幕間 嘲笑(ルシェラ)
境目に、ルシェラはいた。
立っているわけでも、
浮いているわけでもない。
ただ、そこにある。
ルシェラは、七村を見る。
見る、というほどの熱もない。
観測というより、
確認に近かった。
——なんだ。
それが、最初の感想だった。
七村は、何もしない。
視線を向けない。
言葉を探さない。
意味を組み立てようともしない。
ルシェラは、少し肩をすくめる。
「……拍子抜けだな」
嘲笑は、自然に漏れた。
鋭くする必要もない。
七村は、
脅威には見えなかった。
強くもない。
賢そうでもない。
まして、戦う気配などどこにもない。
ただ、
そこにいるだけ。
ルシェラは、
七村の周囲に意味を落とす。
因果。
輪郭。
説明できそうな線。
いつもなら、
それだけで相手は揺れる。
だが、
七村は揺れない。
意味は、
触れられる前に、
地面に落ちて消える。
「……へえ」
ルシェラは、
少しだけ眉を上げる。
「見ないんだ」
問いかけでも、
誘いでもない。
からかいだ。
七村は、
返事をしない。
それどころか、
その存在を
数にも入れていない。
ルシェラは、
思わず笑う。
「なるほど。
観測禁止、ってやつか」
馬鹿にした調子だった。
「それで何が守れるんだ?」
嘲笑が、
境目をなぞる。
けれど、
七村には届かない。
当たらない。
ルシェラは、
その理由を
深く考えなかった。
考える価値がないと、
判断した。
「……つまらない」
七村は、
反応しない。
反論も、
否定も、
恐怖もない。
ルシェラは、
七村を
危険だと思わなかった。
なぜなら、
何もしていないからだ。
名付けない。
追わない。
確かめない。
——無力だ。
そう結論づけて、
ルシェラは視線を外す。
興味は、
もう別の場所にある。
夢の内側。
王冠のある場所。
そこでは、
意味が喜んで受け取られている。
「……あっちは、楽そうだ」
七村のほうは、
もう見ない。
見なくていいと、
判断した。
ルシェラは知らない。
意味を拒む存在が、どれほど世界を壊せるかを。
嘲笑は、
当たらなかった。
だから、
脅威だとも思わなかった。
それが、
ルシェラの誤算だった。




