第二話:悪魔の風呂はぬるすぎる ~レビュー温度で焼かれかけた件~
「ぬるっっっ!!!」
大浴場に飛び込んだ瞬間、俺の全身から叫びが漏れた。
魔王軍の風呂だというから、どれだけ灼熱かと覚悟してきたのに──まさかの28℃。
ぬるい。いや、これはもう冷たい。氷点下を生き抜いたサバイバーくらいしか満足できん。
「これが魔界の地獄の湯ってやつか……風邪ひくわ!」
ちなみに、この風呂の正式名称は【地獄沼湯処】。
看板には《魔族専用癒やしの空間》とあるが、これじゃむしろ体調悪化の空間だ。
案内役のインキュバス青年・ルースに文句を言うと、「ぬる湯が至高」だとか「魔族は代謝が高いから」とか、もっともらしい理屈を並べてくる。
「……それ、レビューに書いていい?」
「えっ!? そ、それは……できれば高評価で……!」
俺はタオル片手に、湯船に浸かったままレビューボードを起動した。
この世界の《レビュアー》は、魔力を使って“感想と評価”を記録し、それが街中の掲示板や魔導端末に表示される仕組みだ。
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《レビュー投稿》
施設名:地獄沼湯処(魔王軍管理)
評価:★★☆☆☆
コメント:
・湯温28℃。ぬるすぎて風邪ひきかけた。
・浴場は広く清潔。サウナなし。ドリンクもぬるい。
・全体的に“悪魔の優しさ”が前面に出ている。
・改善余地は大。火山熱を利用した加温システムの導入を推奨。
「魔王軍には“火山の心臓”っていう熱源があるって聞いたんだけど……それ、使えないの?」
俺の言葉にルースは固まった。
「ま、まさか……火山熱を風呂に!? そんな危険な使い方、前例が──」
「じゃあ俺がやるわ。DIY温泉、異世界編、開幕だ」
こうして始まった、“地獄の風呂リフォーム大作戦”。
かつて会社の給湯室で“神と呼ばれた男”──俺がその知識を活かすときがきた。
溶岩から距離を保ちつつ、魔法石でパイプを組み、簡易加温システムを構築。
結果、浴場の温度は【28℃ → 41.5℃】に劇的改善。
レビューは即座に書き換えられ、★2から★4.5へと跳ね上がった。
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《更新レビュー》
湯温:完璧。ぬる湯地獄から熱湯天国へ。
利用者の悲鳴が「気持ちいい」に変わった瞬間、俺は泣いた。
魔王城唯一の“人間向け温泉”として今後に期待。
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反響はすぐに現れた。
「人間界からの観光客」が続々と魔王城を訪れ、温泉宿としての評価が爆上がり。
魔王軍の経済部門が大歓喜。俺は一躍、“風呂神”と呼ばれる存在になった。
だがその翌日──レビューボードに、見慣れぬ低評価が連投された。
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「★☆☆☆☆ 気持ち悪い人間が風呂をいじった」
「★☆☆☆☆ ぬる湯文化を破壊するな」
「★☆☆☆☆ 火山熱なんて邪道だ」
ルースが青ざめながら呟いた。
「……レビューボードに、“荒らし”が湧いてる……!」
荒らし――この異世界でも、現代の闇は消えていなかった。
次回、「★1の主」が姿を現す。
──つづく。
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次回もまた、異世界の“ちょっと変わった日常”をレビューしていきますので、
どうぞお楽しみに!