6. 監禁中
最後の最後に、残酷な描写? って程でも
無いですけど、一文字あります。
想像力の溢れる方は、
ご注意下さいませ。
「姫様、お茶をどうぞ?」
ジェイドさんが部屋から出て行った後、メイドさんと三人になった。一人がテーブルの上から朝食の片付けをしていて、もう一人が、私の目の前でお茶をサーブしてくれている。
「あ、ありがとう」
ローテーブルに置かれたカップをまじまじと見詰めた。明るい紅色の水色が美しい。きっと高級品なんだろう、香ばしくて爽やかで甘い香りが漂っている。
「いただきます……」
鼻に抜ける良い香り。スモークされた果物の様な深い香りだ。
「うーん。良い香り。美味しい……」
「それは、ようございました」
紅茶を淹れてくれたメイドさんが、にっこりと微笑んで答えてくれた。
しかし、これから何をしよう。
部屋からは出ない方が良いんでしょ? 朝ご飯も食べて、お茶も飲んでる。今は何時なんだろう。感覚からすると、もう会社に着いて仕事も初めている時間だと思うけど。
スマホも無い。ぱっと見時計も見当たらない。私がこっちの世界に来てから何時間経っているのか。
ああ~。お客様、ドタキャンしちゃった。池田君(後輩)ほっぽっちゃったし。大丈夫だったのかな? それより、私が社内で行方不明になったって、大変な事になっているんだろうか。考えると、冷や汗が出てくる。
あの時、池田君と同行営業する為、会社を出る所だった。
でも、忘れ物に気が付いて、7階迄を階段で戻って、途中で千夏に会って、私提案のチョコ貰って、それから芝崎にエレベーター前で会ったんだよね。
「そうだ。アレ何だったんだろう」
つい言葉に出てしまった。私のチョコと交換に、芝崎がくれた包み。濃紺のパッケージに細い金色のリボンが品が良い。私でも知ってるショップの物だ。
「忘れて来ちゃった。あの部屋に置きっぱなしだ」
頭を抱えて、膝に突っ伏した。あっちの部屋にバッグを置いて来てしまった。まさか帰って来れないなんて思わなかったから。
悩んでいる私の挙動不審さに、メイドさんの一人が声を掛けて来た。
「あの、姫様? ご気分が優れませんか? 大丈夫でございますか?」
心配そうな声に顔を上げた。
「んまっ⁉」
眼が合ったメイドさんの頬がポッと真っ赤になった。貴女こそダイジョウブデスカ?
紅茶を淹れてくれたほっぺ真っ赤メイドさんは、ジーンさん。茶髪の茶色目。年は、多分20歳位。今の私より少し上に見える。ぱっと見美人顔のすらっとしたお姉さん系の外見。でも、なんだろう、私の顔を見てから動きが妙にギクシャクしているけど?
それから、食器を片付けてくれていたのは、メリアさん。こっちは金髪に青い目の14,5歳の少女だ。鼻の上のソバカスがキュートな感じ。丸顔でニコニコした様子は、見ているこちらも安らげる。
「気分は悪くないです。ただ、急に連れて来られたから、何も持って来ていないの。大事なモノが入った鞄とか……着替えも無し、メイク道具もなーんにも持って無いの」
両手を広げてジーンさんに訴えた。本当に身一つなんだもの。心細いわ。
「ああ。そうなのですね? でもご心配なく。着替えや身の回りの物はここにご用意してありますし、そんなに大事なモノでしたら、旦那様が持って来て下さいますわ。いらした時にお願いしてみては如何でしょう」
そうですか。身の回りの物はありますか。
「姫様? 宜しければ、お風呂に入りませんか? お風呂に入ってさっぱりして、お着替えしましょう。旦那様がお戻りになる前に、お着替えを済ませておくように言われておりますから。素敵なドレスが沢山ありますわ。ねっ?」
お風呂? こんな時間から? まるで小原庄助さんじゃないですか?
「「さあ、姫様」」
二人に満面の笑顔で促され、私はバスルームに連行されました。
◇◇◇◇◇
「ココレットはどうしたのだ!?」
頭上から響く大きな声。
「アレンフォルト!! ココレットはどうしたのだ!? 何故連れてこなかった?」
玉座から立ち上がったその人は、真っ直ぐに自分の前まで来るとそう言った。
父であるバーナム国王。フェレデリック・バーナム三世だ。普段は冷静な賢王としての名声は高いが、こと家族に対しては、いささか判断がぶれる時がある。親しい者には、親バカと揶揄われる事もある。
「連れてきましたよ。祭壇までは確かに。でも、ここに移動する時にジェイドがココと一緒に移動すると言ったんです。アイツがココを抱いて移動魔法を掛けたんです」
「ジェイドが?」
父王だけでなく、その場にいた全員が声を上げた。そりゃそうだろう。アイツは宮廷魔導士。魔法でアイツ太刀打ちできるのは何人もいない。そんな奴が一緒にいたのに来ていない。
これは、奴が故意に来なかったのではないのか?
「ココは確かにジェイドと一緒にいます。でも、何でこの場所にいないのかは判りません。直前までこの部屋に転移するものと思っていましたし、違える様子も感じられませんでしたから」
部屋には父である陛下、大神官と神官長、宰相と三騎士団の騎士団長、そして魔導士長と大猫族のダーチェ。そして私だ。本来ならここに魔導士のジェイドとココレットが集まるはずだった。
「何かあったのだろうか? 魔法の失敗などという事は無かったのか?」
宰相がそう言って魔導士長に詰め寄る。他の者ならまだしも、ヤツに限ってそれは無いと思うぞ。だって、ここへの転移魔法の術式を完成させたのだってアイツじゃなかったっけ?
「それは、全くありえません」
「ならば、ココレット姫は何処に行った? まさか、ジェイドが故意に連れ去ったと言うのか!?」
冷静に答える魔導士長に、宰相が食って掛かった。何で魔法使いは落ち着いているんだ。お前の所の部下だぞ?
「陛下。ジェイドが考えなく、このような事をするとは思えません。きっと、何か理由があるのです。それも我らに知られては不味い事でしょう。少しお時間を下さいませんか」
魔導士長が陛下に向かって頭を垂れた。
「しかし!! 万が一、ココレットに何かあったら!! 可愛いココレットにまさか血迷うたか?」
父よ。さっきまでの威厳は何処に行った。心配する気持ちは判るが。幾ら何でもそれは……
「ほっ! ほっ! ほっ! その時は、ジェイドに責任取らせて、結婚させれば良いではないかのぉ」
「じじいっ!!」
それまで椅子に座って、うつらうつらしていた大神官が、楽しそうにそう言った。空気を読まないその言葉に、思わず父上が素で叫んだ。
「あっ! し、失礼した大神官殿。しかし、幾ら何でもこの場でその様な戯言は、ご勘弁願いたい。どこにいるかも、無事なのかも判らないのに!」
今にも泣きそうな父上に、大叔父に当たる大神官がほっほと笑いながら声を掛ける。
「なーに、そろそろジェイドが来るじゃろう。どうじゃ、ダーチェ?」
ちらりと、ダーチェと呼ばれた大猫族に目線を投げると、ダーチェの耳がピンと立ったのが見えた。
「来たニャン。ジェイドがもうすぐここに来るニャン。良いかーい? ごー、よん……」
カウントダウンを始めたダーチェ。尻尾をふりふりして部屋の中央を見ている。
「さん~」
僅かに空気の流れを感じる。
「に~?」
中央から外側に向かって、風が吹き出した。
「いち!」
小さな竜巻がシュルシュルと天井まで伸びていく。
「ぜろ。ニャン!」
「ニャンは止めろ」
声と共に部屋の中央に黒いローブが翻った。そして長い髪が逆巻いたジェイドが出現した。
「遅くなりました」
何事も無かった様に、王に向かって礼を執る。しかし……
「ジェ、ジェイド? そ、そなた何を持っているのだ?」
王が震える指で、ソレを指した。ジェイドの足元にソレがあった。
「ああ。これですか? 犬です。奴らの犬です。」
違う!! 多分、いや、絶対。ソレ、ワイバーンの首だろ!?
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大きな猫さんの名前はダーチェです。
ジェイドの思惑は?
何があるのでしょうか?
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