第ニ十一章 まだ、決めていない
魔女の間は、相変わらず静かだった。
一色は、七村から目を離さない。
「なあ」
今度は、声を荒げない。
「お前さ、
分かっててやらなかったんだろ」
七村は否定しない。
「分かってた」
「だったらさ」
一色は一歩近づく。
「それはもう、
責任がある側だろ」
七村は、少し考える。
言葉を探しているのではない。
どこまで言うかを選んでいる。
「責任は、
行為のあとに生まれる」
一色は即座に返す。
「行為しなかったってのも、
行為だろ」
「そうだな」
七村は認める。
「だから俺は、
責任を持たない選択をした」
一色の眉が歪む。
「それ、
ずるくないか」
「ずるい」
七村は、あっさり言う。
「だから生き残る」
一色は、一瞬言葉を失う。
それでも、引かない。
「じゃあさ」
今度は、別の角度から来る。
「もし俺が、
お前の立場だったら」
七村は答えない。
一色は続ける。
「誰も救わないって選択を、
正しいって言えるのか?」
七村は、少し首を振る。
「正しいとは言わない」
「じゃあ間違ってるだろ!」
一色は声を張る。
「間違ってるって分かってて、
何もしないのは――」
「怖かった」
七村が言う。
一色の言葉が、止まる。
「……は?」
「怖かった」
七村は、淡々と繰り返す。
「踏み込めば、
世界が一気に固まる」
「それの何が怖い」
「壊せるからだ」
一色は、歯を食いしばる。
「壊さなきゃ、
守れないこともあるだろ」
「ある」
七村は即答する。
「だからお前は、
踏み込んだ」
一色は、息を吐く。
「だったら、
俺のやり方が全部間違いだって
言うのかよ」
「言わない」
七村は、静かに言う。
「お前は、
必要だった」
一色が顔を上げる。
「……何に」
「この世界に」
七村は、視線を逸らさない。
「お前がいなければ、
誰も“決める”怖さを
引き受けなかった」
一色は、苦笑する。
「引き受けすぎた気もするけどな」
「そうだな」
七村は、否定しない。
一色は、少し黙る。
そして、最後の手を出す。
「じゃあさ」
声を低くする。
「次はどうだ」
七村の眉が、ほんのわずかに動く。
「次も、
見ないつもりか?」
七村は、すぐには答えない。
魔女の間が、
少しだけ張り詰める。
「……分からない」
七村は言う。
それは、
今までで一番踏み込んだ言葉だった。
一色は、
小さく笑う。
「ほら」
勝ち誇るでもなく。
「言いくるめられる
余地、あったじゃん」
七村は、
わずかに息を吐く。
「余地があることと、
動くことは別だ」
「分かってる」
一色は言う。
「でもさ」
王冠のあった場所を見る。
「余地がなきゃ、
次は選べない」
七村は、答えない。
だが、
否定もしなかった。
二人は、
同じ場所に立っている。
同じ答えには、
まだ辿り着いていない。
それでも、
議論は終わっていなかった。
ここからだ。




