表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新・ハーメルンの笛吹き男

作者: 千島夜

 中世のドイツの北の町ハーメルンで、たくさんの鼠たちが作物を荒らして飢饉が起きていました。作物だけでなく、老人や小さな子供まで齧られるようになり、病気も蔓延しました。

 みな、そんな鼠を追い回し、あれこれと策を立てましたが、そんなものでは到底追いつきませんでした。


 そしてもうできることはないと言うほど困っていた時のことです。奇妙なまだらな服を着た、商人がやってきました。後に、ハーメルンの笛吹男と呼ばれる者です。

 商人は笛が上手く子供に好かれました。何より、当時貴重だった殺鼠剤を持ってきました。そして町長に言いました。


「私は皆さんがお困りのねずみ退治を、すぐにもやってのけることが出来ます。どうですか?金貨一袋で お引き受けしましょう。私に任せてみませんか?」


 いや、金貨一袋はたいそうな金額。ちょっと高すぎないか……と 町長は思いました。

 もし鼠を退治できなければ、金は払わなくていい。もし鼠を退治したなら、しばらく村に留め油断させて殺そう。腹黒い町長はそう考えました。


 町長の約束を受け、商人は広場に行って殺鼠剤を撒き散らしました。この時、笛は町長に預けてありました。時間が立つに連れ、殺鼠剤は風に流され町中に広がり、全ての鼠は死に絶えました。

 人々は歓声を上げて大喜びしました。長い事毎日悩んでいたねずみの害から、やっと逃れることが出来たのです。町中の人々がお祭りの時のようにはしゃぎまわり、大変な騒ぎになりました。

 商人と町長だけがその様子をジッと見ていました。


 皆本当にほっとして、その夜は久方ぶりにぐっすりと何の心配もせずに眠ることが出来ました。

 さて翌朝、町長の所に商人が来て報酬を要求しました。


 町長はこの時たいそう困っていました。報酬を払わないのはもちろんとして、このままでは、町は冬を越せません。鼠が死に絶えても、食べられた食料が戻ってくるわけではないのです。

 そんな町長の様子を見て、商人が言いました。


「わかりました。報酬はまた取りに来ましょう。ただ、あの笛だけは返してください。返してくれるなら何でもします」


 その言葉を聞いて、町長はニヤリと笑いました。


「ならば……そうだな子どもたちを連れてあの洞窟に入ってくれんかね」


 町長は口減らしを行うつもりでした。子供が全員いなければ、ギリギリ冬を越せそうだったからです。


 子供はまた作ればいい。だが、町を滅ぼすわけにはいかん。口減らしをして大人たちを生かすのだ。そう大人たちにも説明しました。最初は反対していた大人たちも、仕方のないこと、と諦めてしまいました。


 商人は、町長に言われたとおりに子供たちを集めました。もともと商人を慕っていた子どもたちは、彼の配る飴につられて、簡単についていきました。大人たちはその行進を黙ってみていました。


 洞窟に入った商人と子供を確認した後、町長は入り口を埋めました。洞窟は行き止まりになっているので、中で商人と子供は死んでくれます。

 やっかいな商人と飯を食う子供を同時に殺せて、町長は大満足でした。


 ところでその頃、殺人はもちろん、口減らしも王様によって禁じられていました。


 そこで町長は残った笛を証拠として、商人一人を悪者に仕上げるため、王様に『ハーメルンの笛吹き男』の話を報告しました。笛を吹いて鼠を殺し、笛を吹いて子供をさらった、と。

 鼠と子供がすっかり消えてしまうという事態に辻褄の合う話でしたが、王様は疑っているようでした。

 ですが洞窟は閉ざされ、大人たちは町長と口裏を合わせていたため、真実にはたどり着けませんでした。


 町は口減らしのかいもあって、なんとか冬は越せました。

 しかし商人の持ってきた殺鼠剤は、非常に強力でした。それは人体に影響を及ぼすくらいに。

 その後一人として、健康な赤ん坊が生まれることはなく、大人たちは次々と病を起こして死んでいき、結局村は滅んでしまいました。彼らは子供を口減らししたことに、神様から天罰が下ったのだと考えました。

 子供を口減らししてまで守ろうとした町は、今はもうどこにも有りません。


 一方洞窟に閉じ込められた商人はニヤリと笑いました。

 彼は地理にも精通しており、この洞窟は行き止まりになっているけれど、少し掘れば反対側に出られることを知っていました。

 そしてもちろん殺鼠剤の強力さについても理解していました。「報酬は後で」と言ったのは、「村が滅んだ後で」という意味でした。人がいなくなった村なら、金目の物を回収するのは容易いですから。

 また商人が町長を誘導して、子供を連れてきたのは、自分が王様になるためでした。子供なら言いなりになると思っていたからです。殺鼠剤を解毒できる飴を配っていたのもそのためです。


 洞窟から抜け出して、商人と子供たちは緑豊かな山の中にやってきました。そこは病気と飢えの蔓延っていた町とは違い、きれいな川が流れ果物もたくさん実っていました。見捨てられた子どもたちに神様が与えた楽園だったのかもしれません。


 商人は全てを説明して、子供たちに言いました。


「かわいそうに。君たちは親に捨てられてしまったんだね。大人を信じてはいけないよ。これからは私についてくれば大丈夫だからね」


 子供たちは頷きあい、商人を石で殴りました。商人はあっけなく死んでしまいました。


 商人の言葉通り、大人は信じてはいけないと思ったからです。町長も商人も町の大人たちも、みんな都合よく子供たちを扱っていることに、気づいていたからです。

 

 数十年後、そこには子供たちが作った村ができていました。偶然にも、そこに王様が通りかかりました。

 子供たち、といってももう子供ではありませんが、彼らは王様に全てを話しました。


 全てを知り大いに驚いた王様は、彼らに『ハーメルンの笛吹き男』の話をしました。

 そしてこの話を後世に伝えても良いかどうか尋ねました。


 彼らはこれを承諾しました。人を騙すことの悪辣さも、知らない人を信用してはいけないということも、よく理解していたので。

 

 代わりに一つだけ王様にお願いしました。自分たちの村の名前を、かつて鼠の荒らしたあの町と同じ、ハーメルンにすることを。


 彼らの子孫の住むハーメルンは、今でも栄えています。ドイツ有数の大規模自立都市として。




今後の執筆の参考にさせていただくので、よろしければ評価・感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ