表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

4、私は痛みに悶えている


私は今、痛みに悶えている。


苦しくて、それに嘆いている。



ぐわん、ぐわん、ぐわん。


くらくら、ふわふわ…



歪んで見える君のこと。


あれ?



そうだ、早く薬を飲まないと。


ごくんと飲み込めばそれはもう、数分で痛みは引いていく。


ふわふわするのはもう慣れた。


私は今も夢を見ている。






重い体を引き摺って、部屋の前まで来た。


義兄に、新人たちの履歴書を貰ってぼーっとそれを眺める。



今日はぽーっとする日。


眠い日、体調が良くない日?



「…ねむい」



小さく欠伸をする。


そこから数分履歴書を眺めていれば、くらりとする。



あれ、薬は?



そうやった思った瞬間、私の肩に誰かの手が置かれる。


「ルエ、なにか気づけた?」



え?



義兄だ。いつからここに?



先程までいなかったし、許可も貰ったし、私は悪いことはしてない…よね?



義兄は私の頬に触れる。


そしてじっとこちらを見つめる。



「…ぁ」


少し、たじろいでしまった。


べつに後ろめたいことなんてないはずなのに。


後ろめたいことなんて…ない、よね?




義兄はまた、私の額に手を当てる。


「…熱ある?」



私は困惑した。


「ぇ…?」



熱、熱…ねつ、…?


ゆめぐすりはそういう症状を無くせるんじゃなかったのか。


私は困惑しながら義兄から体温計を貰う。


「…ほら、測りなよ。」



渡された体温計は数分かかるようで、その間は互いに沈黙していた。



気まずいな、なんて思いながら私は義兄を眺めていた。


義兄はあの殺意の目を私に向けてきたことは無いが、見たことは沢山ある。


だからこそ、怖いのかもしれない。



ぐるぐるぐる…濁った瞳。


あれには会いたくない。




ピピピピ…ピピピピ…



「あ、…37.9 。」


見てみれば普通に熱がある。



おかしいな、私の薬、まだまだ完璧じゃないのか。


私はノートを手に取ったが、義兄に腕を掴まれる。



「今日は寝なよ。倒れて欲しくないからね。」



ギラギラした瞳。


「ぁ、…はい。」



義兄は私の手を引っ張って部屋を出る。




そして、いつもの義兄の部屋にはいる。


まぁ、恐れ多くて入りにくい上司の部屋というわけで。



とりあえず私は義兄によって家に帰らされた。





義兄の車に乗っていつも通勤しているし、義兄と同じマンションに住んでいる。


私たちにタワマンがそこまで「住もう!」となるほどの価値があるとは思えなかった。



正直金はある。


だが、義兄も私もそれは無駄だと感じたわけだ。





そして、義兄だけは、車の免許を持っているが、私は持っていない。


まぁ、別にいいなと今も思う。



「ほら、歩ける?」



マンションの前に停めて、義兄が先に車から出る。


そうして、私に手を差し出してくれる。



「ぁ、うん…。」


私の手を引いてエレベーターのボタンを押す。



そして、私に向かって笑う。


「もう少しだからね。」



エレベーターが開いて互いにまた沈黙する。


気まずかった。



今は少し寒い気もするが、これが外のせいなのか、寒気なのか区別はつかなかった。





「…薬。まだ、完璧じゃない。」


義兄は私がベッドに入り込むのを見てから栄養のある食べ物とやらを買うために外へ出て行った。





私はその間こっそり、ノートを開く。


そして、薬について書き出す。



ゆめぐすり


ふわふわする、痛みは治る、寧ろ無くなる。


追加 風邪、とかそういうのには効かない?熱出る。



→風邪をひいてもしあわせぐすりと違って変な勇気?みたいなのは出ない。





変な勇気とは、赤井さんや、三浦さんみたいに自殺する勇気が出てしまうことだ。



ただ、それが私にはよく分からないし、飲んだことがない。


だから、少し浅いかもしれないが、多分変な勇気が出てしまうんだと思う。


優柔不断なのを治してしまうような?




これはあくまで憶測。



あとね、義兄には伝えてないけど私、三浦さんと赤井さん、2人殺してるんだよ。



多分1人しか殺してないと思っているけどその前、もうずっと前から私は犯罪者だ。




だから、私とあなたは一緒なんだ。




でも確かに、自分が直接手を下したか、と言われると下したとも言えるし、下してないとも言える。



結局どっちなんだろう。







薬は、家にはない、だけど一日中効く。


依存しやすいかもしれないけど、それで夢が見れるなら本望。


痛みもなくなるら本当に幸せだ、と私は思う。




私は少し、眠りにつくことにした。







お父さん、お母さん、どうしてそんなに荒れてるの?


おかしいなぁ。



私が夢見たのはこんなものじゃないのに。





私のことをお義兄ちゃんだけがまもってくれる。


いつもそれだけ。



あれは、家族じゃないんだろうな。




私のまやかし。






「…?」



もう午後だった。目の前には義兄。


義兄は椅子に座ったまま眠っている。


小さな寝息を立てている。



なんで誰とも付き合わないんだろうかなんて、ふと思う。



私と同じでめんどくさいと思っているからなのだろうか。




思考を放棄して私はとりあえずもう一度眠ることにした。


私の小さめな手と義兄の白い綺麗な手が繋がれていた。






数日すれば熱は治まる。


そうだ、ゲームをしてみようか。



確か、三浦さんが言ってた気がする。


娘ががこんなゲームしてるとかなんとか。



私はとりあえずパソコンに電源を入れる。



確か、悪役なんとか…???



忘れた。




私は会社の部屋から絶対に出さないようにしているゆめぐすりを飲みたくて仕方がなかった。







ゆめぐすり


ふわふわする、痛みは治る、寧ろ無くなる。


追加 風邪、とかそういうのには効かない?熱出る。



→風邪をひいてもしあわせぐすりと違って変な勇気?みたいなのは出ない。


飲まない方が調子がいい?


でも頭はずっと痛い。




私はぼーっとしながら無理やりノートに書き殴った。


私にとって頭痛がいちばん嫌いな痛みかもしれない。



いや、もっと辛いものを体験していないからそう言えるだけなのか。







そういえば履歴書に私と同い年の人がいたはずだ。


傘下さん。



苗字はちょっとあれだが、これでも『かさした』と読む。



彼女は私に突然話しかけてきて、「みいし、るえ…さん?」


私の苗字は独特だからまぁ、たしかに読みに困りそうではある。


そして彼女は私に毎日話しかけてきて、変なアプリを強要してくるわけだ。



別ベクトルでめんどくさい。



「ルエさん、このアプリ知ってますか?たくさんの人と出会えるんですよ?」


私に堂々と見せつけて287人という、脅威のフォロワーを見せつけてきた。



なぜ脅威かと言うと、フォローされているだけで、1人もフォローバックしていないからである。



すごいと思う。


「投稿してるんですか?」


そう聞けば、嬉しそうに話し始める。



「はい、良くカフェだったりお店の写真を上げてます。」



なるほど、まぁ私は知っている。


「そうなんですね、自撮りとかも上げてるんですか?」


私は知らん振りをしながら聞く。


「たまに、ですけどね。こんな歳じゃ、もうおばさんって言われちゃうからほぼ投稿はしませんけど。」



ん?それは私にもダメージが来るのだが。


彼女のアカウントをちらりと見れば『雨ちゃん』という名前でやっているらしい。



彼女は恥ずかしそうに笑った後私から去っていった。


私は納得した。


「なるほど、自慢がしたかったのか。」




私はアプリを入れて『雨ちゃん』と検索する。


他の人もヒットするが、見てみればこりゃ酷い。


加工の嵐である。



別に加工を否定はしないが、確実にさっきの人が傘下さんだとは気づけない、と思う。



カフェの写真だって最初の数回だけ。


数字が伸びなかったんだろうな。


あれも、承認欲求、自己顕示欲の塊なんだなと理解する。



とりあえず私は彼女のアカウントをフォローしておいた。





私の目標は幸せを見つけること。


幸せになれる薬を作ること。



そのためならなんだって惜しまない。


人の命でさえも。


そのあとの人達が幸せになれるならそれでいいでしょう?



そして、痛みを無くせること。



私の目標は幸せになれることだから。



欲を満たせればいい、そう考えたわけだ。





くらくらくら。


久しぶりの会社。



頭が痛くてしょうがなかった。


早く部屋に行かないと。



「あ、ルエさん!」


傘下さんだった。



「何かありましたか?」


部署は別、私はある意味浮いているだろうから、私に話しかける理由がほかにあるのだと思う。


「今日、お昼一緒に食べませんか?私の友人たちもいるんですけど…」




私は笑った。


「すいません、私お昼いつも食べないんですよ。」



この人達と食べたくはなかった。


ひとりでゆったりと食べるのが、私の小さな幸せ?なのだと思う。






とりあえず私は目標のために今を生きる。


目標がなくなったらどうするかって?



さぁ、どうするんだろう。



生きる意味が無くなるってことだから…。


私は目をそらすことにした。




まだ、少しの間は生きる理由があるから、それに縋って私は今を生きるんだ。



限界になったら私は逃げるんだろうな。


私はノートに、また書き留めた。





読んでいただきありがとうございます。

良ければ感想やブックマーク、レビュー、評価等お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ