プロローグ ー 帰路の公園 ー
混雑した電車に揺られた午後7時。
やっとの思いで降りた懐かしい駅の改札口をぐるりと眺めた。
『あの頃とはだいぶ変わったな』
かつてはコンクリートが剥き出した壁だった古い駅だったが今ではすっかりと生まれ変わり真っ白な壁の明るい駅になっていた。
かつての駅を思い出しながら、新しくなったアスファルトの感触を靴で味わいつつ家へと向かった。
あの角の質屋はマンションに、ここの酒屋はコンビニか…と育った街の地面を踏むたびに、記憶がどんどん鮮明になっていく感覚は、地元を離れた人には特に味わい深いものだろう。
[秋見台 第二公園]
『ああ、この公園も懐かしいな。あの頃とはちょっと遊具は変わってるけど。』
かつて遊んだ公園は、子どもたちがケガをしないようにプラスチックなどの遊具に新調されていた。
立ち寄った公園は、昔より狭くなった?と錯覚してしまいそうになるほど離れた時の長さを物語っていた。
新調されたベンチに腰を下ろし、リュックから使い込んだ水筒を取り出した。
ふぅ。吐くため息は白く12月の公園は寒さが身に沁みたが中身のほうじ茶がそれを忘れさせてくれた。
カラフルな滑り台を眺めてしばしの時間が過ぎたのか、懐かしの空気がそうさせたのか、心の奥に蓋をした記憶が溢れ出てきて、目頭が熱くなった。
『あの頃の僕は…』
そう呟くと頬に流れた涙が砂を濡らした。
これは大人なった青年が、心の奥に蓋をした小さな記憶。