【間話】玉座の上の暇人
魔王様はお暇なようです。
──魔王城、玉座の間。
豪奢な大広間に、暇を持て余した魔王の溜息が響く。
「……ひまだあああああああああああああっ!!」
地鳴りのような絶叫に、玉座の下で震える側近レイドがびくりと肩を跳ねさせた。
「ま、魔王様。どうかお静かに……」
「静かにしてられるかああ! 誰だ、魔王は玉座に座ってるだけでいいとか言ったやつは!!」
「ええと、それは……魔王様ご自身では……?」
魔王は口を尖らせてそっぽを向く。
「俺、ああいうの苦手なんだよね。ジッとしてるの。戦とかはさあ、ドカーン!ってできて楽しいけど」
「はあ……」
「……そういえば、以前人間界に送った者ですが……」
「おおっ! そうだそうだ! あの、何に化けてたっけ……」
「数々の異形に擬態してきましたが、最近は人間に化けて『リオ』と名乗り、冒険者稼業に扮しているようです」
「マジか! あいつ、まだやってんのか!」
「はい。戦闘力は皆無に等しいのですが、過去に擬態したモンスターたちの特性や知識を活かして、地道に問題を解決している模様です。監視には細心の注意を払っていますが、本人はまだ我々の目に気づいていないようです」
「へえ〜、いいじゃんいいじゃん! おもしれーな、そういうの!」
魔王が身を乗り出す。
「俺に化けてもらって、このつまらん玉座にずっと座っててもらえばよかったな〜」
「いけませんよ魔王様っ!!」
「ははっ、冗談だってぇ。レイド、ほんっと固いなあお前ぇ」
「は、はあ……」
「でもさ、そいつ……リオか。人間界で頑張ってるんだな」
「ええ。今のところ、正体がバレる気配もありませんし……王族の動きとも微妙にリンクしているようです。監視には細心の注意を払っていますが、本人はまだ我々の目に気づいていないようです」
「ふーん……俺も人間界に遊びに行ってみてーなー」
「絶対にダメです!!」
「え、なんで?」
「魔王様が出向けば、余計な軋轢を生むに決まってます。世界が動きかねません!」
「ちょっと観光に行くだけでも?」
「“ちょっと”で済んだ試しがありません!」
「……ちぇー。つまんねーの」
魔王は腕を組んで少し唸ると、くくっと肩を揺らして笑い出した。
「なんかさ、ちょっとワクワクしてきたわ。もっと早く報告しろよ〜」
「申し訳ありません、毎日逐一報告はしておりましたが……魔王様が聞いてなかっただけです」
「え? あ、うん。だよね。俺が悪いね、うん。反省してまーす」
反省ゼロの態度で口笛を吹き始める魔王に、レイドは深々と頭を下げながら小さくため息をつくのだった。
短くてすみません!次回も魔王回続きますが短いです(宣言)




