感じる。
「自然を守れると思いあがるほど高慢な人間でもないんだよ、僕は。あんなデカイもん、人間がエコエコ叫んで冷房消した位でどうにかなるか」
エコって何? エアコンの略? みたいな感じである。
「まったく……。それにそもそも、エアコンなんて無いじゃないですか、この部屋」
「何言ってんだよ。あるじゃんか、そこに」
僕は部屋の左側の壁、安っぽいソファーの付近を指差す。
そう、そこには正しく最近導入したエアコンが──。
「あれは扇風機ですからね?」
……はいっ(じゃじゃーん)、扇風機でしたー。
まあ、普通に考えて進学校でもないノーマル高校にエアコンなんてあるわけがない。扇風機でさえ会長権限の濫よ……まあ、ちょっとした裏技でようやく導入にこぎつけたっていうのに。
「……悠先輩、エコをエアコンの略とするのはかなり譲ってまだ冗談として処理できますけど、扇風機をエアコンと呼ぶのはちょっと……」
後輩が本気で引いていた。ズザザ、と音のするようなドン引きである。
暑さでおかしくなったんじゃねーの? という冷たい視線もこの気温の中だとどこか心地よく感じてしまうような気がして怖い。僕はまだそっち側に道を踏み外したくはないんだ。
「僕だって呼びたかないよ」
「じゃあ呼ばないで下さいよ」
「……そうでもしないと僕は、この過酷な現実を受け入れられないんだよ」
言って、視線をやった生徒会室の壁には、三十九度と表示されているデジタル温度計。数字が点滅しているのは、これから気温が変化する測定中の証だが、まあ下がることはないと考えてもらっていい。
つまりは、摂氏四十度まで秒読み段階。
僕が生まれてこの方体験したことのない地獄の一歩手前。
蝉すら落ち、アスファルトが溶けて足跡がつく、その気温。
暑さで見た幻でもなんでもない。これが僕の直視したくない、日本最高気温記録の大幅更新という、現実そのものなのであった。
ピッ!
あ、地獄、入った。
新短編開幕です!
刹那の夏と書いて、セツナツと読むのです。
季節は夏。登場人物は、まず二人。
いつものように生徒会でのちょっとした青春の日々をお楽しみいただければ幸いです。
ではでは、また。




