3. まさかの再会?
長い回廊を9人で歩く。
一番前の先頭は、多分騎士。だって、高身長で体格も均整が取れている美丈夫様だもの。オニイサマ?の言う事が正しければ、きっとこの騎士は近衛騎士とか言う者でしょうね。
そして、二番目が自称私の兄、アレンフォルト。
確かそんな名前だったと思うけど、この子もスタイルが良いわ。10代の男の子の後ろ姿なんて、こんなにまじまじと見られる事なんて無いから、じっくりこの際見ておこう。なーんて。
三番目は私。私の後ろには侍女っぽい女性が二人。でも、この二人はさっき迄私がいた部屋には居なかったと思うけど? どこかにいたのかな?
私とアレンフォルトの左右にも騎士が付いているので、合計9人体制で移動している。何とも物々しいと言うか、効率が悪いと言うか。
話が効けると判ってから、私の行動は早かった。
顔を洗い、携帯用の歯ブラシで歯磨き。それから髪をシュシュで纏めてスーツに着替えた。カットソーもスーツも、まるでクリーニングされたようにパリッとしていたのに驚いた。もしかして、後ろにいる侍女さん達が洗ってくれたのかな……
そんな事を考えながら、歩いている。もう随分部屋から離れたと思うけど。ちょっと、遠くない?
「えっと、これからどこに行くんですか?」
行き先を聞いていないので、とりあえず聞いてみる。だって、無言でずっと歩いているし、何も聞いていないのは不安になるもの。
「これから王宮神殿に行く」
アレンが前を向いたまま答えてくれた。
「王宮神殿? 何しに?」
ちっ。情報が少ないんですけど?
「魔導士と神官長、それから父上にお会いする」
アレンが前を向いたまま答える。ちょっと!
「あのさ⁉ 人と話をするときは、目を見て話せって教わらなかったの⁉」
振り向かせようと、思わず私はアレンの肩に手を掛けた。が、
シャキンッ!
いきなり私の両隣と、アレンの両隣にいた4人の騎士の剣が同時に引き抜かれた! そして、私の首、心臓、伸ばされた右手、軸になった左足にピタリと剣先が向けられた!
「なっ⁉」
引きつった様な声を上げると、一歩も動けなくなった。何よこれ? 映画やアニメでよく見る無礼者に対する剣捌きじゃないの。私が一体何をしたって言うの?
漸く振り返ったアレンが、呆れたように周りの騎士たちを見廻して、溜息交じりに言った。
「おい。いくら可笑しな格好をしているとはいえ、コレは僕の妹だぞ。剣を引け。ココ、びっくりしただろう? 済まないな」
アレンがそう言うと、一礼して騎士たちが剣を納めた。やられたことはアレだけど、キビキビした動きが綺麗だ。きっと鍛錬を重ねた剣術の賜物なんだろう。
でも、でもね? 聞き捨てならない一言が私の耳に引っかた。
「ちょっと? 今スルーしそうになっちゃったけど、可笑しな格好って何よ! このスーツは〇ッシェル・クランのスーツよ? 靴だって〇イアナだし。みんな似合ってるって言ってくれたんだから!!」
涼しげな顔に向かって言い放つ。結構な身長差がある分、私はアレンの顔を見上げないと話も出来やしない。
あ。この角度。
芝崎と一緒だ。芝崎と話をする時にとっても近い。
ツキンと胸の奥が痛んだ様な気がした。何だ。何だ? 何かが凄く引っ掛かっている感じがする。
「済まなかった。そうだな、ココの格好はあちらの世界では普通なんだな? 悪かった。気を悪くしないでくれ」
アレンはそう言って、私の頭を優しく撫でた。思いの外素直な彼の反応に、私の方が口を開けたまま固まってしまった。
そうだった。ここは私がいた日本じゃないんだ。多分? いやきっと。
「うん。こちらこそ御免なさい。私こそ、ちょっと大人げ無かったよね」
それからは、アレンは私の横を歩いてくれた。パンプスを履いている私の歩調に合わせて、少しだけゆっくりと。
王宮の最奥だろう。周囲には小さな東屋が幾つか建っていた。広い敷地は白い玉砂利が敷き詰められていて、植物の気配が全くしない。なのに、まるで森林の中にいる様な清廉な空気。これが聖域と言われる場所なのだろうか。日本の神社仏閣に行った時みたいだ。
白い大理石の神殿。行ったこと無いけどローマやギリシャにあるようなザ・神殿が見えた。かなり大きい建造物だ。沢山の柱がプリーツの様に重なって、遥か向こうまで続いている。
見上げながら、私の喉がゴクリとなった。今からこの中に入って、魔導士とか神官だのお父様? とやらと会うらしい。
「最終面接より緊張するわ」
ぽそりとと呟いた。
「お帰りなさいませ。ココレット姫。お久しゅうございます」
アレンに腕を取られて(エスコート?)神殿の中央に向かう。そこはホールになっていて、数段の階段の上に祭壇があった。細かい彫刻が彫り込まれた立派な祭壇に、更に台に載せられた大きな水晶玉が見えた。祭壇の上にも、横にも、周りにも、不思議な光の珠が浮遊している。これが電球の様な役目なんだろうか?
ポーっとなって周囲を見ていた私に、誰かが声を掛けた。
「お帰りなさい。ココレット・バーナム殿下。お待ちしておりました」
さっきの声の主が、もう一度私に声を掛けた。
深くて柔らかい、耳障りの良い声。その人は目の前で跪き、頭を垂れている。
黒くて艶やかな長い髪だ。カラスの濡れ羽色って、こういう髪質の事じゃないかな。金色の房飾りが付いた黒いローブも、逞しい肩を覆っていて、雰囲気は見紛うはずの無い魔導士。
目の前の彼が、ゆっくりと顔を上げた。
「えっ? 芝崎……?」
その顔立ちは……色素は全く違うが、芝崎彬良の顔だった。
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甘ジレに行くまでもう少し
時間が掛かりそうですね。
東洋系美形魔導士の登場です。
そろそろ状況を説明して
貰いましょう。
楽しんで頂けたら嬉しいです。