マナカはいつでも夢の中
夢は知らないことがたくさんでどきどき
夢はたのしくてわくわく
夢はふしぎでへんてこ
夢はちょっとこわくてぶるぶる
夢は好きに動けなくてむぅ
「マナカ。どうだじいちゃんの秘密の狩り場は」
おじーちゃんが抱き上げてみせてくれた木には、塗ってる蜜でお食事中のカブトムシやクワガタがたくさんで、びっくりで、わくわく。
でもへんてこ。今日は寒い寒い冬のはずなのに、夢の中は昼間の暑い暑い夏。
「お日様でてるのになんでカブトムシがいるの? おとーさんが採れるの夜だっていってたよ。昼間はすずめ蜂がいるから近づいちゃダメだって」
夢を見るマナカはもう答えを知っているから、自信満々に答えたいのに、夢の中のマナカは、首をかしげながらおじーちゃんに尋ねる。
「宗一は古いな。ハンターなら常にターゲットの情報はアップデート必須だぞ。いいかマナカ。捕りたい獲物があるならしっかり場所と餌を……」
「……ふぁっ……ん、わかってるよおじーちゃん」
去年の夏におじーちゃんから聞いたハンター心得を思い出しながら、マナカは小さくあくびをしながら目をこする。
獲物を待っている間に、うとうとしていたのはどのくらいだろう。
お日様が沈んで、真っ赤だった夕暮れのお空には、いつの間にかお月様が昇っている。
隠れていた木陰は風は当たらなくても、ちょっと寒いけど、引っ付いてくれている相棒猫にゃがれぼしと、ポッケにいれたあったかカイロで問題なし。
「しー……今日はおしょーがつを捕まえるんだから、もう少し我慢だよ」
お腹がすいたのか、にゃぁと小さく抗議の声を上げるにゃがれぼしに、ポケットに入れていた煮干しをあげて、ついでにマナカもお腹が鳴いたのでもぐもぐ。
ひっそりと静まった夜のお墓はちょっと怖くてブルブルするけど、いまから捕まえる獲物を思えばどきどきだ。
今年はへんてこ。
大晦日の次の日なのに、おしょーがつじゃない。
おうちの玄関にはお飾りも吊さないし、お隣のコーくんや、幼稚園のお友達へのねんがじょうもつくらなかった。
コーくんのおばさんからもらったのも、おとしだまじゃなくて、おこづかい。
おじーちゃんが、おうちに来られなくて、マナカがおじーちゃんのおうちにもいかない。
いつもと違うへんてこなおしょーがつじゃない1月1日。
これもそれも、おじーちゃんが『もちゅう』だから。
おしょーがつは楽しくて、いつもおしごとのおとーさんがたくさん遊んでくれて、わくわくする。
でもおとーさんはここのところずっと暗い顔であまり遊んでくれなくて、マナカはむぅ。
だからおしょーがつを捕まえることにしたマナカはけーかくをたてて、おじーちゃんの眠っているお墓のそばで待機中。
おじーちゃんがいないからおしょーがつが無いなら、おじーちゃんのお化けを捕まえて、おしょうがつも捕まえる。
だいじょうぶマナカなら捕まえられる。
この間も実はサンタさんだったおとーさんを、縄跳びトラップで捕まえたばかりなんだから。
お墓まで来る電車代や、おじーちゃんが好きで、おびき出す餌にしたコンビニのようかん代で、コーくんのおばさんがくれたお小遣いを全部使っちゃったけど、お年玉はおかーさんに預けないといけないけど、お小遣いはマナカの好きに使っていお金だから問題なし。
おじーちゃんからお年玉をもらえば帰りの電車代もオッケーだ。
マナカは夜のお墓の雰囲気にドキドキして、ワクワクして、ブルブルして、ヘンテコだと思いながら、おじーちゃんのお化けはまだかなと、むぅと頬を膨らませる。
マナカにとってみる物、聞く物の全てが、楽しくて、不思議で、知りたい事ばかり。
だからマナカはいつだって夢の中だ。
結局真夜中まで待ち続けたマナカが、お化けおじーちゃんでは無く、別のおじーちゃんを捕まえ、その交流の中で、人の死に対して独特の価値観を持つようになるのはまた別のお話……