第十六章 待っている側
見えている。
改札の前。
約束した場所。
人の流れの中で、
確かに一人、立っている。
——俺だ。
制服で、
鞄を下げて、
少しだけ前屈みで。
待っている。
間違いなく、
待っている姿だ。
足も動いていない。
視線も、
逃げていない。
だから分かる。
俺は、
そこに立っていた。
ちゃんと、
約束を守っていた。
「——おい!」
声が出た。
はっきりと。
喉も、
胸も、
使って。
「俺は、
ここにいる!」
もう一度、
叫ぶ。
「待ってる!
ちゃんと、
待ってるんだ!」
声は、
確かに出ている。
でも、
届かない。
人の流れは続き、
改札は鳴り、
時間だけが進む。
俺の声だけが、
世界の外側に落ちていく。
向こうの俺は、
何も聞かない。
聞こえていない。
それでも、
立っている。
逃げていない。
遅れていない。
ただ、
届かないだけだ。
——違う。
ここにいるのは、
俺だ。
あそこにいるのも、
俺だ。
どちらも本物で、
どちらも、
雪乃を待っている。
なのに、
同じ場所に立てない。
声を出す。
何度も。
意味になる前の音が、
喉から落ちる。
祝福も、
選択も、
もういらない。
ただ、
伝えたかった。
俺は、
確かに待っていた。
それだけを。
世界は、
何も答えない。
それでも、
向こうの俺は立っている。
だから、
俺も立っている。
待つという行為だけが、
両方に残っていた。
届かないまま。




