記憶喪失編(1)
私!トップアイドル目指します!!!
「ここはどこだ?」
おそらく記憶喪失の俺が、真っ先に疑問に思ったことがこれだ。そして、その次に「俺はだれだ?」が来た。
ここはどこだ?というのは、なんていうか、ありきたり?な疑問というか、日常でもよくあること、といえばよくあることではないだろうか?
例えば君が、今手にしている携帯機器がなくなったら「ここはどこだ?」が、よくおこるのではなかろうか?
しかし、「俺は誰だ?」は違う。これを思う人間は、これを思ったことのある人間は、記憶喪失になったことのある、もしくは現在進行形で記憶喪失の人間だけだ。だからこそ、前述した通り、俺は記憶喪失なのだ。
そんなこんなで頭の中が整理整理できたところで、目の前の、眼鏡をかけた美人が、そう、この女、俺があたふたしている最中には俺のことを見ようともしなかったくせに落ち着いた素振りをみせた途端に俺に話しかけてきやがった。
「あのねぇ、君、大丈夫?」
そんなわけがない。そもそも俺が大丈夫か以前に気になることが多すぎる。
「変なことを聞くようだが俺は誰だ?」
「俺は、だれ?」
俺が口に出した単語を九官鳥のように口の中で反芻した言葉が俺の耳にわずかに入ってくる。
「俺は誰?って、その、ようするに、あなたは誰?ということを聞きたいのよね?私に」
(…?)
何を言っているのか。俺は誰だ、という言葉の文字列がさす意味は俺が知っている限り一つしかないはずなのだが。
「ああ、うん。そういう意味だ。むしろそういう意味でしか受け取ることができない発言のはずだぞ。俺の言った発言内容は。できれば早く答えてくれないか?その、俺が思うにここは病院で、あなたはお医者さんなんだろう?まさか俺のことを知らないというわけはないと思うのだが」
「君ね、勘違いしているわよ。ここは病院でなければ、私はお医者さんとやらでもないわ。ここは世界次元歪曲対策機関の警備支部よ。あなたは収差支部が球体世界に現れた不明級歪曲獣に襲われた衝撃で中間管理世界に飛ばされてきたのよ」
「はあ?」
そんな荒唐無稽な話を信じろと?記憶喪失だって言っても思い出せないのは自分の名前や自分のしてた仕事とか、後、いたのかどうか不明だけど家族の名前とかその配分だとか、自分に関する記憶なだけで一般常識は忘れたつもりなんでないぞ。
「信じれない、って感じの顔ね、記憶があればあなたの身に何が起こったのか、その正体が球体世界の不明級の歪曲獣の尻尾が少しでもつかめるかも。なんて考えていたけれど」
まあいいわ、と彼女は言葉を続ける。
「あなた何か持ってないの?あなたのその服、ガクセイフクとかいう10代の学生が着る服でしょ。その服を着ている球体人の黄色人種は自身の身分を明らかにするガクセイショとやらを持ち歩いているって知り合いの球体人に聞いたことがあるわ。それを出しなさい」
ああ、そうか。確かに、学生服を着て、い、、る、から…?
「あ、あ、ああああ、あの」
「?どうしたのよ。急に慌てて。ガクセイショは見つかった?持ってるならば免許書でもいいわよ。」
そうじゃなくて、そうじゃなくて、そうじゃなっ、
「あ、あ、!!!」
違和感は、あったんだ、でも、だけれども、なんていうかそれどこじゃなかったからっていうか。
「その、声や体に違和感があったっていうか、その、あの、えと」
なんて伝えればいいんだ。この、すごく大事なことのはずに、それが何かわからなくて、来ている服を見た際に感じた嫌悪感というか。声の妙な高さというか、からだが、
「声や体に違和感?」
ふぅむ、と考え込む眼鏡美人さん。俺は、その、なんだ?
「その症状、なんだけど、というか私も少し疑問には感じていたわ。どうして『女の子』なのに一人称は『俺』なんだろう、男勝りな子なのかなぁ、なんて勝手に思っていたんだけれど」
急にのどがかれて声が、思うように出せない、続きを聞くしかない。どうして俺は、残酷な事実に、ここまで無抵抗なんだ。
「あなたの出身って球体世界の住民よね?だとすれば、今あなたの身に起こっているその現象は、憑依よ。球体世界の、さらに、日本という国ではこういった異端な事故に巻き込まれて実害を被った際に転生だとか憑依だとかに見舞われることが多い、という文献を読んだことがあるわ」
なんだその文献!?
「まあ、アレよ。女の子になったのよ、あなた」
我ながら完璧なまとめ方ね!と嬉々としている彼女の感覚はどこかずれていると思う。だって、見ればわかるし、女の子になっちゃった?じゃなくて憑依しちゃったことくらい。
「ところで最初にした質問なんですけど、ここってどこなんですか?」
「さっき言ったじゃない。世界次元歪曲対策機関の警備支部よ」
「だから、えぇ、それ本当に言ってるんですか?だとしたら相当やばいですよ」
☆彡
第一話で、未だ主人公の情報0な小説があるってマ?