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1 ダンジョンに感謝、だけどね・・

私の背中は、ダンジョンの壁にぴったりとくっついてる。


私?私はフラン。19歳。珍しいけど戦えないスキルを持ったEランク冒険者。


目の前にはヤバい光景しか広がっていない。正面にはダンジョンのモンスターハウスの高ランクオーク100匹。右側には、私をハメた冒険者5人。


「・・死ぬ」


足はガクガク。じんわりと漏らしながら、つぶやいた。


◆◆◆

200年前、世界各地に4000のダンジョンが発生した。人々の生活は変わった。


スキル、魔法、レベルを人が手に入れ、貴族が支配していた世界が根底から崩れた。


「数」を持ってダンジョンを支配しようとした王族、貴族が「個」の力で滅ばされ、民主主義の国か乱立した。


200年前、地図上にない「ニホン」から来た賢者がいた。世界の文明を「中世ヨーロッパ」と評したらしく、その時代から物の価値観はあまり変わっていない。


そして現代、商人の愛人の娘として生まれた私は、11歳でユニークスキルを手にした。


スキル名は「壁削り」


時代を変えると言った学者もいた。「ダンジョンの壁は壊せない」という絶対的理論を覆すとされた。


だけど、スキルを使ってみるとほんの一握りの壁が削れただけ。ダンジョンの壁を構成する希少金属を取り出せる。そう期待されたけど、スキルを10回使って鉄の玉ひとつ。削った壁も1分で元に戻った。


多くの人に笑われ続けたけれど、私だけがもらえたユニークスキル。感謝した。


12歳で実母が死んだあと、商会に引き取られ継母の息子達に散々苛められて、15歳の成人の日に家とラフレシの街を追い出された。


冒険者登録をしてコツコツと壁を削っていると、金属が出た。それを売って4年間、ダンジョンに生活させてもらった。


少しだけど、お金も貯めてる。


私には「モルト」って名前の友達がいる。向こうは友達と思っていないかも知れない。だけど、たったひとり、私を友達と言ってくれた男の子。絶対に探しに行きたい・・



たまにゴブリンを倒して私自身のレベルは10でMP100。1回の使用MP3の壁削りを8年間使い続けて、スキルレベルは「9」


1年前にスキルレベルが上がってから150回に1度は5センチのミスリル玉が出るようになった。


本当に嬉しかった。


だけど、それをシルビアで売ったのが、いけなかった。


拠点のシルビアの街から10キロのゴブ初級ダンジョンで、今日も壁を削っていた。


大陸の南海岸にあるシルビアの周りは価値あるダンジョンだらけ。南に290キロ地点にある島には、世界最高峰指定の「超級」ダンジョンまである。


ゴブダンジョンは、素材、経験値の価値が低すぎて、誰も来ない。私が独占して、1階セーフティゾーンには寝袋まで置いてある。


今日は活動限界の3階で壁を削ってミスリル玉が出た。MPに余裕はあるが、シルビアの街に向かった。


「たまにはエールでも飲もうかな」

足どり軽く5キロほど歩いた。近くには特級ダンジョンがある。


そこで林道の脇から男4人が現れた。


「・・あっ」


シルビアの冒険者でも要注意人物。実業家の三男、四男で構成された「オーガキラー」の5人のうち4人が、道に立ちふさがっている。


戦えるスキルを複数持ち、レベルは70~75。ランク付けはシルビアでも上から2番目。



「ようフラン」

こいつは確か貿易商四男のセバスティアン。あとは曖昧。

武器は抜いていないが、身長180~185センチの奴らが、明らかに私を狙っている。


私は目が大きめのブラウンヘアで160センチ。恋愛経験ゼロ。過去に実家で強いられた重労働で筋肉はある。ただし男4人相手に戦う方法がない。


回れ右しようとすると、「オーガキラー」の5人目が真後ろにいた。

「やば・・」

殴られて、あっさり意識が遠のいた。



◆◆

目が覚めた。


ズキッ。「頭いたい」


やつら「5人」に囲まれている。ここは外でもないし、通路の先にある4メートルの小部屋。

「目を覚ましたか。外は夜だぞ。ほれっ。これで壁を削れ」

愛用のピッケルを足元に投げられた。


私に「削れ」ということは、ここはダンジョンか。


「・・ここは」

「お前が入ったことがない、シェルハ特級ダンジョン1階の奥の方だ。レベル50のオークとオーガが出るぞ」

「んで、ここは昨日、俺らが見つけた隠し部屋だ」


私を拉致した目的が分かった。私に「壁削り」を使わせてお宝ゲットを狙っている。


だけど無理だ・・・


「わ、私のスキル、知ってるでしょ。鉄の玉しか出ないのよ」


「嘘言うなよ。最近はミスリルも掘れるんだろ。換金してるのを見た奴がいるんだぜ」

「それにお前の荷物入れから高純度のミスリル玉が2個出てきたぞ」


最悪だ。


「普通、隠し部屋って宝箱があるのに、ここはないんだよ。お前の進化したスキルなら財宝が出ねえかなって、話したんだよ」

私の話なんか聞いていない。


「いいから、やってみろ。お前が何か見つけるか否か、そこで賭けもしてるんだ。嫌なら、ここに置いて行くぞ」



遊びで連れてこられた。だけどこっちは、命がかかっている。


何も出てこなければ、レベル10の私がレベル50のオークが出るダンジョンに置き去りにされる。

何か価値があるものが出てきたら、とことん利用される。


MPは気絶している間に少し回復して47。MP3の「壁削り」は無理すれば15回使える。


捕まえるために、頭をぶん殴るやつらだ。拒否すればどうなるかは分かる。


がりっ。「ちっ。フラン、何も出ねえじゃねえか」

がりっ。がりっ。がりっ。「鉄以上のもんが出てくる方に10万ゴールドも賭けたんだぞ!」


逃げる方法も見つからないまんま、4回のスキルを使った。「何か出る」に賭けたと思われる3人がイライラし始めた。


がりっ。5回目。鉄の塊が出た。残り10回。


確率的に、出ても鉄1個。1時間後の自分の惨状が見えてきて、足が震え出した。



『スキル「壁削り」レベルアップしました』


「え?」


こんなときに「壁削り」が強化されたのか。


「てめえ、なんで手を休めているんだよ。何も出ねえと、俺が賭けに負けるんだよ」

「ひっ」


怒鳴られてはっとしたとき、壁と床の境界、継ぎ目にしか見えないところに小さな何かが見えた。


分かりにくいが、スイッチだ。何もない部屋じゃなかった。押すと宝箱が出てくるのか、それとも罠か。


だけど、現状よりいいはずだ。


かんっ。ピッケルでスイッチを叩いた。



ゴゴゴゴゴ。


私は運が悪いのを忘れていた。


小部屋の入り口が塞がった。逆に小部屋の奥の壁がなくなり、目の前に40メートル四方の部屋ができた。


そして反対の壁際には豚顔のオークだ。


「モンスターハウスだったの・・」


「ちっ、フランがスイッチを踏んだのかよ」

「100匹くらいいるな」

「ま、殲滅しちまおうぜ」

「終わったらフランは死刑だな」



恐怖を通り越して真っ白になった頭の中に、ファンファーレが鳴った。


『おめでとうございます。「壁削り」がレベル10になり「壁粉砕」に変身しました』


とことん運がない私たけど、死に直面したときにスキルが進化した。


頑張って立ち上がり、長い間、私を支えてくれたダンジョンの壁に寄りかかった。

「うれしいよ。だけどね・・」



ただ、生き残れる方法が思い浮かばない。




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