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2、私は今を生きている


私は今を生きている。


それは誰もが誰も知る事実?


いや、それは誰もが知る事実では無い。


私を知らない人だっているのだから。




クラクラした目眩のために、頭痛のために、私は薬を飲み込もうとする。


それと最近、吐き気が酷い。


早く飲まなきゃ。



私は今も夢を見ている。






善意は悪意にもなり得るのだろうか。





『メルちゃん』から連絡が来ている。



読んでみれば二言だけ。


『薬、出来た?送ってくれない?』



それだけだった。


とりあえず私は返事をした。



『わかった、送るね。前回の薬どうだった?』


それだけ。



私もメルちゃんもきっとそういうのを望んでる。


私はダンボールに薬を丁寧に梱包した。





小さい頃の私は愚かだったと思う。



私の親は研究者と薬剤師の家。


父が研究者、母は薬剤師だった。



父に着いてきたのが義兄で母に着いてきたのが私。




父も母も1度離婚しているわけで、私が3歳、義兄が5歳の時、初めて出会ったわけだ。


だから、小さい頃からいつも義兄がいた。




あの人に勝てないと初めて思った。


いつでも義兄の瞳は怖い。



「どうしたの?ルエ。」


いつも笑ってるくせして笑ってない。


父も母もそうだ、笑ってるのに笑ってない。



突然酒を飲んでいた温厚な父は優しい母を殴った。



優しい母は初めて温厚なはずの父を怒らせた。


優しかったはずの母は何も知らない私を叩いた。



よく分からない義兄はそれを眺めてた。



義兄はただ母に叩かれた私を慰めるだけ。


私は何かを刷り込まれているような気がして嫌だった。




途中までは幸せだったはずなのにな。



偽りのしあわせ。


ほんとうのしあわせ、みつけなくちゃ。






ぼーっとしていた。


あれ、なんだっけ?


実験は?どこまで進んだっけ?





「ルエさん!ルエさん!」


ハッとして目の前居たのは赤井さんだ。


最近彼女は私に優しくなったように思う。


うるさいのは変わらないけれど。



「私最近、彼氏できたんですよ!」



彼女は綺麗になっていた。


肌はプルつや?で、とぅるとぅる?というやつだ。


しかも、前より痩せて、モデル体型になっている。



服や靴も前よりオシャレだ。


あ、この靴、めっちゃ有名なブランドのやつだ。


義兄が私に買ってくれた靴と同じブランド。


そんなに彼氏は彼女に貢いでくれるのか。



いいな。


私も欲しいな。


でも、前回は邪魔だったんだ。



でも、欲しい。



欲しい、なんてね。



私はとりあえず、彼女に笑いかけた。


「良かったね、羨ましいな。」



なんてね、全部全部、冗談だけど。





私、薬飲んでから調子がいいの!


そう、おかしいくらいに。




彼氏が出来ちゃった!ルエさんにも伝えられたし!


今日もいい日。






私は、薬に、見えない幸せに、恋をした。


それくらい今でも薬が好き、幸せが好き。



私は母に初めて頭を殴られた時、なにかに気づいたんだ。




ぐわん、ぐわん、いたい、いたい。


かなしい、くるしい。




これはお母さんじゃない。


偽物なんだって。




ニセモノは幸せになれないんだ!


私頭痛に耐えきれなくて、義兄に痛み止めを貰った。



薬を飲んだのは初めてじゃなかったけれど、自意識が芽生えてからは初めての薬だった。




初めての時は痛みで泣いていた。


だけどもう慣れたのか、何回叩かれても泣かなくなった。


私は突然頭がスッキリしたのだ。


義兄がくれる薬は苦しかった痛みが治まり私は感動してしまうくらいだった。



市販薬なのに?



こんなに薬が有能なんだって!


こんなにすごいんだっ!



お父さん、お母さんも薬で治してあげればいい!




そこで義兄に聞いてみたのだ。



「薬でお父さんとお母さんを治してあげられると思うんだ。」


そして、本当に笑っていない義兄のことも。



義兄は顔だけにこりと笑った。


『ルエがそう思うならやってみればいいよ。』



私の欲しい答えをくれなくて落胆した。


優しいけど、そういう所が冷たいんだと私は思う。



あ、お母さんが帰ってきた。


怒ってる。


お母さんの手は私の髪を掴む。



あ、顔、殴られる。





あれ?


私はベッドの上で飛び起きた。



「…っは?」



夢だったらしい。汗がだくだくだ。


私の手は震えている。



あれ、なんだっけ?



あぁそうだ。


初めての実験は大失敗だったから。


できるだけ失敗は成功に変えないとね。



写真立てには私と義兄が映っている。


うん、いつも通り。






ふわふわした感覚は私の意思を殺す。


君とまた小さな公園で笑いあっている。



パパとママが私たちを呼んでいる。



早く帰らなきゃ。






「ルエさんも入れましょ?ね?ルエさん、お友達全然いなさそうだし、いいねされるだけで承認欲求満たされるんですよ!!やりましょ???」


うるさい。



突然だが、私は世界中の人とチャットができるようなアプリを入れる羽目になった。


あまり興味は無かったが、赤井さんがうるさい。


とりあえずインストールすれば、『あなたについて教えてください』という文字が出てくる。




『名前、年齢、趣味』など打ち込む必要があるみたいだ。


それに+αで自己紹介。



しょうがないから『ルエ』と打ち込み、『18』と数字を入れる。


趣味は…なんだろ。




『人間観察?』『幸せについて知ること?』『薬について?』



あぁ、わかった。



趣味を空欄にして、自己紹介の欄に『薬剤師やってます。悩み相談聞きたいです。』


それだけ入れる。


そして私のアカウントが完成した。



赤井さんは満足したのか、去っていった。


なんだあの人。




とりあえず、投稿されている写真やメッセージを眺めてはスクロールし、そのアカウントを見に行く。



『愛して欲しい』『独占欲強い』『自撮り写真』

『好き』『嫌い』『晒し』『承認欲求』



つまらない。なんだこれ。


とりあえず私は何も投稿せず放置しようとした。



その瞬間ブブッとバイブ音がなる。


「なんだろ。」


私が画面を開いてみればチャット画面に1件の通知がなる。



『助けてください。』


それだけ。



『詳細、教えてください。』


だから、私もそれだけ。


相手のアカウントを見れば『K』という名前だ。


『つらい』『助けて』とか、『学生です、悩みを聞いてください。』とか。



あんまり期待はしてない。


だって嘘を打ち込めるし、信頼は1ミリもない。


とりあえず、詳細を聞こう。



直ぐに既読が着いたのか、すごい量の内容が来た。


主に、『親に殴られてる』とか。『そういう行為を強いられてる』とか。『妹はOD、リスカをしている』だとか。


既視感があるが、とりあえず大変そうだなって思う。


私の欲しい言葉、くれるかな?



最後に一言書かれているのを見る。


『お願いです、助けてください。』



いいね。


私はものすごく嬉しくなった。


そうだね、助けてあげよう。



『どこ住んでますか?』とだけ、私は聞く。


そうすれば返事が返ってきたので、直ぐに返す。


『この日に、この場所で。』


私は簡潔に答えて、とりあえず放置した。



最後に『分かりました』とだけ返事が来たのを見て、またほかの投稿を眺めた。



面白いような、面白くないような。


よくわかんない。





ぐすぐすと鳴き声とともに嗚咽音が聞こえる。


誰だろう。




善意は悪意と受け取られることもあるから、悩みどころだよね。


私は狂ってしまった親に薬を渡した。


最初の実験であり親への最初のプレゼント。


100パーセント純粋な善意。


だけれど、親たちはその薬に依存し、よりおかしくなった。


部屋から出てこなくなって、義兄と私だけで生活してるような状態。



母も父も、薬物乱用で死んだ。



知らないお兄さんが私の悩みを聞いてくれてお父さんとお母さんにあげなさいと渡してくれた薬。


「しあわせになれるよ」って言われた。



後でわかった、あれは麻薬だったらしい。


何も思わなかった。悲しくもないし、嬉しくもない。


当たり前だと思った。




お兄さんは捕まらなかった。


お兄さんからすれば多分悪意があったんだろう。




お兄さんの言いたかったことは「しあわせになれるよ。(たぶん)」ってこと。


確か、お兄さんからは鈴の音がした。



その後、義兄は警察の前でだけ悲しそうにしていたが、大人たちが居なくなった瞬間、いつも通り怪しく笑っていた。


私たちだけになってから、家族写真も2人。



気づけば義兄はどこからかお金を手に入れてきて、遂には「引っ越そうか」と私の手を引いた。




私は薬を渡す時、義兄に聞いた。


義兄は否定しなかった。むしろ喜んだ。


だから、何も違わないと思ったんだ。



後悔はしてない。



自分から動かないと助けなんてないんだと。


私はその時ひとつ理解したわけだ。





えーっとなんだっけ?


あ、そうだった。



大変だね、赤井さん。


廊下の隅で赤井さんは泣いていた。


私は無視して部屋に戻った。







赤井さんは次の日から私に対しての当たりがまた強くなった。


ストレス発散だろうなと思いながら無視した。



何故かその日は怒鳴られた。


またぷりぷりと頬を膨らませ涙を貯めながら。



うるさいな。





苦しい、苦しい。



毎回虐められるのは私だけ。


ルエさんのおかげで調子は良くなった。



だけど、虐められるのは変わらないし悪化している。



なんで?


ねぇなんでよ。



私のどこが悪いの?



それなら、ルエさんの方がよっぽどヒーローだ。






義兄は私の前で久しぶりに怒っている。



理由としてはもちろん、赤井さんの部署の先輩方が今、乱入してきたからである。



義兄の苗字は表向き見石となっている、私は未意思。


分かりにくいからかみんな、義兄のことを苗字、私のことを名前で呼ぶ。




そして、義理ではあるが兄妹なことも知らないだろう。



「見石さん、最近ルエさんとお付き合いしてるって聞いたんですけど…本当ですか?」


「私心配ですぅ〜!」


「ルエさん、病気なんでしょ〜?私知ってますからね?」



なんてほざくから、義兄がキレている。


私、病気なのか?


まぁ、たしかに頭痛持ちだし否定しないが。




「ルエさんは帰ってていよ。」


義兄はにこりと笑って私を部屋の外へ押し出した。


「あ、はい。」





後日知ったが彼女たちはやめたらしい。


義兄は強し。


その日、義兄が笑顔なのは知らなかったことにしておこう。



とりあえず私は幸せの研究をしようと思う。







最近、私に友好的になった気もする。


赤井さん、私のことどう思ってるんだろ。



静かな方が個人的にはありがたいし。


薬、そろそろかな。




三浦さんには過剰に、赤井さんには少なめに。


私はちゃんと生きている。



私はまた、ノートを開いた。






読んでいただきありがとうございます。

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