牛乳好きの黒い奴
昼に二パック飲んだ。
書類整理の時に一本飲んだ。
休憩の時間に、沈んでいく真っ赤な太陽を見ながら一パック飲んだ。
会議の間も一本飲もう、と思っていたらいつの間にか寝ていて瓶の中身をダラダラと胸元に垂らしていた。
起きて、うわぁぁあもったいないことしたちっくしょう俺としたことが牛さんごめんなさい愛してるぅうと心の中で嘆いたのは言うまでもないことである。
そして部長がニッコリ顔で『いい夢見れたかい。』と言ってきた。
そんなわけで、今日は北地区に回されることに。
あそこは寒い上に、ただでさえモノが少ない。
イライラしたから三パック飲んだ。
つくづく思う。
カルシウム最高。
「うわっ! しかも雨かよっ!」
黒髪黒目の、見た目で言うと二十代後半ぐらいの男性が窓の外を見ながら言った。
空から遠慮なく降ってくる雫が、目の前の景色をぼやけさせる。
「ソンナマサカナンテコッタイ。」
わざとらしい片言で話しながら、彼は机の中から照る照る坊主を出し窓の縁に紐でつり下げた。
「そんなもので天気が変わるものならお天気キャスターは皆クビになるでしょうね。」
「馬鹿、こういうことは信じるという心が大切なの。分かったか馬鹿。」
「分かりました、馬鹿。」
「ならよし。」
どうやら彼は、自分が馬鹿と言われたことは気にしないらしい。
いや、気付いてないだけなのかもしれない。
馬鹿だから。
彼と話してた人物―――――いや、物体はそう思った。
それは、壁に立てかけてある鎌だった。
中高生の背ほどもある長さの刃。
半月型の美しい曲線を描き、不気味な銀色の光を放っていた。
「まったく、飲まないとやってらんね。」
彼は机の上の瓶を取った。
別の手に持つ鋭い針。
それで紙蓋を刺し、引っ張る。
キュポンと気の抜ける音がした。
首を晒し片手を腰に当て、瓶を自分の口に付ける。
彼が喉を鳴らす度、中の液体は減っていった。
白で満ちていた瓶が透明に変わる。
口を離して、彼は派手なため息のような、それでいて憂いがない声を上げた。
「本当に好きですね、それ。」
「骨強くなるしな。骨は大切にしないといけないんだぜ、骨は。」
「貴方が言うと妙に説得力がありますよ。えーっと、軽死有無でしたっけ。」
「カルシウムな。それ何処かの暴走族みたいだから。」
彼はハンガーにかけられている黒いローブを取った。
バサリと音を立てて、黒が彼の体中を包む。
「今日は北地区な。」
「何と。私は今日飯抜きですか。」
「そうしないように努力しますとも。」
フードを被り、彼はますます真っ黒になった。
先ほどまで飲んでいた飲み物の色とは真逆だ。
黒い腕を、わずかに覗く顔の前でスッと動かす。
彼はその一瞬で顔を変えた。
「行くぜ相棒。」
「はい相棒。」
冷たい雨が降る夜。
窓から、黒いローブを纏った骸骨が飛び出した。
牛乳のように真っ白な手には、大きな鎌を携えて。
死神さんだって健康には気を使わないと。
特に骨ね骨。
栄養たっぷりの牛乳は彼にとって手放せない物なのです。
シルバーウィークが後一日なんて信じない。
信じないったら信じない。




