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1、私は夢を見ている



ずっと幸せだと思っていた。だが、そんなことは無かった。


だから気づいた、自分で作ればいいんだって。



私は頭痛を抑えるため、自作した『ゆめぐすり』を飲みこんだ。頭痛がすっと治まる。



私は今もまた、夢を見ているのだ。



試験管とにらめっこをしながら調合していく。



「…これと、これ。」



私はルエ、幸せとは何かを調べる研究者。今日も幸せのために、今を生きるのだ。





私は完成した薬を渡した。


「三浦さん、これどうですか?」



これはただの痛み止め。簡単に作れる、けれど三浦さんには大切なものだ。


彼女は頭痛に悩まされているから。



三浦さんは私に向かってくすりと笑う。


「あら、未意思さんありがとう。」



私も笑いかける。


「いえいえ、気にしないでください。」



そして沈黙が流れた。




「…」


私は再度、手を動かし始める。



「ねぇ、…私のために、もうひとつ調合して欲しいの。」


私が拒否する理由はなかった。


それで幸せになれるのならいくらでも作って見せよう。



だから、私は頷いた。


「はい、了解しました。」



小さな小瓶をまた手に取って。みんなが幸せになるための薬を作るんだ。





数日した頃に、やっと完成した。『しあわせぐすり』だ。



私は三浦さんに再度薬を渡しに行く。


「…やったぁ、ありがとう!最近常備薬の効きが悪くって。市販薬ってダメなのかしら。」



研究者なくせして何言ってるのか。そんなことを思いながら彼女の手に薬の袋を乗せた。



「市販薬だってきっと、効くものもありますよ。」


私はにこりと笑った。



「この薬、副作用はできるだけ減らしましたよ。他になにか欲しいものがあれば言ってくださいね。」



三浦さんに渡した『しあわせぐすり』喜んでもらえるだろうか。


「ありがとう、ルエちゃん。私嬉しいわ。ルエちゃんが作る薬っていつもピンクで可愛らしい色をしてるわよね。」



私は少し嬉しくなった。でも、どこが可愛らしいのだろう?


ピンク?



この薬はいつだって灰色だ。



「喜んでいただけて何よりです。」


私はとりあえずにこりと笑う。



「頭痛、治るといいですね。」



彼女は最近変わったと思う。多分少し仲が深まったということでいいのだろう。




「ありがと、ルエちゃん!」


彼女は走り去るように私の前から消えていった。私は彼女がいなくなるまで手を振り、部屋に戻る。



そうして、またレポートを作成し始める。


もちろん、三浦さんのだ。



私は1人その部屋でカチカチとタイピング音を響かせた。


「あ、三浦さんに渡した説明書…?」


彼女の薬について書いてある説明書だ。


それが何故かここに落ちている。




まぁ、いいか。


私は何も見ていない。




プルルルル…プルルルル…



私のスマホがなる。誰だろ、忙しいし後ででいいか。


私は直ぐに電源を切る。




スマホには小さく三浦さんという画面が出ていた。






ある日気づけば突然、別の部署に新人が来た。


私にまで挨拶する理由もないのになと思いながらも飲み込む。


彼女はお下げ髪をしており、可愛らしいと言われる部類の容姿をしている。



「はじめまして、赤井リコと言います!お願いしますね、ルエさん!」


距離感というものが昔から掴めない私はとりあえず「よろしくね。」とだけ伝える。


それで終わるなら別に良かった。



毎日「ルエさん、ルエさん」と呼んできて部屋に勝手にズカズカと入り込んでは私を罵倒する。


正直鬱陶しい。


あくまで私は、実力を認められて、実績を残しているからここにいられるのに。



これじゃあ意味が無いじゃない。


今度、彼にでも言おうかな。





「…何回かけてもルエちゃんから返事が来ないわね。」


説明書の入っていない薬。どうすれば良いのだろう。


私は薬をじっと眺めていた。




「とりあえず一錠飲んでみようかしら。」


痛み止め。


ルエちゃんの薬はいつも聞く。 だから今回も期待していたのに。



新作だと言われたけど。効かない。



1錠じゃダメだ。もっと飲まなきゃ。



私は一気に10錠ほど飲み込んだ。





痛くない、ルエちゃんの言う通り。



ふわふわする。




あれ?







そういえば、最近三浦さんに会っていない。まぁ、いい。赤井さんに聞いてみよう。


たしか同じ部署だったはずだから。



「ルエさん!どうしてルエさんだけこんな広い部屋使えるんですか!おかしいと思います!!」


プリプリと頬を膨らませて怒っている。



うるさいなぁ、この子。


「…三浦さんは最近来てるの?」



赤井さんは、「うーん」と唸ったあとに話し出す。




「三浦さんなら最近休みがちですよ!自己管理ができてないんですから、社会人失格です!」


頬を再度ぷくっと膨らませて怒る。



なんでだろう。




そしてまた、「部屋がおかしい」「私たちに開け渡せ」などと喚きはじめる。



私はため息を吐きながら、固定電話に手を伸ばす。


「…!やめてください!私の部署の方に言わないでください!」



怯えたように顔を真っ青にして、私に縋る。


私は困惑した。



「?三浦さんにかけるだけだよ。」


彼女はホッとしたような顔をして「そうですか…。」とだけ言って黙り込んだ。



「帰ってくれる?」


そろそろ限界だから。



私に怯えたのかなんなのか知らないが悔しそうに顔を歪めた。



「そうだ、今欲しいものは?」



幸せについてのレポートを見せる。


彼女は目を輝かせた。



「私は…そうですね!彼氏が欲しいです!」



彼氏…カレシ?


それで何が満たされる?


分からない。



私にもたしかにそんな存在はいたけれど、実験の邪魔だった。


それで本当にシアワセ…になるのだろうか。




「そっか。じゃ、戻りなよ。」



私はじっと彼女を見つめる。そうすれば苦虫を噛み潰したような顔で渋々部屋から出ていった。



そのあと数分して怒号の声が聞こえた。



そしてその後には女性の甲高い叫び声、「許して欲しい」「ごめんなさい」だとか言いながら泣いている。



赤井さんの声に似ていたような気はするが気のせいだろう。私には関係ない。



だが、いつになっても声は止まない。また叫び声が聞こえる。


鳴き声が聞こえる。



あぁ、うるさい。


防音設備はちゃんとしてくれないとな。





でも、私はその内容を知らないし、聞いていない。


あくまでうるさいだけ。



「あれ。」



スマホに電源を入れてみれば何十回も三浦さんから電話が来ている。一応かけておこうか。



プルルルル…



『この電話は今現在電源が切られているか充電がされておりません。』


三浦さんこそ同じことをしているじゃないか。


『ピーっと言う発信音の後にお名前とご要件をお話ください。』



私はそこで電話を切った。


今度、彼女の家まで行こうか。




とりあえず今は、防音設備…かな。






コン、コン、コン。


ノックが三回。


私は課長、というか義兄の部屋にいた。


私のわがままを聞いてくれる唯一の優しい人。



叫び声が毎日聞こえるのは、そろそろ限界だ。



「入っていいよ。」


そんな声が聞こえて、私は少し緊張しながら部屋に入る。



「あ…失礼します。」


私はぺこりと頭を下げた。



「ルエ、久しぶりだね、どうしたの?」


義兄は私に向かって笑顔を見せた。



「や、その…防音設備をちゃんとして欲しくて…その…」


どもる、どもる。


やはり、義兄には慣れない。



「どこの部屋?」


あ、怒ってる。



「私の部屋から2つ隣です…。」


彼は私に近づいて頭を撫でた。



「ふーん、じゃあ次はその部署か。」


私はいつも通り、撫で終わるのを待っている。




「あと、赤井…リコ、さん?毎日部屋に入ってきて、少し…その、迷惑というか…」



気まずさを感じて唾を飲み込む。だって、彼の瞳がギラギラしているから。



多分、あれが殺意って言うもの。



私も何度か感じたけれど飲み込んできた。


私は手を下してない、偉い、えらい。



彼は突然私の手を握る。



「じゃあさ、どうしたい?」


いつもこうやって聞いてくれるけど、間違えた答えを選んでは行けないと本能は言う。



「ぁ、防音設備だけ、…お願いします。」



まだ、カレシについて、疑問が残っているから。


カレシの話、忘れかけてた、危ない危ない。



私はぺこりとお辞儀をしてそこから出ていった。





数日経ってたまたま、女子トイレの前を通りかかれば悲鳴が聞こえた。



「きゃぁぁぁ!」


赤井さんの声?



私には関係ないよね。そう思い無視を決め込み、そこから去った。






私が用を済ましにここに来れば床には灰色の何かがいる。


なに?なにこれ。


近づいてみればそれは、多分死骸だった。



怖い、怖い、ネズミだ。


きもちわるい。


「きゃぁぁぁ!」



私は叫んでしまった。



ネズミを扱っているといえばルエさんだけ。


だって、実験してるって言ってた…。


「どうしたの、赤井さん!」



そして私の悲鳴で駆けつけてくれた上司の見石さんに全て事情を話した。






後日聞いたが女子トイレにネズミの死体があったらしい。


なんだそれだけ?


ラットなんぞ何百何千と、実験を施したし、命を落としたラットも沢山居たから死体なんで見慣れてる。



赤井さんも前よりは大人しくなったと思うが、相変わらずうるさい。


だけどまぁ、私には幸せを探すっていう使命があるから。


ほかのことなんて知らない。





「ねぇ、君たち何か言うことは?」



義兄の声。部屋の隣からする。


私はイヤホンをつけて、知らんぷりした。



「君たち、クビね。」



今はロック系にハマってる。この曲、好きなんだよね。



…そういえば赤井さんのところの部署、人が減ったような?


まぁいいか。





「三浦さん、入りますよ。」


私は1ヶ月以上会社に来なくなった三浦さんの家に来ている。



薬の効きが悪いとか?


何かあるなら言ってくれればいいのに。



まず玄関の鍵は開けっ放し、靴もめちゃくちゃ、ダンボールや、衣類、プラスチックの弁当容器まで、沢山放り投げられている。



「ぁ…あぁ、っ、足りない、…足りない!」


彼女は私の事なんか見えていないかのように私の目の前を通り過ぎる。


薬足りなかったのか。


部屋に散乱した薬のゴミを見て察する。



「ほら、三浦さん、追加の薬ですよ。」


彼女はしばらくおかしくなっていたがすぐに気を失った。



三浦さんの顔はそれはもう、酷いものだった。顔は荒れて、ニキビができているし悲惨である。


1か月前より残念な姿になっている。



「服用量、間違えたんですね。ダメですよ、薬が毒になってしまいます。」



私は強力な『しあわせぐすり』を飲み込ませた。


灰色で薄暗い色。



まぁ、私は飲みたいとは思わないが。



「明日からは、来てくださいね。じゃないと怒られちゃいます。」



そうして、三浦さんの家から出た。







私は夢を見ているのだろうか。


ふわふわして幸せな感覚。



私は君と今を生きている。


小さな公園で。







三浦さんがいつになっても来ないので上司たちも頭を抱えている。


そして遂に家宅捜索が始まり、彼女は遺体で見つかった、と後日知った。




しかも自殺。誠に残念である。



私の薬があるから、そんなことにはならないと思ったんだけれど。



あ、なるほど。


私は何かを理解して目をそらすことを決めた。





私は好奇心に負けてしまったのだ。



「赤井さん、この薬飲んでほしいのですが。」


彼女をじっと見つめて、水と薬を手渡す。



『しあわせぐすり』だ。なんでも欲を満たせる、私の薬。


彼女が数分間の間、灰色の『しあわせぐすり』を眺めていた。





「赤井さん、これを飲んで欲しいのですが。」




この言葉に理解できなかった。なんで薬なんだろう。



ルエさんは私をじっと見つめてくる。


怖かった、目はギラギラとしていて、その圧に負けてしまう。



それに、ネズミの話だってルエさんじゃないって言われた。




私は、考えるのををやめてとりあえず薬を飲むことにした。





意を決したように彼女はごくんと飲み込んだ。




「それで幸せになります。カレシ、手に入りますよ。」


私は笑う。



飲み込んだのを確認して、彼女を送り出す。そして再度レポートを作り始めた。



私は期待を胸に実験を始めたわけだ。



それで幸せになります





『たぶん』、誰かが笑った。





読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
しあわせぐすりってなんだろう?麻薬のようなものなのだろうか。 赤井さんの部署で人が減ってるのはなぜ? そこらへんの謎が回収されるのが楽しみです。 今後も見ていきます。
最初は怖い系なのかなと思っていましたが、全然そんなことなくて面白かったです。更新待ってます!!!!!!!!!!                                   リンリンより
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