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この顔が誰のものか君は知らない  作者: 水鷺ケイ
第二章「偽りの残響」
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第二十二話 再び舞台へ立つ者

ギルドに呼び出される直前のリオ。

ローデンの街に、微かなざわめきが流れ始めていた。

人々がそれを「変化」として認識するには、まだ少し時間がかかる。 だが、ギルド関係者の動きが妙に多くなり、広場にいる衛兵の数が微増しているのを、観察することに長けたリオは気づいていた。


前回の騒動、”屋敷に囚われた子供たちを救出した一件”が、思った以上に大きく扱われていたことに気づいてから、彼は極力人目につかぬように過ごしていた。 もちろん、逃げ隠れるわけではない。 だが、あの件は”リオ”という名前にとって、あまりに目立ちすぎた。

だから今は、ほとぼりが冷めるまでのんびりする。 それがリオの選択だった。

宿でだらだらするほど無精でもなく、かといって仕事を求めるほど切羽詰まってもいない。 前回の報酬が当初より十数倍多く支払われたからだ。内容が内容だけに、口止め料も含まれているのだろう。彼はただ、街の片隅で、困っている人がいれば手を貸すくらいの、曖昧な存在として日々を過ごしていた。


「お兄ちゃん、ありがとう! !」


「……次から気をつけろよ」


枝にボールを引っ掛けた子供に手を貸し、重い荷物を引きずる老人に肩を貸す。 そんな日々。

そして今日も、特にやることがなかった。 そろそろ少しは働いておかないと宿主に怪しまれる。ただでさえ宿で食事を摂ってない。いつも外食してきたていで、やり過ごしている。幸い育ちのいい”リオ”の顔のおかげか、金がない冒険者とは思われてなさそうだが、いつまでもそれがまかり通るとは思わない。そろそろ拠点を移すかどうか……。

そんなこと考えながらリオは、とりあえず気楽な依頼でも探してみようとギルドを訪れた。

依頼掲示板の前には、数人の冒険者が集まっていた。 だが彼はその隙間を縫うように歩き、視線だけで内容を追っていく。 大した依頼はない。獣の駆除、荷運び、護衛依頼──どれも、今の気分には刺さらなかった。


「……ま、暇つぶしにはなるか」


その時だった。 背後から、小さな声がかかる。


「おい、リオ。こっち。……ちょっとだけ時間、いいか?」


振り返ると、そこにはマーベルがいた。

ひそひそ声だったが、その表情はいつになく真剣で──リオは少しだけ眉をひそめ、掲示板を離れて歩き出す。

目立たないようにひっそりと声をかけてくれたんだろうが、マーベルが直接声をかけてくる時点で悪目立ちしているんだがな……と好奇心の目を掻い潜る。


(どんな面倒事が待ってるんだ?)


心の声は誰にも届かない。 だがその背には、知らず知らずのうちに、誰かの期待が乗り始めていた。


会議室に招かれたリオを待ち受けていたのは、ギルドマスターのガラン。ローデンの衛兵長、ドラス。そして”リオ”の記憶にもない初対面の人物、精悍な御仁。──精悍な御仁であり、クラヴィス公国の紋章を胸に掲げていた。


「紹介が遅れたな」


ガランが口を開き、その人物を紹介する。


「こちらはカイル・レヴァント。クラヴィス王家直属の部隊〈黒羽〉の指揮官であり、今回の依頼の仲介役だ」


リオは軽く会釈を返しながら、相手を観察した。鋭い眼光、揺るがぬ態度。明らかに現場経験のある人物だ。


「今回の件は、王家・ギルド、そして君──リオの三者で進める非公式任務だ」


非公式(・・・)ね……)


──これはかなり面倒事だと察したが、リオは口には出さなかった。

ガランは一枚のクエスト依頼書を取り出し、バンッと机に置いた。


「場所はヴァルモス。名目上は辺境都市だが、そこでは今、人身売買を含む違法行為が行われている疑いがある。こないだお前が助け出した子供達が、連れていかれる予定だったところだ。この件はギルドも王家も公式に動けない。こちらの名を使えば、向こうも本気で隠すだろう。だから、お前に頼みたい。もちろんバックアップは全力でさせてもらう」


言葉は穏やかだったが、空気には緊張が走る。


「……俺でいいのか」


リオはそう呟いた。


「今の“お前”だからこそだ」


とガランが静かに返す。

リオは、椅子の背に手をかけた。逃げ場のない舞台に、立たされた役者のように。

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