3、私はいつも逃げている
私はいつもそうだ。
こうやって逃げているから何も出来ない。
ふわふわした感覚に勝てない。
生きている?夢を見ている?
私は今日も夢を見ている。
早く飲まなきゃ、切れちゃう。
怖い怖い現実から逃げて、今日も夢を見に行く。
なんてね、全部全部冗談。なんてね。
…
『助けて欲しい』というメールから2週間ほどたって、今日はついにKと言う彼に会う日。
電車に乗って廃墟の『秘密の家』の前まで来た。
ここは私の2つ目の家のようなもの。
ここでぼーっとしていれば、本当に高校生っぽい青年が私のところまで来た。
「あの、ルエさんですか…?」
私に自信なさげに聞く。
今日は暑いのに何故か彼は上着まで来て、手をすっぽり隠している。
「うん、私がルエ。その上着暑そうだね。」
私は軽く雑談する。それに対し彼は苦笑いする。
「そうですかね、僕は結構寒くて…」
私はにこりと笑って聞いてみた。
「そういえばさ、妹いないよね?」
彼の顔が歪んだ。
「さっきから何が言いたいんですか。」
私はスっと、薬をだす。
「これ、お父さんとお母さんに飲ませなよ。」
私は悪意を飲み込んで善意として彼に差し出す。
震えながら彼の手が私の薬をとる。
見えたのは赤い線だった。
リストカットしているのも、オーバードーズしてるのも全部君じゃないか。
可哀想に、私が助けてあげる。
「じゃ、ばいばい。」
私は彼の手をぎゅっと握って少し頭を撫でてから笑う。
彼は困惑しながら帰って行った。
私は彼のリストカットも、オーバードーズも何もかも無視して見なかったことにした。
ただ、それだけあればしあわせになれるよ。
『たぶん』って、悪魔が笑った。
…
次の日、私は女子トイレで手を洗っていた。
そうすれば、突然バシャリと水をかけられる。
赤井さんのとこの先輩方だ。何人かいないのはわかるが、名前は一人も分からない。
べしゃりとつぶれた髪をサッとかき上げる。
「何か用ですか。」
私はそう言ってにこりと笑うだけ。
先輩方はくすくすと笑って私に言った。
「醜いわね、あなた。あなたのこと嫌いだったのよね。上司にも優しくされて本当に、大っ嫌いだった。」
なにそれ。
私の瞳が彼女たちをじっと見つめる。
爛々と輝く瞳、私の殺意の目。
これだけ義兄と一緒な気がする。
もちろん、血は繋がってないけれど。
あはは、人間を殺すのに毎回薬なんていらない。
こいつらに幸せなんていらない。
きっとそういうこと!
ニセモノなんだ!
私は廊下へ出ていった。
…
私はぼーっと空を見る。
そういえば義兄は体に痣をつけて帰ってきたことがあった。
その時、殴られたんだと笑って言っていた。
慰めて欲しいなんて言われて、私は良く分からないまま、「いたいの、いたいの飛んでいけ!」って言った。
それに、義兄の顔は綺麗だと思う。
だからなのか、義兄の顔以外に痣があった。
頭に1発受けたのか、痛そうだと思いながら私は痛み止めを渡した。
その数日後くらいから、父は母を殴り出した。
そしてその数日後に母に私も殴られるようになった。
義兄だけが怪我していなかった。と、当時の私は思っていた。
悔しかったし、憎たらしかった。
でも、慰めてくれるし、優しかった。
だけど、こうかもしれないと私は思うようになる。
義兄は出会った時も傷はあった。
だが、義兄がくれた痛み止めはおかしいくらいに効く。
義兄は父に殴られていたけれど、あの痛み止めで誤魔化してたんじゃないかって。
私はあれを『やみぐすり』と呼んでいる。
義兄が親に薬を飲ませることを喜んでいたのも、殴られていたからじゃないのかと私は今も思っている。
真相は闇の中、だが。
もしかしたら、父が母を殴ったのも義兄が父に殴られているという、事実を私に伝えてしまったと思ったからとか…?
まぁ、気のせいだといいね。
あれ?なんだっけ。
そうだ、水かけられたんだ。
早く乾かさないと。
…
もしかしたら、彼は助かっているかもしれないし助かっていないかもしれない。
私はそのアプリを開く。
チャット…彼からの連絡は何も無い。
「あ、ルエさん!あのアプリどうなりました?」
今日は友好的な日だなと思う。
「いや、誰とも話してないですけど。」
私のことをジト目で見てくる赤井さん。
「ルエさん、やっぱネットでも友達できないんですねー、可哀想ですね、私なんか67人も友達になってくれましたよ!」
うるさいな、いつも通り。
「で、毎日その中で連絡してる人は?」
私がそう聞けば悔しそうに言う。
「2人…です。」
ダメじゃん。そんなこと思いながら私はアプリを開く。
「あ、友達申請しときましたよ!」
赤井さんが笑う。
そういえば赤井さん、最近やつれてる気がする。
「赤井さん、痩せすぎじゃないですか?」
その途端、赤井さんがキッとこちらを睨む。
「みんな言うんですよ!私の事痩せすぎってルエさんもそういうこと言うんですね!…私が望んでやってるんです、そういうことは言わなくていいです。あなたは親なんですか?違いますよね??だから、こういうt……」
うるさい。
私は全て無視をした。
「あ、通知。」
私のスマホには、2件ほど通知が来ていた。
『紅井リンさんとお友達なんですよね!仲良くしてください!』みたいなニュアンスの文が2つ。
「あかい、りん?でやってるの?」
赤井さんはかぁぁっと顔を赤らめて「もう知りません!」とかいいながら出ていった。
彼女、今日は寝坊したのかな。
服がいつもよりだらしない。
そういえばあげた薬、今日から量が増えたのか。
なるほど。
私は知らんふりをした。
…
あれ、おかしいなぁ。
違う、この世界は私が望んでない。
ふわふわした感覚が無くなる。
現実に来ちゃった?
…
赤井リンの投稿には所謂病みアピ投稿が多かった。
『今日も虐められた、ガン萎え』とか、『彼氏くれ(涙)』とか『愛して欲しい』『慰めて…』『好きぴ欲しすぎる』『マジむり』だったりとエトセトラ、エトセトラ。
こう、承認欲求の塊だなってよくわかるようなのばかり。
つまらないな。
…
Kとなっていたアイコン名が、カズキになっていた。
そして、突然彼からの連絡。
『どうしてくれるんですか。』
それだけ。
『ん?…どうしたの?』
私もそれだけ。
『嘘つき。』
彼の言葉に困惑する。私は頭にハテナを浮かべた。
『私、嘘は言ってないよ。助けてあげたじゃん。』
彼は『…たしかに助けられはしましたね。』と、言う。
そして、私に一言『親は死にました。』だけ。
私は『そっか。』とだけ返して知らんふりした。
私は君だけを助けてあげた。
私は悪くないんだ。
だってなんでか分からないけど既視感あったから。
じゃ、おやすみなさい。
彼のアカウントをブロックしようとする。
『このアカウントをブロックしますか?』と画面に表示される。
私は『はい』をおす。
『本当に?』
私は『はい』を押す。
『このアカウントとは連絡ができなくなります。また、このアカウントの投稿も出てくることはありません。』
なるほど、さようなら。
私は自分のアカウントを削除した。
私は、こんなアプリ入れたこともないし、見たこともない。
存在も知らない。
だから、さようなら。
…
私が出勤すれば女性の悲鳴が聞こえた。
興味が無いので私は無視をする。
部屋に入った途端、目の前には義兄がいた。
「やっと来たね、ルエ。」
にこりと笑った義兄はゆっくりと話し出した。
「そろそろね、部署を潰そうと思って。ルエが助けて欲しいって言わないから困ってたんだよ。でも流石に僕が耐えきれない。だから、今回は僕の一存で消すことにした。」
蘭々と輝く殺意の目。
「ぁ、…え、?」
バレてた?
嫌がらせも、すべて??
「もちろん、水をかけられたのも知ってるし、嫌がらせされてたのも知ってる。僕はルエの家族だからね。」
ということは。
「ぇ、薬の実験は…」
私の言いたいことはわかるだろう。
義兄は笑う。
「自殺に見せ掛けて殺しちゃった。ごめんね。」
嬉しいような、でも残念だ。
私が手を下していないのに、いつも義兄は勝手に手を下す。
だから、義兄にだけ重い罪を背負っている。
私は何もしてこなかった。
逃げてきたから。
「…じゃあ…。」
私に向かって微笑んだ。
「安心して、もちろん何人かには目をつけてるから。」
私はほっとした。実験ができる!
現実逃避をした。
とりあえず、赤井さんが死んだ、その先輩たちも死んだ。
それだけは理解した。
皆さん、さようなら。
…
でも、どんな事があっても、メルちゃんだけは何も知らないのだからぶれることは無い。
『ルエ、薬もうちょっとくれない?その分2倍であげるから。』
私は変わらないメルちゃんに安心する。
『わかった。交渉成立。』
それだけ送ってまた、梱包する。
…
私は分かっている。
私と義兄はまた、人を殺し、人を動かすのだろう。
でも、しーらない。
私はゆめぐすりをのみこんだ。
また、薬を作り続けるのだろう。
おやすみなさい、赤井さん。
義兄は優しい嘘をついたんだ。
私は知ってる。
赤井さんを殺したのは私。
…
「あーあ、成功しちゃった。ルエの思い通り、赤井さんは自分から死んじゃった。…まぁ、分かってたんだけど。」
彼女は家で首を絞めて自殺していたようだ。
恋人と別れたらしいし。
まぁ、それでかなぁ。
しかし、分かることがひとつある。
彼女に彼氏はいないってこと。
多分、ルエの薬のせい。
僕が殺してもないし、ルエが殺したってことか。
これで、僕ら家族は全員犯罪者ってことだと理解する。
「…まぁいいか、さようなら。」
死体を全て燃やした。
今日も猫をかぶる。
「はじめまして、よろしくね。」
そう言ってにこりと笑えば僕に皆、頬を染める。
それに新人たちは意気込んでここに来てくれる。
まぁ、実験体になれそうな人間だけきっちり選んであるからね。
ルエの為にも。
これからよろしくね。
…
「「頭の弱いおバカさんたち」」
私とあなたは今日もここで嗤う。
読んでいただきありがとうございます。
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