第十一章 切ったあとの時間
切ったあとも、
時間はそのまま流れていた。
朝は来る。
昼も来る。
夜も来る。
特別な区切りは、
どこにもなかった。
短くなった髪は、
何かを主張するわけでもなく、
ただ、そこにあった。
首元に触れるたび、
少しだけ現実を思い出す。
それだけだ。
家の中は変わらない。
テレビの音。
低い音量。
言葉だけが流れていく。
誰かが気づいているのか、
いないのか。
確かめる必要はなかった。
切ったことは、
報告するものではない。
説明も、
選択も、
もう終わっている。
制服を着る。
外に出る日まで、
それは続く。
学校に行くためではなく、
同じ形でいるため。
違ってしまったことを、
わざわざ示す理由はなかった。
旧校舎には近づかない。
そこは、
もう立つ場所ではない。
駅の方角を見て、
目を逸らす。
まだ、
そこへ行く時間ではない。
約束は、
決まっている。
動かす必要がないほど、
はっきりと。
その日が来るまでは、
何も足さない。
何も減らさない。
切ったあとの時間は、
準備の時間ではなかった。
ただ、
出ていく前の時間だった。
夜が来る。
部屋に戻る。
机の引き出しには、
触れない。
そこにあるものは、
まだ取り出す時ではない。
雪乃は、
鏡を見なかった。
見なくても、
分かっている。
誰かに似ていないこと。
選ばれないまま、
ここにいること。
それで、
十分だった。
切ったあとの時間は、
静かに畳まれていく。
やがて、
取り出す日が来る。




