4. 魔導士ジェイド
下から見上げられている顔。
普段は見上げるばかりで、こんな角度で見る事なんて無かった。
「芝崎? 芝崎なの?」
私が知っていた芝崎彬良は、少し茶色がかった短い髪で襟足もスッキリしていた。そして手入れをされた様な綺麗な眉も、イマドキ営業男子のお手本の様だった。確かに後輩の女子達なんかは、高身長でスタイルも良いから韓流スターの誰かに似ているとか、エグ〇イルのメンバーにいそうなんて言っていた。
でも、目の前で膝まづいている彼は、長い黒髪。それもカラスの濡れ羽色って感じの艶々のストレート。センター分けで綺麗な富士額がくっきりと見えた。男らしいスッキリとした顔立ちに、薄い唇。
明らかに違うのは、その目の色。芝崎は髪の色と同じく少し色素が薄い茶色っぽい瞳だったけど、目の前の彼は……
緑の瞳。少し青みがかった緑。明らかに、私の知っている世界の色じゃない。
「シバサキ? シバサキとは? 私はジェイド。宮廷魔導士のジェイドと申します」
彼がその瞳を眩しい物を見るように細めると、私の手を取った。
芝崎じゃない? 芝崎じゃないんだ……
「姫様、ここからは私がご案内いたします。この祭壇から、陛下のお待ちになっている部屋までご案内いたします。しかし、アレンフォルト殿下。ココレット姫のこのお姿は、どうしたのですか?」
スーツ姿の私を上から下まで見たジェイドさんが、隣に立っているアレンに向かって言った。えっ? これじゃダメだったの?
「ココがコレを選んだ。こっちの服では時間が掛かるからだ。それを尊重したんだぞ?」
アレンが少し拗ねた口調で答えた。
「しかし、幾ら姫様でもこの姿で陛下の前には……」
正直言って、今から着替えに戻るとかは無し。ここは強気で押し切ろう。
「ジェイド様? この格好が不味いのは判りましたけど、今だけはこれでお許し願えませんか? この服は私がいた日本では、誰の前に出てもおかしくない格好でした。それに、姿が変わってしまった私にとって、日本から変わらずにここにあるこの服は、今とっても特別に思えるのです」
今シーズンに先駆けて買ったお気に入りのスーツ。紺色のノーカラージャケットに、ノーカラーの白のカットソー。セミタイトのスカートは、上品な丈で足が綺麗に見えた。それに、顔周りの色差しにと、イエローとオレンジのストライプのジレを巻いている。それが良いと、結構皆に好評だった。
「……確かに良くお似合いです。美しいおみ足が丸見えですが……お許し下さい。貴女様の世界を無下に否定するつもりはございませんでした。でも、そうですね。今の貴方にとっては特別な存在でしたね」
ジェイドさんがそう言って立ち上がり、私ににっこり微笑みかけた。身長も高い。見上げる角度がやっぱり芝崎と一緒だ。涼やかな目も本当によく似ている。
「おい。いつ迄見詰め合っているんだ。ジェイド、父上達の元に早く案内しろ」
アレンが、ジェイドさんの手をペしりと叩いた。確かにちょっと二人の世界? に入っていたみたい。しかし、こうしてみるとジェイドさんもアレンも背が高い。少しだけジェイドさんの方が高いかな。確か芝崎は、188センチ? とか言っていたからジェイドさんは丁度その位。アレンは、多分182、3センチ位かもしれない。はっきりとは分かんないけど。
「そうですね。それではココレット姫は私とご一緒に。アレン様は、まあ自力で来て下さい」
「なっ⁉ 何だお前? 随分な言いぷっりだな」
「何事も練習です。それではココレット姫、失礼致します」
二人のやり取りを聞いていると、私はジェイドさんが連れて行ってくれるらしい。
早く行きましょう。と、呼びかけに顔を上げた。
「んなぁああ!? ちょっ! ちょっと!?」
変な声が出てしまった。だっていきなり抱き上げられた。
全女子憧れの、姫抱っこ。それも高身長の超イケメンに!!
今まで見たことの無い視線の位置。床がすっごく遠く見える。それに、アレンのつむじも見える。
「いやいやいやいや、嫌!! お、降ろして下さい! 何で抱き上げる必要があるの⁉」
距離の近くなったジェイドさんを、正直この至近距離で見るのは辛い。だって、こんな距離で男性の顔を見るなんて久し振りだもの。
「必要があるのですよ。貴女はまだ魔法が使えませんから、移動には魔力を持った者の助力が必要です。ですから、私が」
魔法で移動? 信じられないけどこの世界にはソレがある。ええ、身を以て知りましたよ。
腕を突っ張ってジェイドさんから離れていた私は、力を抜いて彼に身を任せた。だって、今の私は彼等から聞く情報しか無いのだから。
「……じゃあ、遠慮なく。お願い……します」
それでも慣れない状況に、心臓はバクバクしている。この鼓動は絶対ジェイドさんにも伝わっていると思う。居た堪れないぃ~。
「承知致しました。それでは、ココレット姫、私の首に腕を廻して下さい。その方が姿勢が安定します。そうして頂けると私も楽ですし、役得ですから」
シレっと何か言った。聞き逃していいのか判んないけど、真面目な顔してセクハラしたんじゃない?
この世界にセクハラが通用するか知らないけど。
もう、早く行こうとばかりに首に腕を廻す。これ以上何か言っても、疲れそうだし。
「あっ」
良い香りがした。ふわりと薫ったのはシトラスとウッド、僅かにユーカリの様な植物性の香り。
「何か?」
色っぽく流し目で聞かれたけど、首を振った。
だって、この香りって芝崎が付けていたコロンに似ていたから。ジェイドさんは薄っすらと目を細めると、アレンに向かって合図をした。
「それではココレット姫、良く掴まって下さい」
水晶球の傍に立つと、何か言葉を紡いだ。こんなに近くにいるのに、聞こえてくる声が何を言っているのか判らなかった。コレが魔法の詠唱とか言うモノ?
声に合わせて水晶球の周りに浮かんでいた光が、円を描いて私達を囲んだ。
「キレイ……」
不思議な光が大きくなって、私達を包み込んだ。
「さあ、皆様の所に参りましょう」
ジェイドさんの声が、耳元で囁いた。
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ジェイドさんは、何となくですが
ムッツリぽいっ?
芝崎君との関係性は……?
次話、異世界転移した理由についてです。
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