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利成君との出逢い。

「フローライト第五話」です。

五月五日。その日は翔太はアルバイトだと言っていた。専門学校に行きながら学校近くのコンビニでアルバイトを始めた翔太は、高校時代よりかなり忙しくなっていた。


その日は曇り模様の天気の中、明希はツイッターを見ながらその個展の会場に向かっていた。動画はあれから何回も見た。利成かもしれないし違うかもしれない。でももし利成だった時のために、一応色鉛筆は持ってきた。


個展を開いているというビルの一室は何だか思ったより静かだった。けれど中に入ってみると、わりと人がいて、若い女性の姿や男性も結構いた。


絵は抽象画が多かった。ただ数枚風景画もあった。


(あ、綺麗・・・)


それはオレンジ色の空だった。


(夕焼け?朝焼け?)


考えていると、いつのまにか隣に立っていた男性と目があった。その男性が明希をじっと見ている。


(あ・・・れ・・・?)


「明希?」とその男性が言った。


(あ、ほんとに?)


信じられなかったけれどその目に見覚えがあった。


「利成?」


その男性がうなずいた後、嬉しそうに笑顔を作った。


「ほんとに?」と明希は信じられなかった。でも本当なのだ。


「ちょっと待ってて」と利成が言い、部屋の奥の方に入って行った。


明希はドキドキと絵を見ながら利成を待った。最後は小学六年だったから・・・。


(もう七年は経ってる?でも利成は私だってわかったみたい・・・)


少し経つと利成が戻って来て「ちょっと外行こう」と言われた。


「うん」と利成の後からそのビルから出た。すぐ向かい側にあるカフェまで利成と一緒に歩いた。カフェでコーヒーを頼むと隅っこの席に二人向かい合わせに座った。


「明希、俺だってわかってきたの?」


聞かれてマジマジと利成の顔を見た。昔とはもちろん変わっている。でもその透き通っていて、でもどこか大人びた雰囲気の目は変わっていなかった。


「わからなかったけど、もしかしたらって・・・。利成が私のユーチューブにコメントくれたから・・・利成は私だってわかっててくれたの?」


「いや、俺もわからなかったけど、聴いてみて明希っぽいなって思って」


「そうなんだ」とすごく嬉しくなった。


「あ、これね」と持ってきた利成からもらった色鉛筆をバッグから出して見せた。


「もし利成に会えて、私のこと忘れてたらこれ見せようと思って・・・」


「ハハ・・・。忘れたりなんてしないよ」


利成がそう言ったので明希は顔を赤らめた。何せ、利成は初恋の人なのだ。


「その色鉛筆、持っててくれたんだ」と利成が懐かしそうに言った。


「うん、もちろん。これ、オレンジ色と黄色が使われてて、利成ってオレンジ色とか好きなの?」


ずっと思っていたことを聞いてみた。


「オレンジ色は、明希っぽいと思ってよく使ったよ」


「え?」と思う。「そうだったの?」と聞いたら、利成が笑顔で「そう」と言った。


「明希、歌うまいね」


利成に言われて恥ずかしくなって少しうつむいた。


「うまくないよ。利成の方がうまかったよ」


「明希の方がうまいよ。俺は明希の声いいと思うよ」


「え・・・ありがと・・・」


ああ、恥ずかし・・・褒められるとこそばゆい。


小学生の頃は変に意識して話せなかったのに、年月は二人を大人にしていて色々話が弾んだ。


「明希のライン教えて」と言われてお互いにラインを交換した。帰りに利成が作ったというオレンジ色の空の描かれたポストカードをもらった。


「また、連絡するね」と利成が言った。


「うん」と手を振った。すごく嬉しかった。


 


家に帰ってからも興奮冷めやらぬだった。ユーチューブで利成の動画を見た。これ全部利成がつくったの?と思うと、自分のへたくそな歌が恥ずかしくなった。


夜に早速利成からラインが来た。


<今日は個展に来てくれてありがとう>


<こちらこそ、ポストカードありがとう>


<また会おうよ>


(え?)とすごく嬉しかった。


<うん、もちろん>


<良かった>


そんなやりとりがあって、その時は軽く考えていた。利成は幼馴染で初恋の人、それだけだったけれど明希にとって確かに特別な人ではあった。その日の夜翔太から電話があって、何の気なしにこのことを話したら嫌な声をだされた。


「幼馴染だけど男なんだろ?」


「そうだけど・・・」


「そういうのってさ、それ以上になったりしない?」


「え、ならないよ」


「ならいいけど、あんまり会って欲しくない」


「・・・うん・・・」


 


翔太の機嫌を損ねてしまった。明希にはこないだの旅行での負い目があったので、これはまずいと思った。何故ならそれ以来あまりラインが来なくなったし、アルバイトが忙しいのか会うのもなかなか会えなくなって不安でいっぱいになったのだ。


なのでやっと会おうと連絡がきた週末、翔太が明希の家に来た時に自分からもう一回やってほしいと言ってしまった。


「いいけど、大丈夫?」と翔太が言う。


「大丈夫」


「じゃあ、ホテルでも行く?」


「うん、いいよ」


今度こそと思った。翔太が好きなんだし絶対大丈夫だとそう思った。


 


今度は普通のホテルじゃなくラブホテルだった。最初は物珍しく部屋の中を見ていたら、いきなり口づけられてベッドに押し倒された。それからまた濃厚に口づけてくる翔太に覚悟はしていたけれど少し焦った。


「えーと・・・シャワー・・・」


「あのさ、ゆっくりって思ったんだけど、今日はもう無理かも。だからやめるならいまのうちにやめていいよ」


「え・・・大丈夫・・・」


「今日は多分、途中で止められない・・・」


そう言ってまた口づけてくる翔太の舌が口の中に入って来て、明希はだんだんまた不安になってきた。


シャワーも浴びずに求めてくる翔太は、この時余程余裕がなかったのだろうと思う。ブラジャーを押し上げられてすぐに翔太の手が下着の中に入ってきて指を入れられた。


何とかその時までは耐えた。だから大丈夫だと思った。でもまた前のように翔太にズボンと下着を下ろされると身体が一気に緊張して恐怖が走った。


翔太が着ていたシャツを脱いでズボンと下着を下ろして明希の上に乗って来た時には、その恐怖がピークを超えた。


「やだ!怖い!」とまた叫んでしまった。


「明希、でも今日は無理」と翔太が苦しそうに言う。


「やだ!やめて!」と逃げようとするのを上から押さえこまれると今度は声も出なくなった。


翔太が自分の中に入ってくると身体が急に脱力した。そしてそのまままったく動けなくなった。


「明希・・・」と口づけられたけれど、もう何も感じなかった。そのまま翔太が射精するまで耐えた。恐怖心はもうなかった。ただ涙だけが流れてきた。


「明希、大丈夫?」


後始末を終えてから翔太が言った。


「・・・・・・」


大丈夫と言おうと思ったのに声が出ない。


「・・・やっぱ無理だね」


そう言われてやっと我に返った。


「翔太?」


「ごめん、明希。やっぱ俺無理だわ。結局俺もあいつと同じことしちゃったよ」


「い、いいの。翔太は」


そう言ったのに翔太が苦しそうな顔をした。


「あのさ、考えたんだけど・・・少し距離を置こうよ。明希のそのトラウマが少し良くなるまで」


「え、やだよ。そんなの」


「でも、俺も何だかもう無理でさ・・・」


「やだ!大丈夫だから」


「・・・・・・」


 


その後から翔太はずっと無言だった。ホテルを出て明希の家の前まで翔太が送ってくれた。


「じゃあ・・・」と翔太が言った。


「翔太、また会ってくれるよね?」


「・・・ん・・・多分・・・」


「・・・・・・」


涙が目に溜まって来た。ほんとに翔太が好きだったのだ。一緒にいたい・・・。


「また、連絡するから」


明希の涙に気がついて翔太がそう言った。


 


──  また、連絡するから・・・・・・。


そう言ったのに、翔太からの連絡はその後途絶えてしまった。

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