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第2話 アレシアの夢

 時は(さかのぼ)る。

 アレシアの輿入れより数ヶ月前のこと。


「あれなぁに?」

「あれは?」


 幼い、たどたどしい言葉で質問ばかりしているのは、まだ小さかった頃のアレシアだ。

 アレシアの背後で、ほがらかに笑う女性の声がしている。

 ああ、あれは懐かしい伯母様。

 亡き母上の面影のある、たった1人の姉は、ランス帝国皇帝の元へと嫁いだ。


 天使のように美しい姉妹。

 だから2人はあっという間に天国へと旅立ってしまったのかもしれない。

 アレシアは思う。


 あれはいつのことだったのだろう。

 懐かしくて、何度か夢に見た。


 母上はすでに亡く、美しい姉妹と讃えられた母の姉はランス帝国で暮らしていた。

 深い森と深い谷。大きな緑色の川が流れるリオベルデの景色とはまったく異なる、どこまでも続く緑の草原。


 その景色を思い出すと、その記憶はいつも、ある少年の記憶へとつながっていく。

 少年は、艶やかな黒髪が風になびいていて、悲しみを湛えた、青みがかった美しいグレーの瞳をしていた。

 黒髪と対照的な明るい色の瞳がとても鮮やかで印象的だった。


 * * *


 アレシアは真っ白な寝具で整えられた、簡素な寝台の上で、ぱちっと目を開けた。

 まるで見る人が吸い込まれるような、深い青の瞳だ。長い銀色の髪がシーツの上に広がっている。


 アレシアが寝台の上に起き上がると、まるでそれを待っていたかのように、部屋の外から声がかかった。


「アレシア様、お目覚めですか?」

「ええ」


 アレシアの答えを待って、扉が静かに開いた。

 小柄な若い女性が微笑みながら入ってくる。アレシアの身の回りの世話をしてくれる、侍女のネティだ。


「アレシア様、おはようございます。よくお休みになれましたか?」


 茶色の髪に茶色い目をしたネティは一見大人しそうだが、実際は年齢以上の落ち着きを持った、しっかり者だ。


 ネティはほがらかに声をかけながら、てきぱきとアレシアを隣にある浴室へと連れて行った。洗面器にはすでに温かなお湯が用意されていて、浴室には香りのよい蒸気が満ちていた。


 アレシアの衣装はけして多くない。

 決まった種類の服が、必要な数だけ用意されている。

 夜着は室内着兼用、生成り色の麻布で作られた、長袖、くるぶしまでの丈のシンプルな長いドレスだ。


 ちなみに、同じ型、同じ素材で、漂白した麻布で作られたものは、神殿でのお務めの際に着用する。


「びっくりなさいますよ。今朝は、王宮からクルス様がお見えになっています。朝食を一緒になさるのだそうで」

「お兄様が?」


 顔をお湯で洗っていたアレシアが、驚いて顔を上げる。

 瞬く間に、頬がピンクに上気した。


「まあ! まあ!」


 アレシアはピョンと小躍りするようにして、浴室を飛び出した。

 深窓の姫君、神殿で女神に仕える姫巫女とは思えないほど、その動作は身軽で、足も早かった。


「姫様!」


 ネティが慌ててアレシアの着ている普段用のドレスと同素材のガウンを抱えて、小走りに後を追った。


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