1. 私、杉本心菜と申します。
お仕事系で異世界モノ。
少し年齢の若めな少年少女、青年たちを
弄りたいので書き始めました。
心菜=ココレットですが、
女子の10年の経験がどう影響するか。
だって、17歳から27歳の10年って
すっごく大きいですよね。
で・も。心菜さんは恋愛経験が未熟なので、
どうなるかはこれから楽しみにして
下さればと思います。
エレベーターを降りると、そこは舞踏会の真っ最中でした。
「こ、ここはどこ? って言うか、ビルのエントランスで皆何やってるの? えっ? ドッキリ?」
一瞬、何時か見たテレビの番組を思い出す。会社全部で仕掛けられているの?
でも、それにしてはスペースが広すぎる。我社のエントランスが広いと言っても、ここまでの広さは無い。はず。
天井には眩いシャンデリア。大理石の白と黒の床。壁には金細工の飾り? 彫刻なんかどう見ても本物に見える。
それに、目の前にいる人達は、明らかに西洋人。そして煌びやかなドレス、ドレス、ドレス⁉ 何てロココなお召し物‼
鳴っていたであろう音楽もピタリと止まり、その場にいた紳士淑女の皆様が人形の様に動かない。まるで、時間が止まった様に見える。
「なに? 一体ここはどこ?」
立ち竦んでいた私は、一歩前に踏み出した。すると持っていた荷物がどさりと足元に転がった。
「あっ」
思わず屈んで拾おうと、腰を屈めて手を伸ばす。
はらり。
薄い金色に、僅かに紫色の艶のモノが見えた。胸の前に垂れたソレを、力を入れて引っ張ってみる。
「い、痛たた‼ なっ⁉ か、髪の毛?」
何度も引っ張って確かめる。私の髪は、茶髪の肩下10センチのストレートのはず。でも、この髪の毛らしきモノは、プラチナブロンドにラベンダーの艶。そして、腰まで届く長さ。
私は慌てて、バックの中を探ってメイクポーチを引っ張り出した。コンパクトをそーっと開いて顔を写す。
「う、うそぉ⁉ 若くなってる⁉」
小さな鏡では信じられなくて、辺りを見回し壁に掛かっている大きな鏡に走り寄った。途中で、何人かにぶつかって転がした気もするけど、この際見逃して欲しい。
「なっ⁉ やっぱり若返ってる⁉」
驚いた。鏡に映るのは、どう見ても10代の……
「驚くのはそこか?」
背後から声がして、肩がびくりと震えた。ここで初めての音、声がしたから。それも、明らかに私に向かっての言葉じゃないか?
目の前にある鏡の中で何かが動く気配がした。私の背後で誰かが動いているようだけど。良く見えない。それでも、絹擦れの音で何者かが近づいてくる音がする。
「お帰り、ココレット」
誰かがそう言った。
「ひぇぇ、もう、無理っ! き、きつ過ぎるぅ」
誰だ。ヘルシーウィークとか言ったのは。
7階までの階段上りは返って身体に悪すぎる‼ 脚が、脚が悲鳴を上げている。
ここは、株式会社D&Hフードサービス。通称DHFと呼ばれる会社の階段通路。
「あれっ? 心奈? さっき出て行ったんじゃないの?」
階段の上から、社長秘書の千夏の声がした。
「1階まで降りてから、忘れ物に気が付いたのよ。もう一回7階まで戻らなきゃ」
4階の踊り場まで上ると、千夏が呆れたように肩を竦めた。
「まったく。いつもは落ち着いているのに、アンタのポカは、肉体的な消耗が大きいわね。頑張って7階まで歩きなさいな。はい、これあげるから」
千夏はそう言うと、持っていた紙袋から綺麗な箱を出した。これって……?
「昨日のバレンタイン商品会議のサンプル。社長から各部署に配布しろってお達し。アンタの企画商品でしょ? 採用おめでとう」
そう。何を隠そうこの箱は、私が企画したバレンタイン用のチョコ。
数あるサンプルから昨日の会議で採用され、商品化されることが決定した。チョコ自体の品質もさることながら、パッケージにも拘った自信作なんだ。
千夏からチョコを受け取り、7階までの階段を一生懸命上る。さっきよりも足取りが軽くなった気がするけど、何とも現金なもんだ。
漸く部署について、一息つく間もなく忘れ物を探し出し再び部屋を出る。急がないと待ち合わせ時間に遅れてしまう。
これが私、杉本心菜、営業企画室勤務。27歳の日常。
ポケットに入れていたスマホが鳴った。今から同行する後輩からだ。
『杉本さーん。忘れ物見つかったすか? タクシー拾いましたよ。早くお願いしまーす』
『判った。ありがとう! エレベーターで降りるから、もうちょっと待ってて!』
エレベーターホールの前で姿勢を正す。一応、人目を気にする。でも、もう一回下まで降りるのは勘弁して貰いたい。これからの業務に支障が出そうだもの。
降下ボタンを押して、暫く待っている。
「何だ? 杉本は階段じゃないのか?」
背後から揶揄うような声がした。聞き慣れたこの声の主は……
「芝崎。だって、仕方ないでしょ。下でタクシー待たせているの。早くいかなきゃ」
同期の芝崎だ。彼は営業1課にいる。まあ何と言うか、同期のエース的な存在で、見た目もまあまあだから結構人気もある。
「そうか。じゃあ気を付けろよ? 急ぐと碌な事になんねーぞ?」
チン! とエレベーターが到着したベルが鳴った。
「あっ。これ……もーらい」
バックから顔を出していた私のチョコを、ヒョイッと取り上げた。
「あっ!? それ」
「替わりにこれやる」
深い紺色の小さな包み。見たことあるショップの包装だ。
「えっ!?」
思わず芝崎の顔を見上げた。
「いいから、早く行け。送れるぞ?」
スイーっと静かな音がしてエレベーターの扉が開いた。芝崎は、私の肩をトンと押してエレベーターの中に入れると、ひらりと手を振った。
「それ、バレンタインのお返し。コレのさ」
そう言って、片手でチョコの箱を私に見せた。どういう事?
ジャケットのポッケに入れていたスマホが、ブルリと震えた。イケない!! 急がなくちゃ!
私は、芝崎に目を奪われたまま、行き先ボタンを押してドアを閉めた。
よく確認しなかった。並んだボタンの下から3番目が1階のはずだったから。
はずだったのに!!
私、金髪美女、それも若くなってます!!
心置きなく楽しく、ほのぼの、ジレジレしたい。
それがきっかけで書き始めました。
お気に召して頂けたら、
ブックマーク、誤字脱字報告、感想、イラストを
頂けるとありがたいです。
ほんの少しだけ実体験も入れてます。
楽しんで頂けたら嬉しいです。