まいごのゲンジ
さる企画に参加予定の作品でしたが、その企画の趣旨にそぐわず、お取り下げとなった為、タイトルを従来の『水の女王』シリーズのタイプに変更しました。
『青の世界』のまわりが森でかこまれた湖の昼下がり、青い肌の巨大な女性『グウレイア』が魚たちとたわむれていました。
グウレイアは身体が水でできていて、優しさと美しさをかねそなえた女神で、あらゆる生き物から『水の女王』と親しまれています。
(ふふっ……、今日もいろんなかわいいお魚たちを見られてうれしいわ。!……向こうにぽつんと泳いでいる虫は一体……?)
グウレイアは虫のいる方に向かいました。
虫はどこか元気がない様子です。
「はじめまして、わたしは水の女王グウレイア。あなたは?」
「ぼくは『ゲンジ』っていうんだ。グウレイアお姉さん、ぼく……、みんなとはぐれちゃったんだ……。」
ゲンジと名乗る虫はグウレイアにみんなとはぐれてしまったと言いました。
「わかったわ……。ゲンジ、わたしがみんなのところへ連れて行ってあげる。」
「グウレイアお姉さん、ありがとう。」
グウレイアがみんなの元へ連れて行くと約束すると、ゲンジはよろこびました。
グウレイアはゲンジの仲間を探しはじめました。
しかし、ゲンジの仲間はなかなか見つかりません。
湖はもちろん、河を探しても見つからずじまいです。
さらにわるいことに、グウレイアはゲンジを見失ってしまいました。
(どうしよう……、ゲンジまでゆくえがわからなくなってしまったわ……。いえ……、まずはゲンジを探しましょう。)
グウレイアはとほうにくれながらも、ゲンジを探すことにしました。
しかし、ゲンジもなかなか見つかりません。
ある日の満月の夜のことです。
(……ゲンジにみんなに会わせてあげるって約束したのに……。わたし……、約束やぶってしまったのかしら……。!……あれは……。)
とほうにくれていたグウレイアの前に、たくさんの小さな光が飛んで来ました。
「グウレイアお姉さん!」
小さな光の一つがグウレイアに声をかけました。
「もしかしてあなたは……、ゲンジなの?」
「うん、ぼく、いや、ぼくたちホタルになったんだ。こうしてみんなともまた会えたよ。」
「ゲンジ……、良かったわ……。」
ゲンジが無事でみんなと再会出来たことにグウレイアはむねをなでおろしました。
「お姉さん、ありがとう。」
ゲンジはグウレイアにお礼をのべました。
「わたしは何もしていないわ。」
グウレイアは探し出すどころかゲンジも見失ってしまったことから何もしていないと返しました。
「お姉さんが探そうとしてくれたおかげで、ぼくはみんなとまた会えたんだよ。だから……、ありがとう……。」
「グウレイアお姉さん、ゲンジを守ってくれてありがとう!」
ゲンジの仲間のホタルたちもグウレイアにお礼をのべました。
「ふふっ……、みんなとってもきれいね……。」
「お姉さんの身体の光も七色できれいです……。」
七色のかがやきを取り戻したグウレイアはホタルたちの光に見とれ、ホタルたちもグウレイアの七色にかがやく身体に見とれました。
ホタルたちとたくさん舞い踊った後、月が西にかたむき、東の空が赤く変わり、別れがやってきました。
「グウレイアお姉さん、本当にありがとう。」
「お姉さん、ごきげんよう。」
「わたしこそありがとう……。それでは……、あなたたちに水の加護を……。」
ホタルたちとの別れの後、涙を流し終えたグウレイアは湖に戻って魚たちとたわむれる日々に戻りました。