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10. ジェイドとダーチェ

本日2話目です。


お間違えの無いように

お願いします。

「旨いニャー。ジェイドんとこのお茶は、本当に美味しいニャン」


「お褒めに預かり光栄ですわ」


 ジーンさんがダーチェさん? ダーチェ君? に向かって笑みを浮かべて応える。ジーンさんもメリアさんも格別驚いている風も無い。寧ろ慣れているみたいだ。


「ダーチェさんも、お茶が飲めるのですね?」


 丸テーブルを囲むように、右側にジェイドさんが座り、左側にダーチェ君が座っている。猫が椅子に座っているわ……


「飲めるよ? そうだココ、僕の事はダーチェって呼んでニャン。僕も君の事はココって呼ぶからね?」


 そう言って目を細めると、両手でカップを包み込むようにして飲んでいる! 

 何と言うか、か、可愛い!! きっと肉球でやさーしく押えているのよね? 

 椅子からはみ出た尻尾を揺ら揺らさせながら、ダーチェが美味しそうに紅茶を飲んでいる。

 ね、猫が紅茶? 鰹だしの出し汁じゃないわよね? そもそも猫舌じゃね?


 ダーチェの可愛い姿に目を奪われ、しばらくじっと萌えていた。

 はい。私、杉本心菜は猫派です。断言します。





「ココレット姫、ドレスに着替えたのですね。良くお似合いですよ」


 全く心の籠っていない声音に聞こえる。だって、ジェイドさんはチラリと私を見ただけで、目線を直ぐに反らしたもの。まるで興味は無いって感じだ。脚さえ隠れていれば良いのかって聞きたいわ。


「そんな褒め方じゃダメニャーン。ジェイドがモテ無いのはそーゆーとこニャン。

 ココ、君の瞳とお揃いのドレスが良く似合っているニャン。ああ、髪型も女神様みたいで綺麗だニャン。こんな綺麗な姫様は他に見たこと無いニャーン‼」


 ダーチェは喉をゴロゴロ鳴らして、くるくると私の周りを廻っている。360度余すところなく見られてます(汗)





「ところで、ジェイドさん? 色々と伺いたい事があるんですけど?」


 人心地ついたところで右隣に眼を向けた。さっきから黙っているけど、本当は貴方の方から何か言う事があるんじゃないの?


「でしょうね。貴女は何も聞かされていませんから」


 澄ました顔のままでそう言った。


「ですよね? で?」


「で? とは?」


 何だろうな。ジェイドさんとのやり取りって、微妙にテンポが合わない。この人、ワザとか?


「ですから、何で私がこの世界に来たのか教えて下さい! それもお姫様だとか? 双子の王子様がいるとか? 17歳だとか? 意味分かんないですけど? それから狙われてるって? 何からですか!?」


 そうよ。いきなりだったもの。突然この世界に来たのは何でよ? どんな理由よ? 何で狙われなくちゃいけないの?


「そもそもですが、ココレット姫、貴女はこの世界の住人です。

 今までいた世界の方が、別世界なのです。ですから、簡単に言えば姫は故郷にお帰りになった。という事です」


 ふえっ? こっちの世界の方が故郷? 元々の世界? 日本の方が異世界だったという事ですか? 

 つまり、私は異世界から召還されたってこと? 異世界()()じゃなくて、()()。呼び返されたってことか。


「つまり、私はこの世界で生まれて、日本に跳ばされたという事ですか……」


 聞いていると頭が痛くなった。

 何の疑いも無く信じていた、今までの生活、常識、思い出や知識が全て異世界の物だという事。27年間生きて来たあの日常が、異常な事態の上で成り立っていたのだった。

 

 深く息を吐く。落ち着いて情報整理しよう。アクシデントに飲まれてはいけない。冷静に、冷静に情報分析しなくては。


「それで、何で戻って来たのですか? 突然真昼間にこっちに呼ばれて、あっちの世界では大変だと思いますよ? 人一人がいきなり消滅したんですから。直前まで話をしていた人もいたんですよ?」


「ああ。そのことならご心配無く」


 聞かれた以上の事を話さないジェイドさん。一対一対応みたいで、歯痒いし焦れったい。一体どんな交渉よ。顔は良く似ているけど、芝崎はそんな話し方も対応もしなかった。


(……芝崎は、意地悪だったけど、優しかったよ……)


 鼻の奥がまたツンとした。さっき泣いたから涙腺が緩くなっているのか、じわりと目が熱くなって視界が揺らいだように見えた。


「ココレット姫……?」


 ジェイドさんは私の足元に跪くと、胸元からスルリとハンカチを出して、私の目元を優しく抑えてくれた。その所作が流れるように優雅で、避ける事も断るタイミングも取れなかった。



「ココ……大丈夫ニャンか?」


 反対側からダーチェが私の膝に優しく両手(足?)を置いて、顔を見上げて来た。美しい緑色の大きな瞳が私の顔を写した。膝の上に置かれた温かな、生き物の気配。


「うっ」


 思わず私は……!


 ダーチェに抱き付いた。正確には、ダーチェの首に腕を廻して、柔らかな肩に顔を埋めた。







「ココ? 落ち着いたかニャン」


 結局私はダーチェに抱き上げられると、そのままソファに座らせられた。がっちりとダーチェの首にしがみ付いていたせいで、(ダーチェ)の膝の上で抱えられたままだ。


 その温かさと柔らかさ、優しく背中を撫でられる感触に、ようやっと落ち着きを取り戻した私は、力が入っていた腕を外してジェイドさんから貸して貰ったハンカチで目元をそっと抑えた。


 うん。落ち着いた。大丈夫だよね、私。


「ごめんなさい。いきなり……もう大丈夫デス」


 顔を上げて、ダーチェと目を合わせる。心配そうに立っているジーンさんにメリアさん。ソファアの足元に膝を着いたままのジェイドさんに、微笑んで答えた。


「姫様。お心細いのはお察しします。詳しい事は、陛下や大神官様からお伺い出来ますが、もう少しお待ち下さい。

 貴女をこちらに呼び戻したのは、貴女を狙うモノが居場所を探し当ててしまったからです。あちらの世界で貴女に手を出されたら、命に関わりますし二度とこちらに戻せなくなるかもしれませんでした。

 それに、あちらの世界にどんな力が干渉するか判りません。ですから、私達は奴らより先手を打ってココレット姫、貴女を召還したのです」


 ジェイドさんが膝の上に置いた私の手を取った。少し冷たい指先が、熱を持った私の体温に気持ち良く感じられる。


「突然の事で驚かれたでしょう。でも、私が貴女のお傍にいます」


 そう言うと、手の甲に優しくキスをした。


「手の甲へのキスは、()()です。ご承知おき下さい」


 は、初めて手の甲にキスされた! それはまるで映画やコミックで見る様な、王子様か騎士がする()()キスだわ。そうか、あのキスには()()なんて意味があったんだ。知らなかったわ。


 上目遣いの色っぽい視線に、私の頬が一気に熱くなった。多分真っ赤になったと思う。

 しかし、このジェイドさんって人は、何て色っぽいの? 貌の表情が薄い癖に、目が色っぽいなんて反則でしょうに⁉


「狡いニャン! ダーチェもココにキスしたいニャン!」


 ダーチェがほっぺをスリスリしてきた。ふわふわのすべすべした毛並みが嬉しい。私は赤くなった顔を隠すように、ダーチェにされるがままになっていた。



 いつまでもダーチェの膝にいる訳にもいかず、再び私達はテーブルを囲んだ。メリアさんがお茶を淹れて配ってくれる。ああ、これも良い香り。今度はハーブティーみたい。爽やかなミントの香りが空気を一新させてくれるように感じる。


「つまり、私は誰かに狙われていて、異世界に転移させていたけれど、それがバレたと。

 そして異世界で危害を加えられる前に、元の世界に召還した。という事ですね? 

 それで、私を狙った者って……」


「それについては、陛下がお答えになります。

 ただ、その者達は大変に厄介なモノなのです。魔力も強いので、貴女が召還されて直ぐに気配を感じ取り、こちらの世界で貴女を探し始めました。

 そして、間者から貴女の気配を感じ取って、ご覧になったワイバーンに探させていたのですよ」


「あの、魔物?」


 翼の生えた、ザ・魔物だった。昔ラノベで読んだ事があったかもしれない。


「ええ。でもご安心ください。あのワイバーンから間者を探し出すことが出来ました。今頃は事情聴取されているでしょう」


 今度は対面に座っているジェイドさんが、目を瞑ってハーブティーを口にする。まあ、なんて絵になるんでしょう。イヤイヤ、感心している場合じゃないわ。



「そうですか。じゃあ、ここから出ても大丈夫でしょ? もう帰らせて貰っても良いんじゃないでしょうか? それに、陛下? とか大神官様とかにもお会いして、早く聞かせて貰いたいです」


 間者? スパイが見つかったなら、ひとまず安心なんでしょう?


「ココレット姫は、そんなに()()がお嫌ですか?」


 いいえ? そう言う事を言っているんじゃないのですけど? なんだろ、ジェイドさんの口調が若干気落ちしている様に感じられる。


「嫌とかいう事では無いです。危険が無くなったのなら、無理にジェイドさんのお屋敷にお世話にならなくても良いかと。そう思っただけです」


「……ジェイドは、ココを独り占めしたいんじゃニャン」


 ダーチェがシュークリームをハムハムしながら言った。うっ。カワイイ!!


「でも、あんまり我が儘が過ぎると、嫌われるニャン。重い男は最近の流行りじゃニャイからな? ほら、言っている傍から……」



「……ちっ」



 ダーチェの言葉に、このヒト舌打ちをしたわよ。喋れば喋る程、見れば見るほど印象がぶれる人だ。

 見た目は、黒髪、長髪、高身長の美形ドS魔導士様。冷たい美貌に賢そうな額、感情の薄そうな緑色の瞳だけど、角度と感情によっては物凄く色っぽい。なんだか言っていて腹が立ってきたわ。


「さすが、魔導士長殿だニャン」


 クックと小さくダーチェが笑って、耳をピンとドアの方に向けた。



 ドン! ドン! ドン! 


 激しくドアが叩かれている。まるで大勢の人が向こうにいるようだ。



「……ちっ。仕方ありませんね」



 でも、席から立たない。振り向きもしないなんて、結構な神経だわ。でも、今ダーチェが()()()()って言ったわよね? それって、貴方の上司じゃないの? 大丈夫なの? 




「おい!! ジェイド‼ 開けろ!! ここを開けろ!!」


 あれ、この声ってオニーチャン? アレンフォルト王子の声だわ。




 

ブックマーク、誤字脱字報告、感想

評価ボタンのポチもありがとうございます。


ジェイドから少しだけ聞けた事情。

でもまだ肝心な事がまだまだあります。

それから、ダーチェ。ツッコミが得意な

少年という感じです。


さて、どうやら皆さんが来たようですけど、

未だ席を立つ気配の無いジェイドさんです。

どうなる? どうする?


楽しんで頂けたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジェイド…ココを独占したいだけだったかww 元々こっちが本当なんですねー。 心菜の方が仮の姿だったとは…
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