13. そこで引くってどういう事よ?
沈黙。
それも、皆の視線が突き刺さる。イタイわ。
「えっ? ココ、お前27歳だったのか?」
恐る恐るといった風に隣のアレンが聞いてきた。無言のお前が聞け。という圧が一番年下であろう彼に掛かったみたい。ああ、それとお前の妹? だろう! そんな感じね。
「ええ。向こうの世界、えっと日本ていう国だったんだけど、私は27歳だったよ。それに、この姿じゃなかった。黒髪黒目で一般的な日本人だったわ」
確かに少し色素が薄かったと思うけど、こんな金髪じゃなかったし、目の色だってアニメのヒロインの色だもの。唯一同じだとすれば、まあ性別位の物じゃない?
「……」
黙り込んでしまったアレン。それはそうよね。初めて会った妹が10歳も年上だっていうのだから。
「……魔導士長、一体どういうことだ? 何でそうなったのだ?」
頭を抱えているアレンの替わりに、ロマグレ魔導士長様に金色近衛騎士様が尋ねた。
「考えられる原因は幾つかありますが、限定するにはもっとお話を聞かないとなりません。しかし、本当にココレット姫は27歳ですか? そうは見えませんが」
遠慮しながら尋ねてくれてますね?
「はい。本当に27歳でした。社会人になって6年? 結構頑張って働いていました」
「シャカイジン?……働いていた?」
金色近衛騎士様は、シヴェル様だ。首を傾げて独り言のように呟いている。
「えっと、社会人というのは、学校を卒業して働ける状況にある年齢の人ですかね? 大体20歳前後からでしょうか。私は大学を卒業してから、直ぐ就職したので働き始めて6年目ですね」
「働いていたというのは、どんな仕事をされていたのですか?」
ポニテの第二騎士団のバージル様だ。何だか好奇心で、キラキラした目で見られている。
「仕事ですか? 仕事は食品の開発や販売をする会社で、企画や営業をする部署に勤めていました」
言っている意味が解るのかな? この世界に会社なんてあるのかしら? そもそもお姫様が働く事なんてあるのかしら?
「とにかくお前は向こうの、えーと、日本という国で27歳。働く女性だったという事だな?」
立ち直ったアレンが腕組みをしてそう言った。言いながら自分でも納得しようとしているみたい。
「そうです。27歳。杉本心菜。日本人でした。ところで、何で私は日本に異世界転移? させられたの? 生まれたのはアレンと同じ日でしょう。何か理由があったのですか?」
確か、昔の日本でも双子が生まれると、どちらか片方を里子に出したりしたらしい。最悪片方を殺めてしまうとか、監禁して外に出さないとか……不吉で残酷な歴史もあったと聞く。
ごくりと息を飲んで答えを待つ。
「それは王様と大神官に聞くニャーン。この場では無理ニャンねー。それよりココ? ココに聞きたい事がニャーン」
ダーチェだ。彼は自分の座っていた椅子ではなく、私の座っているソファの床に座り込んで私を見上げている。
か、可愛い!! 真ん丸の頭が、ピンと立った耳が可愛すぎる!
「なあに? ダーチェは何が聞きたいのかしら?」
ついついダーチェの頭を撫でてしまった。この位置にあるモフモフの誘惑に、勝てる人間なんていませんよ。
「ウニャン。あのニャン。ココは乙女なのかニャン?」
部屋の空気がビキッと音を立てて凍りついた。
シヴェル様がお茶に咽た。
バージル様がソファからずり落ちそうになった。
レブランド様がティーカップを持ったままお茶を零している。
アレンはお茶をブーっと噴き出した。
ジェイドは、目を見開いて私を凝視している。
「どうニャン? ココ?」
おとめ? 乙女って、乙女ってこと? つまり、乙女って乙女ってことを聞かれてる?
「……」
「ココ?」
「……な、」
「な?」
「……なんて!」
「なにニャン?」
「なんて事を聞くの!? 言わないわよ! ぜーったい言わないわよ! セクハラよ! 立派なセクハラ!」
可愛い貌と可愛い声、可愛い仕草で、ダーチェったら何て事を聞くの! そんな事この場で言えるわけ無いじゃない! 男性ばかりの、それもこんなイケメンばかりの中で!
鼻息も荒く言い切った私に、ダーチェが肩を竦めて言った。
「ゴメンねニャン。僕は聞けないと言ったのニャン。でも、この大人達が聞けって。僕は嫌だって言ったニャン」
ダーチェが私の膝にスリスリしながら上目遣いで見てくる。っくっ。
「おい! 貴様、ダーチェ! 嘘を言うな。貴様が自分で聞いたのだろう! 誰もそんな事聞けとは言っていないぞ!!」
真っ赤になって立ち上がったアレンが、ダーチェの首根っこを摘み上げようとした。ああ、そうね。この世界の17歳の青少年にとっては、刺激が強い話なのかしら。
「イヤーン。ココ、アレンがダーチェを虐めるニャーン!」
私の膝にしがみ付いて、ダーチェがいやいやをしている。アレンの手を避けようと必死だ。
「まあまあ、アレン、落ち着いてちょうだい。ダーチェも女性に聞いて良い事と悪い事は、覚えておいてね? まして、こんなに人のいる所でなんて駄目よ」
「じゃあ、二人だけなら教えてくれるニャン?」
この子、意外とメンタル強いわね。可愛い顔して結構グイグイ来るわ。
「ダーチェッ!」
若干引き気味だった私の替わりに、シヴェル様が口を開いた。
「ダーチェ。いい加減にしろ。ココレット様も困っていらっしゃる」
微妙な空気に包まれてしまったけど、まあ、確かに気になるところかな。だって、17歳と27歳だよ? 多分この世界では日本より結婚が早そうだもん。27歳なんて、言いたくないけど婚き遅れ。婚かず後家とかお局様とか言われてる年頃じゃないの?
まあ、確かに日本でも早いとは言われる年齢じゃなかったけど、まだまだ大丈夫。40代で結婚だって普通にある時代だし、結婚しなくてもちゃんと生きていける世の中だったけど。
でも、この世界は……男尊女卑の早婚。一夫多妻制だったりして!?
「おい。ココ。大丈夫か? 何だか顔色が悪いぞ?」
アレンに顔を覗き込まれた。何だか想像だけで疲れて来たわ。早く色んな事を明らかにしたい。そうじゃないと想像だけが大きく膨らんでしまいそうだ。
「ジェイド、ココの具合が悪くなる前に城に帰るぞ。父上達もお待ちだからな」
考え込んでいる私を見かねて、アレンがジェイドに声を掛けた。そうよ、何時までもここにいる必要は無いのだから。
「ココレット姫、ここからお帰りになりますか?」
ジェイドが聞いてくるけど。ちらりと見やって頷く。
「お話しを聞きたいので、王様や大神官様に会いたいです」
「判りました」
すんなりとジェイドが頷く。何だか急に物分かりが良くなったみたい。だ。
でも、下を向いて何か呟いている。
「ココレット姫が……27歳。乙女ではない……かも?」
小さな声でブツブツ言っているのが聞こえた。それもさっきの話題を引きづっているし。
「はぁ。あのね、日本で27歳って言ったら、乙女である方が珍しいかもよ!?」
ついついそう口に出てしまった。慰めるつもりで言ったのだけど……
ヤバっ!! やっちゃった!
シヴェル様がお茶に咽た。
バージル様がソファからずり落ちそうになった。
レブランド様がティーカップを持ったままお茶を零している。
アレンはお茶をブーっと噴き出した。
ジェイドは、目を見開いて私を凝視している。
ああ! デジャヴった! さっきもこの風景を見たわ。
そして、皆にドン引きされたのが……判った。
ブックマーク、誤字脱字報告、感想、イラスト
評価ボタンのポチも
お待ちしています。
少し事情の分って来た心菜さん。
しかし、多分皆が気になっていた
年齢の経験差をダーチェが
突っ込みましたね。
さて、城に戻って話が聞きたい
所ですが、なんかショックを受けているジェイド。
次話、美爺節炸裂です。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
別話の悪役令嬢は天使の皮を被ってます!! の本編が完結しました。宜しければそちらもお楽しみくださいませ。