ウンバラサーガ
約一千万年前、地球ではウンバラ族が栄えていた。
人類が誕生するより約五百万年も前のことである。
彼らは高度な文明をもち、原始的な生活を送っていた。
高輝度のウンバランプで夜を照らし、飲み水はウンバ水道でいつでも飲むことが出来、自らの排泄物をウンバ丸として再利用して腹を満たすことが出来た。
ちなみに彼らは見た目は人間そっくりであるが、人間ではない。ウンバラという動物であり、その種は現在絶滅しているので、現存の動物のどれとも違う特徴を持っている。
ぱっと見た目はどう見ても人間である。目と耳は2つで鼻と口が1つ。服を着て、言葉も喋る。
唯一の人間と違うところは、自らの排泄物を食べられるところと、そして性別がないところであった。
性別がないから彼らは科学力を持たなければ繁殖が出来なかった。
彼らは精子も卵子も何も持たないので、科学でそれらを作り出さなければならなかったのだ。
ちなみに現在オーパーツとして残るもののほとんどは、ウンバラ族が繁殖のために作ったえっちな道具である。
☆ ☆ ☆
巨大アメーバにも似たぬるんぬるんした建物が、古代の平野に広がっている。言うまでもなく、ウンバラ族の建造物だ。
ぬるぺちゃの建物の間を縫うように走る銀色の道の上を、一人のウンバラ族の若者が歩いていた。
彼女の名前は『キカーレ・ンバラ』。とても美しく、顎に長いヒゲを蓄えたイケメンである。
「今日はどこでウンバ丸クオッカワラビー」
そう言って人懐っこく一人笑いを浮かべたキカーレを、トラックが轢き殺した。ウンバラ族では日常的によくある風景だった。
そしてキカーレは、転生した。
☆ ☆ ☆
「彼の国に思しき油槽を花に例えて何とする」
松明で照らされた高段の上、ミミコは男に言った。
白い衣袴の後ろに剣を挿し、美豆良に結った頭を下げていた男が面を上げる。
「女王よ。汝の言、吾に総て傳わるとでもお思いか」
無礼な物言いに、ミミコは籐椅子の上で足を組む。顔には艶めかしい嬌笑が浮かぶ。
「スサナギよ」
ミミコは言い渡した。
「今宵、彼の国の輪に、幟を立てよう。褥を訪ねて刳るが良い」
「女王の肉叢に穴を穿て……と?」
スサナギの表情に緊張が走った。
「汝は吾の宝を欲すというのか?」
「月が濡れた」
女王ミミコが夜空を仰ぐ。美しい喉元を曝け出し、獣の欲を唆る。
「そろそろ埴輪を作らせねばと懐う」
☆ ☆ ☆
キカーレが目を開けると、可愛い埴輪さんたちに周りを囲まれていた。
「どこ……? ここ……?」
「あっ。ヤマトちゃん、目を覚まちまちたかー?」と、横からキモい男の声がした。
首がすわってなかった。目だけを動かして横を見ると、パパらしき人がそこにいた。
「うんば?」
キカーレがそう言うと、パパはとても大層喜んだ。クオッカワラビーみたいな笑顔で。
「ミミコー! ヤマトちゃんが言葉っぽいこと言ったよー!?」
台所からママらしき人が現れて、苦笑しながら言った。
「ヤマトちゃんまだ生後半月も経ってないんだから、言葉なんか喋るわけないでしょ」
「ここはどこだ」
キカーレは両親に聞いた。
「私はどう納豆? ウンバーラ?」
「ここは……」
両親が笑顔を並べて教えてくれた。
「小説家になろう、だよ」