第十三章 同じ時間
一色は、その日を特別だとは思っていなかった。
朝は来て、
制服を着て、
学校へ行く。
いつも通りだ。
違うのは、
どこにも向かわないと決めていることだけだった。
旧校舎にも、
駅の方にも、
近づかない。
約束の日までは、
そこへ行く理由がない。
それが、
正しい判断だと思えた。
授業中、
教師の声は途切れなく届く。
内容も、
順序も、
分かりやすい。
理解に時間がかからない。
——問題ない。
その感覚が、
少しだけ怖い。
昼休み、
クラスメイトが笑っている。
一色は、
その輪に入らない。
入らなくても、
困らないからだ。
誰かに声をかけられて、
短く返す。
会話は成立する。
それ以上、
続かない。
それでいい。
放課後、
校門を出る。
風が吹く。
首元に、
冷たさを感じた気がして、
一色は一瞬だけ立ち止まる。
理由は分からない。
ただ、
何かが変わった場所に
触れたような感覚だった。
振り返る。
もちろん、
誰もいない。
——気のせいだ。
そう結論づけて、
歩き出す。
帰り道、
理髪店の前を通る。
ガラス越しに、
椅子と鏡が見える。
一色は、
それを見ない。
見れば、
何かを想像してしまう。
想像すれば、
形を与えてしまう。
今日は、
そういう日ではない。
家に帰る。
玄関で靴を脱ぎ、
部屋へ向かう。
机に向かい、
やるべきことを片づける。
迷うことはない。
どれも、
正しい順番で進む。
夜、
ベッドに横になる。
夢は、
見ない。
それでも、
眠る直前、
一瞬だけ思う。
——今、
同じ時間を
誰かが
別の場所で過ごしている。
その誰かの顔を、
思い浮かべようとして、
やめる。
思い浮かべれば、
確認になってしまう。
一色は、
目を閉じる。
同じ時間は、
確かに流れている。
けれど、
交わってはいなかった。
それで、
問題はない。
少なくとも、
この時点では。




