12. 召還はいつ、どこに?
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「アレン、何を言っているんですか!?」
思わず怒鳴りつけた。全く、何が責任取って嫁にするよ!
「お、落ち着け! 僕が言った訳じゃないぞ。神官長のジジイが言ったんだ。怒るなら爺に怒ってくれ。それ程心配していたって事だ。そう言う事にしてくれ」
気が付けばアレンの目の前で、仁王立ちになっていた。最近聞くことが少なかった『嫁』に、敏感に反応してしまったせい。
アラサーの性だわ。コレは仕方ない。傷つきやすいお年頃なんだから。
特にうちの会社は女性社員が多かったから、最近ではコンプライアンスに敏感で、ハラスメントに対する注意喚起が徹底されていた。だから暫くこの手の話は面と向かって言われることは無かったんだわ。
セクハラだよ。これは立派なセ・ク・ハ・ラ。
但し、この世界にセクハラという概念があればの事だけど……無さそうだわ。
いけない。冷静にならなければ。久し振りに聞いた地雷ワードに過剰反応したせいで、ついつい杉本心菜27歳が出てしまった。
「ジーンさん、お茶のお替りを下さいませんか? それから、皆様にもお願いします」
深呼吸をしてからジーンさんの方を見ると、とびきりの笑顔で大きく頷いてくれた。
「ココレット姫様、私達の事はジーンとメリアとお呼び下さいませ」
名前呼びは嬉しいけど、敬称は付けるなって事ね? はい。判りました。次回から気を付けます。
いきなり4人も増えて円テーブルだけでは、きゅうきゅうになってしまう。なので、私達はソファに移動して改めてお茶を頂く事になった。
大きなソファには、私の隣にアレン。向かいにシヴェル様、レブランド様、バージル様。お誕生日席にそれぞれジェイドとダーチェが座っている。
「先程魔導士協会に捕えていた、タンゼン元第一騎士団長が死んだ。念のため言っておくが拷問ではないぞ。奴に魔法を掛けて操っていた者の仕業だ」
アレンがジェイドに向かって口を開いた。誰かが亡くなったらしい。初めて聞く名前だった。
「そうですか。それで、彼の死に方は? どんな風に死にましたか?」
ジェイドがチラリとアレンを見た。けれど、気にも留めない様子でティーカップに口を付けている。
何なのコノヒト。人が死んでいるのに随分そっけない。
聞かれたアレンが私の顔を見た。ウっと、口ごもった様子から、もしかして聞かせたくない程の死に様なのだろう。
「ああ、大丈夫ですよ。言ってくれても」
一応、心の準備をする。凄惨な事故や事件の話は、残念ながら日本でも聞いていた。残念だけど。
「ココ、聞きたく無ければ耳を塞いでくれ。
ワイバーンの額にあった魔文字が、タンゼンの額に入れ墨の様に張り付いただろう? あの文字は消える事が無いままだった。
しかし、取り調べを始めて親玉の事を追求しようとしたら……」
そこまで聞いていた私の耳をダーチェが肉球のある掌? で、ぷにっと抑えた。ここから先は聞かせたくないって配慮だろう。でも、私はダーチェの手に指を添えて、外してくれるよう目で訴えた。
うん。この猫さん、ダーチェは気の使えるいい子だわ。彼は頷くとそっと掌を外してくれた。
「タンゼンの額にあった魔文字が解けて首を絞めた。彼は文字が変化した線に縊り殺されたのだ。まるで、お前が持って来たワイバーンの首の様になっってしまった」
縊り殺された? ジェイドが持って来た? ワイバーンの首? 持って来たって言ったよね?
想像してしまった。
数時間前に飛んでいるのを見た、あのワイバーンの首? ジェイドが首を切った? 切って持って行った?
その光景を想像してヒヤッと背筋が震えた。会ったことの無い男性の首と、ワイバーンの首がダブって見えた。
思わずナプキンを口に当てた。出す物なんて無いけど、生々しい光景を思い浮かべる逞しい想像力に、今は思いきりしっぺをしたい。
「ふん。随分と趣味の悪い魔法ですね。魔文字を金属の糸に鍛錬をしたのでしょう。それで首を切るとか、悪趣味の極みですね。でも、そんな事が出来る人物は限られています。そうですね、魔術師長?」
ジェイドは全く表情を変えずに、淡々と話している。でも、貴方はワイバーンの首を切ったのでしょう? 同じじゃないんですか? 確かにあっちは相手人間ですけど。
「そ、そんな事が出来るんですか? 出来る人間が限られているって……いったい誰が? だって、その亡くなった方って第一騎士団長さんだったのでしょう? そんな強い人が操られるなんて……」
第一騎士団の団長さん。そんな人が操られるの? だって騎士と言えば精神力とか、体力とか普通の人より優れていそうなのに、そんな人も魔法に操られてしまう。それに、操った人は簡単にその人を殺めてしまう? 何て世界なんだろう。
「確かにタンゼンは剣士としては優れていました。剣技においてはこの国で1、2を争う強者でしたし、職務にも真面目で誠実な人物でした」
苦悩に陰った視線を向けて、金色騎士のシヴェル様が教えてくれた。膝の上に置かれた拳に、力が込められているのが判った。
「タンゼンが何故、邪な魔法使いに操られる様になったかは判りません。彼は第一騎士団長として、王都の中心部を警備していましたが、何も変わった所は無かったのです。しかし、ココレット姫様がお戻りになった時から何かが変わった様に思えます。それが、何かとは限定しづらいのですが……」
シヴェル様はそう言って、唇を噛みました。本当に残念そうな、悔しそうな表情だわ。もしかしたら、タンゼンさんの事をよく知る間柄だったのかもしれない。
「ココレット姫があの舞踏会で召還された時、それを知る者は限られた者達ばかりでした。この世界にいらっしゃらなかった貴女が、いきなり出現する訳ですから、貴女を狙うモノからすれば願っても無い機会だったのです。私達は、貴方の気配をこの世界に紛らせ、自然に混じり込めるように考えました。それが、あの舞踏会の場だったのです」
ロマグレのレブランド様が教えてくれる。そう、それが知りたかったの!!
「でも、何で舞踏会なのか疑問に思われるでしょう。最初は私達もそう思いました。しかし、敢えてジェイドの提案を受け入れたのです」
レブランド様が続けた言葉に、チラリとジェイドの顔を見た。やっぱり、アンタか? ジェイド。アンタが私の召還をしたの?
「ジェイド、何で私が舞踏会のホールに召還されたのか、もう少し詳しく教えてくれるかしら?」
私は必要以上の言葉を発しない魔導士を、真っ直ぐ見据えて聞いてみた。他の人達は勿論知っている事だと思う。でも、私はそれを知らない。
「姫様を舞踏会の場に召還したのは、貴女の存在を奴らに気取らせない為です。
貴方の気配はこの世界に全くなかった。新たに生れた訳でも無く、育ってきた訳でもありません。
つまり、17歳の姫君としていきなり出現するのです。それもこの世界とは全く違う、異世界の知識や経験と共にです。
この世界の誰とも違う、唯一無二の存在としてです。私は、出来る限り目立たない様に、出来る限り存在を薄められる環境に召還しようと考えました。
奴らが異世界の行った貴女を探し出し、危害を加える前に召還する必要がありました。時間に猶予はありませんから、なるべく多くの人が集まり、なるべく多くの異能者が集まる。そんな機会を考えました」
ジェイドはそこまで言うと、乾いた唇を湿らすようにお茶を一口飲んだ。私はじっと言葉の続きを待つ。
「あの舞踏会は、毎年恒例で行われるバーナム王国最大の祭りです。それも王都中の主だった会場で、沢山行われていた舞踏会の一つでした。
平民、貴族、異能者、人外の者達まで、あらゆる生命が集う舞踏会に召還する事で、貴女の気配を消しました。但し、いきなり召還されて動揺する貴女を速やかに見つけ出し保護するため、時止めの魔法を使いました」
そうか、時止めの魔法? だからあの時、私以外の人達は動くことも無かったのか……あっ! そう言えば何人かにぶつかって転がしたような気がするけど……
「時止めの魔法は長い時間は使えません。奴らに気付かれる可能性がありましたから」
「……」
ふむ。そうですか。そう言う事でしたか。召還された方法と、理由は判りましたよ? まあ、大体ですけど。
「それで、召還されたココを見つけたのが私だ。そう言えば、鏡を見ながら叫んでいたな? 若くなっているとか何とか?」
アレンが腕を組んで、思い出すように上目遣いでそう言った。
あっ。そうだった。大きな疑問があったんだ。
「アレン、17歳なんだよね? それで私達は双子なんだよね?」
「当たり前だ。お前は僕の双子の妹だ。当然、17歳だ」
何を言っているのかと、少し呆れた目で見られた。
聞いても良いかな? 良いよね?
「あー、私、あっちの世界では27歳だったんですけど……?」
「「「「「「27歳!?」」」」」」
全員の目が私に注がれた。ねえ、その目ってエイハラ! エイジハラスメントなんだけど⁉
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遂に、聞きたかった年齢差について
口にした心菜さん。
メンズ達の反応は、心菜さんの言う通り
エイハラなんでしょうか?
いえね、この年齢って敏感なんですよ?
特に、仕事している女性にとっては……
心当たりのある方も、想像できない
方も、楽しんで頂けたら嬉しいです。
次話から第2部になります。