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この顔が誰のものか君は知らない  作者: 水鷺ケイ
第二章「偽りの残響」
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第十九話 変わり果てた名

──昼過ぎ。仮眠を取ったマーベルはガランの元に向かう。


「……で、子供たちの身柄は?」


「ギルドで預かっています。ローデンの孤児院に空きがあると聞いていますが、できる限り身元の確認が済むまでは、保護という形で」


ガラン・ヴォルクは片眉を上げ、マーベルの報告を聞きながら煙草に火を点けた。


「相手が貴族だ。やりようを間違えれば、俺たちの首が飛ぶぞ」


「それでも、放っておけないでしょう」


「当然だ。だからこそ慎重に動く。……リオは?」


「まだローデンに滞在する意向を示しています」


「……ほう。あのリオが、な」


ガランはふっと息を吐いた。皮肉のようでもあり、どこか考え込むような響きだった。


「クエストへ行く度に、返り血まみれで帰ってきていたギルドのお抱えサイコパスが、お姫さん護衛の一件以来、まるで人が変わったかのように、やること成すこと平和的に、血のひとつも流さず帰ってくるようになったよな」


「ええ、まあ。…彼は極端に変わったかと思いますが、仲間を失ってスタイルが変わるのは特別珍しいことではないと思います。むしろ、まだ冒険者業を辞めずに続けていることの方が気になるところではありますが」


「……奴に帰る家がないからな」


「エルトール家ですか……」


ギルド(ウチ)に集まる連中は、人に言えねえ過去があるのがほとんどだ。過去を詮索するのは御法度ってのが暗黙の了解だが…少し調べてみた」


マーベルの喉が鳴る。


「エルトール家は言わずと知れた“王家の剣”として知られる名門武門。現当主はローガン・ヴァルター・エルトール辺境伯。リオ……レオンハルトの父だ。次期当主は長男のシグルド・ヴァルター・エルトール。温厚な性格で領民にも愛想がよく、支持者も多い。そしてリオだが……本名はレオンハルト・ヴァン・エルトール。剣術の才は歴代でも群を抜き、次世代王家騎士団の期待の星だったそうだ。ただ、その才能に溺れ、“快楽性”や“破壊衝動”が目立つようになり、日に日に残虐性が増していたらしい。そしてある時、模擬戦で門下生を失明させるほど叩きのめし、激怒した父ローガンに破門され、同時に家名を語ることも禁じられて追放。そしてこの街に流れ着き、姓無き“冒険者リオ”となったそうだ」


「……なるほど」


「そんなだった奴が今、こうして我々ギルドや町民の支持を得るような功績を量産している。悪いことではないのだが……気になるだろう?」


「そう言われると、そうとしか……」


「謎の五体目の死体がリオで、今のあいつがまったくの別人なら納得だったんだがな」


ワハハと冗談まじりに笑うガラン。


確かに別人だったら、何の疑いの余地もない。ただ、そんなわけがない。どこからどう見ても“リオ”なのだから──マーベルの眉間に皺が寄る。


「まあ問題起こしてるわけじゃねえから、あいつのことはいいとして……デズモンド・フィルブラムの名前が出てきたな」


マーベルはこくりと頷いた。


「帳簿に記載されてましたね。あの屋敷、どうやら彼の名義ではないですが……資金の出どころは、フィルブラム家みたいですね」


「間違いなく奴だな。あの蛇みたいな目……久々に思い出した」


「まだ彼を捕まえる証拠としては不十分ですが。ところで私が休んでいる間に、屋敷への潜入調査と、残党の身柄拘束しに行ったんですよね?」


「あぁ。信頼できる俺の教え子達(・・・・・・)に行かせて、しっかり調査させてきた。今は拘束した連中の取り調べ中だ」


「何か直接的な証言を取れたらいいですね…」


「まぁ直接的なのはわからんが、しっかりおはなし(・・・・)はしてくれるさ。なにせ取り調べも俺が直接指導した部下(・・・・・・・・・)だぞ?」


「……少し犯人達に同情します」


「なんか言ったか?」


「……いえっ。ところで冒険者は動かしますか?」


「いや、この件に既に関わってしまったリオはともかく、衛兵にも間者が混じってるくらいだ。ギルド職員(ウチ)も厳選したメンバーしか動かしてないのに、冒険者はもっての他だ」


ガランは椅子から立ち上がり、窓の外を見た。


「今のリオが俺たちの知っている“リオ”じゃないとしても──今の奴には、この街の膿を引きずり出せる気がする」



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