牛の首【2】
其れは或日の事だ。
夏に開かれる縁日での事。
僕は何時もの習慣でぶらりと冷やかしに出かけた。
僕の相棒でも有り親友の鉱石ラジオを持って。
縁日は地元の駅前を一時的に封鎖し其処に屋台など様々なイベントがされる。
二日かけて開催される其れを楽しみにしている者は多い。
午前中は地元の有志による盆踊り。
昼から夜まで太鼓が開催される。
太鼓の音を聞きながら僕は屋台を冷やかしてた。
『何か買って食わないのか?』
「食うわけないやん高いのに」
『まあ~~縁日の屋台は高いけど何で出かけるの?』
「見て回りたいだけ」
『……』
「普段見ない珍しい物を見たいんだよ」
『……』
おい。
なんか言えよ。
良いだろうに別に。
見て回るぐらい。
縁日ではこうして見て回るのが良いんだろうが。
何か珍しい物があれば其れを眺めるのが良いんだろうが。
食い物なら食うけど。
但し珍しい物限定だが。
というか僕基準の珍しいだけど。
『なあ~~知ってるか?』
「何が?」
『【牛の首】』
「なにそれ?」
『【牛の首】というとても恐ろしい怪談があるんだよ』
「ほう?」
『ようするに怖いもの見たさの好奇心が生み出した、幻の都市伝説だな』
「ええと?」
『何が言いたいかというと縁日に関する都市伝説を幾つか思い出した』
お~~い。
『珍しい物がみたいなら探して見るか?』
「探す」
即答でした。
華やかな場所から少しばかり外れ僕はウロウロしていた。
何か無いかと。
いや本当に。
そうしたら見つけました。
お化け屋敷。
……。
珍しいな~~おい。
いやね。
お化け屋敷というのは珍しい。
地元にはないからね。
というか縁日すらない。
例え他所の街に行っても見つからないのだ。
むしろ一周回って都会の遊園地なんかに有るくらいだ。
かなり珍しいと言いたい。
というかまだ有ったのかお化け屋敷。
そうして僕は入場料を払い中に入った。
というか只今準備中其れでも良いならどうぞ。
等という看板は?
意味わかりません。
先にカップルが入ってるのは定番だ。
ケッ!
リア充が。
前方のイチャイチャする声が聞こえる。
いや本当に。
何してるの?
等と言いたい。
定番だけどね。
定番だけどムカつく。
言いたいのだが……。
段々静かに成ってきた。
というか本当に居るの?
等と言いたいレベルです。
まあ~~仕方ないか。
狭い道。
お化け屋敷の広さを考えれば此れは仕方ないと思う。
中に入った途端明かりは最小限にされていた。
其処を用心しながら進んで行く僕。
通路の脇。
其処にはよく出来た人形が置かれている。
死に装束を纏った人形が。
その造形は凄い。
近頃の特撮技術の影響か異常なまでにもリアルだ。
此方を覗き込む無機質な目。
腐った血が流れず黒ずんだ血管。
赤みのない肌。
そして膿んだ傷。
恐ろしくリアルだ。
其れを計算しつくされた照明が浮かび上がらせる。
此れは名人芸だな。
うん。
凄い。
生首も飾られている。
良いな此れ。
長い通路をジクザクと歩く。
その度に僕の死角とも言うベき所に人形が配置されていた。
ゾクゾクする。
う~~ん。
良いね~~。
時々思い出したように吊るされているコンニャクも良い味をだしてる。
前方のカップルの声は聞こえない。
あまりの恐怖に怯えてるのだろう。
というか結構先に行ってるな~~。
というか僕が彼方此方見て回り遅いだけだが。
最後の直線の通路の下。
其処には此方を睨みつける人形。
此処を通るには人形を踏まなければ行けない。
可也趣向を凝らしてるな~~。
多分人形の上にはガラスが張られてるな。
恐る恐る足を乗せる。
うん。
ガラスだな。
しかも透明度の高い。
僕は其の儘進む。
もうすぐ出口だな。
そう思いながら暗幕を掴み外に出た。
此れで終わり。
其の筈だった。
血まみれの男がいた。
大きな出刃包丁とノコギリで大人二人の首を切断していた。
男女の首を。
ゴリゴリと。
「え……あ?」
まだお化け屋敷の続きかと思った。
視界の隅には何体かの人形の残骸が有った。
廃棄品だろう。
色あせた人形の体があるから其れで分かった。
但し近くに腐った頭部と手足がなければだが……。
首を落とされた男女の死体は僕の前にいたカップルだった物。
そうカップルだった物だ。
加工して化け物屋敷の人形にする材料みたいだ。
作業している男が此方を振り向く。
僕の記憶は其処までだった。
気がつくと僕は家の中にいた。
家の僕の部屋。
いつの間にか帰ってきたみたいだ。
『あそこは都市伝説に出てくるお化け屋敷だな』
「おい」
『訪れた客を加工して出し物の人形にするお化け屋敷』
「おい」
頭痛がする。
まあ~~怒ってないよ僕は。
助けてくれたのは此奴だろうし。
うん。
『そんな都市伝説の一つだな』
「そんな所に僕を連れて行ったのか親友」
ジト目で見る僕。
『珍しかっただろう?』
「そうだな」
僕はため息を付いた。
親友で有り相棒の宿った鉱石ラジオに。
恐らく僕が記憶を失った直前此奴が体を支配して逃走してくれたんだろう。
守ってくれたのは有り難い。
有り難いのだが……。
「アソコで作業していた化け物に僕が目を付けられたらどうする?」
『大丈夫だアノ化け物は一度逃げた獲物には興味を示さない』
「その保証は?」
『そうでなければアレの都市伝説がある理由が無いだろう?』
「警察は?」
『都市伝説が捕まるとでも?』
何か妙に納得できる内容だ。
……。
………。
…………。
補足。
主人公は短編【親友】で出てくる成長した主人公です。
相棒にして親友は作中に出てきた鉱石ラジオです。(親友の取り憑いた)