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この顔が誰のものか君は知らない  作者: 水鷺ケイ
第二章「偽りの残響」
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第二十一話 旗なき者の使命

その日の昼、ギルド本部の一室に、ローデンの衛兵長ドラスとギルドマスター・ガラン、そしてギルド職員マーベルの姿があった。三人はこれから、郊外の別邸に滞在しているセリナ姫との会談に向かう。


「こんな形で王族と面会することになるとはな……」


ドラスが落ち着かない様子で呟く。


「お前が緊張してどうする。こっちは情報の共有と、それに基づいた協力体制の構築が目的だ。別に頭を下げに行くんじゃない」


「……わかってるが、あの姫はただの王族じゃない。クラヴィス公国にとっては、後継者としても重みがある存在だ」


ガランは煙草をもみ消し、真剣な表情で言葉を継いだ。


「その姫が、自分を狙った黒幕の名を明かさず、それでもこちらに接触の機会をくれた──これは、信頼を試されているってことだ」



会談は、想定以上に穏やかな雰囲気で始まった。


「──先日は髪飾りの件でお世話になりました、ガラン殿」


セリナ姫がそう言って微笑むと、ガランは軽く頭を下げる。


「こちらこそ。あのときは急な訪問にも関わらず、ご丁寧な対応を賜り感謝しております」


「今回は、あのときとは違い……少々、重たい話になるかと」


セリナ姫は護衛に囲まれながらも冷静で、そして明快だった。


「──この国の内側で蠢いている“旧王党派”の動きに、私たちはすでに一定の情報を掴んでいます」


姫の言葉に、マーベルは目を見開いた。ドラスも姿勢を正す。


「デズモンド・フィルブラム……彼がグラディウス連邦と密かに繋がっている可能性が高いこと。そして、奴隷の輸送経路が、我が王国の東の果て、ヴァルモスを経由して連邦へと向かっていることも」


「なるほどな……奴隷をただの私腹のために売っていたわけじゃない。外部勢力との接触、その橋渡しも兼ねていたわけか」


ガランの声には、怒りと冷笑が入り混じっていた。


「ギルドとして公式に動けば、こちらの動きはすぐ察知されるでしょう。そして、セリナ様の名まで表に出れば、なおさらデズモンド側を刺激することになる」


マーベルが一歩前に出て口を開く。


「──よって、双方の事情をある程度知っていて、かつギルドにも所属している冒険者に任せるべきかと」


「その候補として、俺たちの中で真っ先に名前が挙がったのが……リオだ」


セリナ姫はわずかに瞳を揺らしながら、ゆっくりと頷いた。


「確かに、あの方なら……」



数時間後、ローデンのギルド本部・会議室。


「……さて、リオ。急に呼び出してすまない。」


マーベルが地図を広げながら呟く。


「ギルドの旗を掲げず、しかも王族絡みの依頼を経験している者……リオ。お前にしかできねぇ仕事がある」


ガランは迷いなく一枚のクエスト依頼書を取り出し、バンッと机に置いた。

──ヴァルモス、かつて鉱山で栄えた辺境の街。資源の枯渇と過酷な労働環境により、今では人を売ることで利益を上げる陰鬱な地と化していた。

「ギルドの名も王家の名も伏せた形で、内部から探りを入れられる人間……その条件を満たすのは、今やお前しかいない」


ガランは真剣な眼差しでリオを見つめた。


「──引き受けてくれるか?」


クラヴィス公国と、王家と、ギルドと。 それぞれの思惑が交錯する中、再びリオが動き出そうとしていた。



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