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第一話:辞表とブラックホールと目玉焼き~クソ上司より魔王の方がマシだった件~

 朝7時。目覚ましは鳴る前に、目が覚めた。

 今日が「人生最後の出勤日」だと思うと、体が軽い。

 心が、晴れている。というか――もう、何も感じない。


 「佐藤! おまえ昨日の報告、3行抜けてたぞ! クライアントにどう説明する気だ!?」

 昨日の上司の怒鳴り声が脳内でリピート再生される。

 おまけに定時後の修正作業を“やる気が足りない”の一言で片づけられた時、俺の中の何かが完全に切れた。


 入社して8年。誰よりも働いた。残業は月100時間超え。休みは年に数日。

 褒められたことは、ゼロだ。


 辞表をプリントアウトして、スーツの内ポケットに入れる。

 電車に乗らず、会社の正門前にだけ行って、手紙をポストに放り込んだ。

 「さようなら、俺の青春と腱鞘炎。」


 ふらっと立ち寄った公園のベンチに腰を下ろすと、空に黒い穴が開いていた。


 「……ん?」


 グゴゴゴ……という重低音とともに、穴が俺の真上に広がる。

 風が逆さに流れ、木の葉が空へ舞う。俺のスーツも、ネクタイも、鞄も、何もかもが――


 気づけば、地面がなかった。


 



 


 「……目が、覚めたか?」


 そこは、石造りの城だった。壁には松明、香ばしいパンの匂い、甲冑の騎士。

 目の前には……角が生えた、赤いドレス姿の美女がいた。


 「おまえ、人間か? なら聞こう。評価の力を持っているか?」


 「……は?」


 「食べ物でも、場所でも、人でも。目で見て、感じて、言葉で“価値”を伝えられる能力。貴様のそれ、我が軍に必要だ」


 俺はポカンとしたまま答えた。


 「……あー、一応、元・レビューサイトの運営でしたけど?」


 魔王が微笑んだ。


 「ならば貴様の仕事はただひとつ。“この世界のすべてをレビューせよ”。対価は――この城まるごとやる」

 「この城、俺にくれるって……マジですか?」

 自分の言葉に、自分で驚いた。けど、魔王は真顔でうなずいた。


 「食堂の評価が3.2。風呂が2.8。従業員満足度に至っては1.1。我が軍のイメージは地に落ちている」


 「え、魔王軍って“口コミ”あるの……?」


 「ある。世界最大級の評価アプリ《Re:ViEwリビュー》だ。貴様、そこにログインせよ」


 目の前に、スマホのような透明な板が出現した。自動的にアカウントが生成され、職業欄にはこう記されていた。


 > 【職業】神級レビュアー

 > 【スキル】共感力(★5)/誇張表現無効/辛口コメント耐性MAX


 「うわ、異世界仕様のSNSって感じだな……」


 「貴様の任務は明確だ。“魔王軍の評価を平均★4.5以上にせよ”。できなければ、地獄行きだ」


 「はいそれ地味にプレッシャーでかいやつー!」


 



 


 最初の任務は“魔王軍の社員食堂”だった。

 黒いローブのコックが、無表情で差し出してきたのは……目玉焼き。


 「……なにこれ、全部生?」


 「我らは火を恐れる一族ゆえ」


 「知らんがな!」


 とりあえずフォークで突いてみた。黄身がとろりと溶け出し、白身はプルンプルン。……これはこれで、映えそう。


 《レビュー入力:見た目★★★☆☆/味★★☆☆☆/食中毒リスク★★★★★》


 「うん、これは評価……厳しいですね……」


 その瞬間、食堂の天井から“評価爆弾”が降ってきた。


 「えっ!?」


 「評価が★3以下だと爆撃される。ルールだ」


 「クソッ、やっぱクソ上司より魔王の方がマシだったかもしれんけど、ヤバさの方向性が違う……!」


 こうして俺の、異世界レビュー人生が始まった。

【読んでいただきありがとうございます!】


異世界レビュー生活、今回もお楽しみいただけましたか?

「現実もこうならいいのに」と思ってしまう方、大歓迎です(笑)


お気に入り・ブクマ・評価・感想など、いただけると魔王がガッツポーズします。


次回もまた、異世界の“ちょっと変わった日常”をレビューしていきますので、

どうぞお楽しみに!

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