11. 美形濃度が濃すぎて溺れそうです
「聞こえているだろう‼ ジェイド! 開けろ!!」
ドアをドンドン叩く音は、さっきからずっと聞こえている。アレンの声の他にも誰かの声がしているけど、皆同じようにドアを開けろと叫んでいる。
「あの、ジェイドさん? 開けないんですか?」
表情を変えず、ドアの方も見ないでお茶をゆっくり飲んでいるけど……
「ココレット姫、私の事はジェイドとお呼び下さい。私は一家臣に過ぎませんから、敬称は不要です」
判りましたけど、今はそれよりドアの向こうの人達を何とかすべきじゃないですか? これ以上騒がれると落ち着かないし、何よりドアが破られそう。
「ご安心ください。絶対に開きませんから。私の魔法は完璧です。私の許可無くては、例え魔導士長であろうと入る事は出来ませんから」
ニッコリ笑って、何言ってんのコノヒト? それって、職務違反じゃないの? 指示命令系統どうなってるの? 仮にもアンタの上司と、雇用主の息子(アレン王子)が命令しているんでしょうが⁉
「「ジェイドーッ!! ここを開けろ!!」」
ああ、野太い男性の合唱が聞こえる。多分4,5人はいるんじゃないの? 私はふうっと溜息を吐いた。
ああ、やかましい。
「ジェイド、開けてあげたら?」
天岩戸じゃなんだから。ドアの向こうで大騒ぎするのにも限度があるでしょ?
「はい。姫様のご指示であれば」
はぁ? 溜息交じりに言った言葉に、ジェイドが直ぐに反応して立ち上がった。そして、スタスタとドアの所まで歩いて行く。貴方ねぇ、極端でしょ。
「ジェイドは、ココの命令しか聞かないニャン。さっきのキスはそう言う意味だニャン。ダーチェもココのいう事しか聞きたくないニャーン♡」
ダーチェが嬉しそうに喉をゴロゴロと鳴らしている。尻尾もひゅんひゅん左右に揺れている。ご機嫌なのね?
「ココレット姫が、開けてやれとおっしゃるので開けます。不本意ですが」
ドアの前まで進むと、ジェイドが一旦立ち止まり数歩後ろに下がった様に見えた。ドアノブに触れずともドアを開けられるの? 魔法って便利ね。
その間もドアは激しく叩かれ、アレンや他の人の怒号も聞こえている。
どうも、ジェイドはワザとゆっくりしているみたいに見える。
念を押すように、彼が振り返った。やっぱり開けないと駄目ですか? という表情だ。
「開けてあげて下さい。ジェイド」
ああ、面倒臭い。
「どわあぁああ~っ‼」
ドアが開いたと同時に、アレンが転がり込んで毛足の長い絨毯に突っ伏した。あれは顔面から行ったわね。
「ジェイド……貴様‼ 開けるなら合図位しろ!!」
倒れ込んでいるアレンの後ろには、3人の男性がいた。
二人は若くて、20代半ばか行っても30歳位。良く似た軍服の色違いを着ている。それから、もう一人はロマンスグレーのおじ様。こちらは黒のローブを着ていて、手には細かな彫刻のされた杖を持っている。もしかして、この方が魔導士長様?
アレンは、見事な金髪ウェーブのイケメン様に助けられると、身支度を整えて咳ばらいをした。大丈夫よ。君の顔は無事だし、鼻血も出ていないから。
でも、さっきの倒れ込んだタイミングって、コントだったらジャストタイミングだったよ。ああ、笑っちゃいけないけど、分かっているけどっ。っふ。
「ふっ、ぷっ。アレンオニーサマ。キテクダサッタノデスネ?」
頑張って堪えたけど、棒読みみたいになった。駄目だ。ツボにはまる。
「おい、ココレット。お前、今笑ったな? 失礼な奴だな、心配してきてみれば随分寛いでいるし……」
顔を上げたアレンが、まじまじと私の姿を見た。目を真ん丸にしたその顔は、うん。やっぱり17歳だわ。随分子供っぽく見えた。でも、その後の言葉が続いて来ない。固まっているけど?
「ニャニャ。アレン王子もココの姿を見て感動してるニャン。まるで薔薇色の女神みたいだから、見惚れているんだニャン。ほら、シヴェルもバージルもだニャン」
うっそ! まさか! 確かに若手3人は固まっているし、私の顔をずっと見詰めているけど?
私の方が見惚れちゃうわ。だって、アレンはちょっと置いておいても、後ろにいる二人の男性は対照的な、どちらも目が覚める様なイケメン様だった。まるでモデルさんだ。それもハイブランドのファッションショーに出る位の。つまり、普段お目に掛かる事など無い。という事。
「ココレット姫様、初めてお目に掛かります。魔導士長のレブランドと申します。以後お見知りおきを」
ロマンスグレーの魔導士長様は、レブランド様と言うらしい。椅子から立ち上がった私の前に、彼が跪いて礼を執った。オールバックの黒髪は背中まである長髪だ。ジェイドもそうだけど、魔導士は黒髪長髪が決まりなのかしら?
「こちらこそ。お初にお目に掛かります。えっと、ココレット・バーナム? です。よろしくお願いします」
挨拶の仕方が判らない。よく外国の王族の方々がするカーテシーとかあるのでしょうけど、やり方が判らないから、取り合えず腰を落として声を掛けてみた。
「ああ、勿体ないお言葉。ありがとうございます」
またまた、レブランド様が頭を下げる。この手のお方に傅かれる事なんて無いから、ムズムズして来たわ。
レブランド様に声を掛けて立って貰う。このままでは話が進まないですもん。
「ココレット。二人を紹介しよう。近衛騎士団長のシヴェルと、第二騎士団長のバージルだ。今後、何かと関わりのある二人だからよく覚えておいてくれ」
アレンが二人を紹介してくれた。シヴェル様とバージル様。
さっきジェイドがしてくれたと同じように、私の手を取ってくれる。でも手の甲にキスはしなかった。二人供、額を付けただけだった。違いが判らないけど、さっきジェイドは敬愛の意味があるって言ってたような。うーん?
さっき、アレンを助け起こしてくれたのが、近衛騎士団長のシヴェル様。金髪のゆるウェーブのロングヘア。青い目が作り物の様に綺麗で、生きている感じがしない。まるで感情の見えない人形みたい。白い貌に青い目、薄い赤味のある唇が中性的にも見える。でも、頬の線とか輪郭は明らかに男性のそれだ。
やっぱり、さすが近衛というだけはある。
バージル様、こちらはシヴェル様とは正反対な感じがする。焦げ茶のストレートのロン毛は、ポニーテールの様に一つに結んでいる。そしてその瞳は、琥珀色で人懐っこい仔犬みたい。うん。濃くて長い睫毛が柴犬? いや違うわ。秋田犬? みたい。体格もシヴェル様より少しだけごつい感じがするけど、均整のとれた細マッチョだわ。
とにかく、騎士の二人は超美形。魔導士長はロマグレのおじ様。
「ココレット姫? どうかしましたか?」
隣からジェイドが私を見ていた。何ともジトンとした目で見られていたのだった。
「ここにもいた」
何気に言葉に出てしまった。ええ、ジェイドも負けず劣らずの美形様ですよ。ああ、この空間が眼福過ぎる。美形濃度が濃くって溺れそうだわ。
「はい?」
まあ、なんてお綺麗な笑顔。って言うか、この魔導士さん距離感が少し変。何か近いというか。
「おい。いい加減話を始めるぞ。ジェイド、貴様いい加減しろよな? ココに変な事をしてみろ、神官長に責任取らせられるぞ?」
「責任……ですか?」
「そうだぞ。ココを嫁にさせられるぞ?」
「っ⁉」「ンはあっ?」
息を飲んだジェイドさんと、変な処から声が出た私が同時に反応した。
おい、おい、おい、おい、おい、おーい!?
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主要なイケメン様が登場です。
コミュ障気味の魔導士
ツンデレドS騎士
ワンコ系騎士
イケおじ魔導士長
そして、大猫のダーチェ。
女っ気の無かった奴らの中に
いきなり現れた心菜のココ。
そりゃ、わちゃわちゃしますわね?
楽しんで頂けたら嬉しいです。