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コメディーシリーズ

せいこうい と わたし

作者: 衣谷強

タイトルに釣られた人。

先生怒らないから手を上げなさい。




えっ。


R-18でない時点で何かを察してはいると思いますが、どうぞ落ち着いてお読みください。

 『せいこうい』。

 それはきょうかいにすむおんなのこのあこがれ。

 はやくおとなになりたい。

 はやくいちにんまえになりたい。

 そして『せいこうい』を……。

 そうおもうだけで、むねがたかなる。

 どんなかんじなのだろう。

 どんなきもちになるんだろう。

 えらばれたいな。

 『せいこうい』のあいてに……。




「バジーナ! 出番よ! お願い!」

「……はい……」


 シスターの言葉に、私は絞り出すように返事をする。

 うえぇ……。やだなぁ……。

 いくらお役目とはいえまたあんな事をしなきゃいけないなんて……。

 しかし泣き言を言っても現状は変わらない。

 仕方なく衣装棚を開く。

 肩出しのブラウスに短いスカートに着替えて……。

 ……これじゃまるで娼婦だ。


「……はあぁ……」


 深呼吸より溜息に近いものを吐き出して、私は意を決して鍵付きの棚を開いた。

 眩い光が部屋中に広がる。


『いやー、やっと出番やー。バジーナちゃんは儂をこんなところに閉じ込めて、老人虐待は良くないでー?』

「……服に人権はないので」


 くだらないお喋りを切り捨てると、私はその光って喋るローブに袖を通した。


『お、えぇやん儂の勧めた衣装。似合うと思うとったんやー。これはほんまやる気がみなぎるわー』

「……これ以上露出が高いものは着ませんからね」

『えぇー? 水着くらいまではえぇんとちゃう?』

「嫌です」


 全く、子どもの頃に憧れた聖光衣せいこういが、まさかこんな助平爺の人格を宿していたなんて……。

 着れば持ち主の力を強化して、魔物を討伐したり人の怪我を治せたりする奇跡を起こせる聖なる服。

 この教会の宝とも言うべき存在。

 それが耳を塞ぎたくなるような卑猥な言葉を繰り返すなんて……。

 聖なる力で守られていて、刃物も魔法も全く通じないし……。

 いつか私の力がその防御力を上回ったら、ばらばらに切り刻んだ上で燃やしてやる……!


『あぁ、えぇなぁ若い女の子の匂い……。寿命が伸びるぅ……』

「……! とっとと行きますよ!」

『そないに急がんでも、もう少しえぇやろ? 老い先短い老人の僅かな楽しみ奪わんでも……』

「街の西側に魔物が出ているんです! 早く転移を!」

『しゃあないなぁもう……。ほい、使用可能にしたで』

「転移!」


 聖光衣が光ると、一瞬で私は街の外にいた。

 目の前には数体の獣型魔物と、それを使役しているであろう黒い翼を生やした人型魔物。


「ほう、なかなかの力を感じる。だが上位魔物である私には」

「黙れっ!」

「ぎゃあ!」


 力を解き放つと魔物達は吹き飛んだ。

 獣型魔物は塵になったが、地面にべちっと落ちた人型魔物は慌てて身を起こす。

 ちっ、殺り損ねた。


「な、何をする! 前口上の間に攻撃するなど……!」

「うっさい! あんたら魔物が来るたびに私はこんなのを着なきゃいけないんだ!」

「ひいっ!」


 避けるな!

 とっとと終わらせて脱ぎたいんだこっちは!


『何をそんなにかりかりしとるんや。可愛い顔が台無しやで』


 黙れ元凶!

 こんなの着なくても魔物と戦えるようにならないと……!

 いや……!

 片っ端から魔物を滅ぼして殲滅すれば……!


「こ、ここは一度引いてやろう! だが忘れるな! 我々は」

「逃げるな! 命置いてけ! なあ! 命置いてけよ!」

「ぎゃあ! た、退却ー!」


 くそっ! 逃げられた!

 ……まぁいい。

 とりあえず今日のお役目は終わりだ。


『お? 脱いでしまうん? 転移で街まで戻らんの?』

「もう一瞬たりとも着ていたくないので」

『ほなこの日差しの中を歩いて帰るんかー。えぇなぁ。汗の混じった匂いもまたえぇもんや』

「〜〜〜!」


 素早く聖光衣を羽織ると転移を発動して、教会の自室へと戻る。


『あっ、ちょっ』


 そしてすぐさま脱ぐと鍵付きの棚に放り込んだ。


「……全く……」


 鍵を閉めるとふしだらな服を脱ぎ、いつもの服に身を包む。

 どっと押し寄せた疲労感のまま、寝台に横になった。


「……聖なる光よ」


 唱えた魔法は、天井に伸ばした手を強く光らせる。

 以前より力は上がっているけど、あの輝きには程遠い。

 これじゃ今日の獣型魔物は倒せても、上位の人型魔物には勝てないだろう。

 だからあのいやらしさに今後も耐えなきゃいけない。

 ……今だけだ。

 いずれはあれを跡形もなく焼き尽くして……!


「はぁ……」


 それにしてもあれは、何でいやらしさを隠さないんだろう……。

 変な考えだが、言わなければ私だってここまで雑に扱わない。

 わざと怒らせようとしてる……?

 何のために……?

 ……いや、単に助平心を抑えられないだけだな。

 一刻も早く燃やすために、私は再び魔法の練習を始めた。

読了ありがとうございます。


おっと、その物騒なものは君には似合わない。

落ち着いてゆっくりと下ろすんだ。

……そうだ。いい子だ。


実は聖光衣は敬虔で禁欲的な僧侶でした。

しかしある魔族との戦いでその身を衣服に変えました。

セクハラ発言はその反動か、それとも……?


お楽しみいただけたなら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 妖怪命置いてけ。 そのうち「命」と書いて「タマ」と読むようになるに違いない……。 全体的に素晴らしかったですが、やはりこの部分が1番です(ΦωΦ)
[一言]  達人ほど、ちからのある衣装を脱いでからのほうが強いもの(笑)  強くなってくださいね。  でも、切り刻むのはまずいかと(汗)
[一言] そっちかい!(笑)
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