幕間 観測禁止(七村)
七村は、その夜、よく眠れた。
夢を見たかどうかは、
覚えていない。
目を閉じて、
次に開けたときには、
朝だった。
それだけだ。
窓の外は静かで、
音も、光も、
いつもと同じ速さで動いている。
違和感はなかった。
——それでいい。
七村は、
布団の中でそう思う。
確かめたいことが、
なかったわけではない。
ただ、
確かめないと決めている。
それは努力ではなく、
選択でもなく、
習慣に近かった。
朝食を取り、
制服に袖を通す。
鏡に映る自分は、
昨日と変わらない。
学校へ向かう途中、
旧校舎の方を見る。
誰もいない。
誰もいないことを、
七村は「正常」だと判断する。
判断した、というより、
受け取った。
授業中、
教師の声を聞き流しながら、
七村はペンを動かす。
ノートは整っている。
行間も、
余白も。
そこに、
書かれていないものがあることを、
七村は意識しない。
放課後、
校門を出る。
帰り道で、
前を歩く背中を見た気がした。
気がした、
というだけだ。
追いつこうとも、
声をかけようとも思わない。
そのまま、
歩く。
角を曲がり、
背中は見えなくなる。
七村は立ち止まらない。
振り返らない。
名前も呼ばない。
それで、
何も起きなかった。
少なくとも、
七村の世界では。
夜、
机に向かい、
一日の出来事を思い返す。
特筆すべきことは、
何もない。
七村は、
それを良い一日だと判断する。
観測しなかった。
それだけで、
世界は静かだった。




