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第十七章 改札の手前
駅の空気は、少し乾いていた。
人の流れに合わせて歩く。
急ぐ理由はない。
遅れる理由もない。
時間は、
ちゃんと余っている。
短い髪が、
歩くたびに首元に触れる。
切ってから、
もう何度も感じた感触だ。
軽くなったわけではない。
ただ、
揺れなくなった。
それでよかった。
改札が見える。
音。
光。
通り抜ける人。
約束した場所は、
その少し手前だった。
立ち止まる。
周囲を見るが、
探すというほどではない。
来ているかどうかを、
まだ決めなくていい。
決めるのは、
立ってからでいい。
雪乃は、
バッグの紐を持ち直す。
指先に伝わる感触は、
確かだった。
ここまで来た。
それだけで、
十分だと思えた。
一色の顔を、
思い浮かべない。
思い浮かべれば、
確認になってしまう。
約束は、
確認するためのものではない。
改札の音が、
少し近づく。
足を出せば、
すぐにあの場所だ。
雪乃は、
一度だけ息を吸う。
逃げるためではない。
覚悟のためでもない。
歩くためだ。
誰が待っているかは、
まだ知らない。
それでいい。
雪乃は、
改札の手前へ向かう。
その先に、
同じ時間を
別の場所で過ごしている誰かがいることを、
知らないまま。
当日は、
まだ続いていた。
すれ違いが、
完成する直前まで。




