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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
三章 ~虹の波紋~
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『虹の波紋』

不思議な感覚だった


まるで自分の体じゃないようでいて、それでも自分の意思で動かせることに、私は違和感を感じる


否、これは私の体


でもそう感じないのは、恐らく自分が人という枠組みから外れてしまったからだろう


人でないなら何なのか?


獣?否


吸鬼?否


言葉で表すなら、そう、神子という表現が一番しっくりくる




「分かる」



スッと顔を上げた



「出来る」



白い翼が力強く、二度羽ばたく



「感じる!」



左手に視線を落とす


いつの間にか現れていた一本角のついた真っ白な仮面を私は迷うことなく顔につけた


まるで、当たり前の用に、紐も何もついていないのに顔に張り付いた仮面からもう一度上を見上げた


あの夜空の向こうに、私は彼を感じた


一気に跳躍する


それと同時に翼も羽ばたかせた


飛ぶ、ということはこういう事なのか


風を切り裂き、星空の元を天高く翔るその姿は一筋の光となって昇ってゆく



「おっとぉ・・・俺が許すと思うか?」



突如すぐ近くから聞こえてきた声に、私ははっと振り返る


いつのまにこんな所まで追ってきたのだと思うぐらいの余裕はあったが、それでも驚きは隠せなかった


彼の声なのに、彼じゃない



「おっと、僕がそれを許すと思うのかい?」



そんな桜彩輝の脚を何者かが掴んだ


恐らくそれには私よりも彼が驚いていた事だろう


バッと振り返る桜彩輝は自らの脚を掴んだ相手を見た


紅い瞳がぶれる



「ぬぅ・・・っ!」



ものすごい腕力で桜彩輝は真横に吹き飛ばされた


それと同時に大量の炎の玉が飛んできた


ドドドドンと爆発と煙の尾を引いて夜空に爆音が連なって響いた



「さぁ、君の足止めは僕の役目だ」



爆煙の中から、黒い一本の尾がゆらりと揺れる


やっぱりか、と小さく呟く



「君が本当に桜彩輝の裏ならば手出しはしないつもりだったんだけど・・・」


「気づいていた・・・・というわけね」



大きなその尾が煙を振り払う


彼の後ろから一本の大きな狐色の尾が伸びている



「まぁね。確かに裏は表と記憶とかは共有しているだろうけど、それならば彼の現実の体は裏に乗っ取られた状態にあるはずであって、今のように自我が無くなることが裏の目的ではない。なら現実の彼の体を本当に乗っ取っているのは誰か?魔獣である君だ」


「ご名答。確かに彼の裏の枷を外して乗り移ったのは私。だけど表の彼に起きてもらう訳にはいかないのよ。ようやく手に入れた体なんだもの」



そう。何年待ち望んだ事か



「まぁ貴方にはさすがに驚かされたわよ。まさか先客が居るとはね」


「発言は正確にたのむよ。先客じゃないよ。僕は君みたいに彼の体を乗っ取っているわけじゃない。ただ、繋がれるだけ」


「ま、なんでもいいわ。さっさとどいて貰うわよ」


「はは、君の足止めが僕の役目なんだ。行かせる事は出来ないね。だって、僕は彼と彼女を守る使い魔なんだから」







感じる


―――この力を使えば人が僅かながら神獣の力を使う事が出来るようになる。それと同時に身体的、精神的にも僅かの間強化される。だけどそれが対価なき力とは思わない事だよ。その力は人には過ぎたる力。だから使い終われば体や精神は疲労して暫く動かなくなることは覚悟しなければいけない―――


だけど、私はこの力を使った


使った途端、世界がまるでひっくり返ったかのように新しく感じられた


彼の居場所も、すぐに分かった


私は頭上の星空との距離をどんどんと詰めていく


眼下で二つの気配がぶつかり合うのがわかった


心の中でソーレへの励ましをし、私はさらに上を目指す


そして、何も無い空間から私は彼の存在を感じ取る


そっと左手を、その何もない場所に添える


途端にぴしりと空にヒビがはいる


こんな物で隠そうだなんて・・・


はがれ落ちた空の欠片が闇へと落ちていく


そこに現れたのは、ひときわ綺麗な扉だった。しかしその扉にノブや鍵穴は無い


この扉の奥から、弱々しい彼の気を感じる


触れた扉から、彼の声が頭の中へと響いてくる



『あけて、アーヤん』


『・・・・・・・・』



答えは・・・無い


だけど、僅かに彼の気配が揺れたのが扉に触れた指先から伝わってくる



『ねぇ、君が言ったのは嘘だったの?』


『・・・・・・・・』


『私はね、とっても嬉しかったよ』


『・・・・・・・・』


『君が、手を伸ばしてくれたから、私は今こうして君と話をしている。凄く感謝してるし、嬉しかった』


『・・・・・・・・』


『分かるよ。君が考えている事。前にアーヤんに言われた通り、君と私は同類だから』


『・・・・・・・・』


『言ったよね。アーヤん。あきらめたら、終わりだって』


『・・・・・・・・』


『言ったよね。道の先を見つめていたいって。立って前を向いていないとって』


『・・・・・・・・』


『君が言うから、前を向いていようって、決めた』


『・・・・・・・・』


『後から考えてみたら、君もあのときは辛かったんだろうって、思ったんだ。だから―――』


『・・・・・・・・』


『女だけど、今度は私が君に手を差し伸べるの、許してくれる?』


『・・・・・・・・』


『大丈夫。離さない。絶対に。だから、過去なんか引きずってないで、前を見よう』


『・・・・・・・・』


『私は、もう大丈夫だから』



思いはすべて伝えた


言い残す事は無かった


もしこれでアーヤんが扉を開けてくれなかったとしても、私は別に仕方ないと思った


私には彼がどれだけこの過去を引きずっているのかは分からない


でも、辛いけれども、忘れられない大事な過去でもあるのだ


そのせいで彼が、これまでずっと右腕が動かなくなるという現象に見舞われていたことも知っている


きっと、彼は怯えているのだ


その右手で、誰かの手を掴んでいる事に。繋いでしまったが故に、離れてしまう事を恐れているのだ


だから、後は彼が勇気を出すだけなのだ



『―――掴んで』



でも、私は確信している。彼がもう一度私の手を握ってくれる事を



――――だからさ、なんていうか・・・道の先を見つめていたいんだよ。俺。この先に待ってる事が、きっと自分を、ここから引き上げてくれるって――――



今がその時だと私は、あの一室での会話を思い出す


私が、君を、引き上げてあげる


もし、君が私の手を掴んだら、私は絶対に離さない。離したくないから


私は静かに仮面を外した


だって私は―――君の事が―――














『ありがとう』











一方、一条とソーレが彩輝の心の中で戦っている中、現実では桜彩輝の体と吸鬼が戦っていた


戦っているというより、一方的に桜彩輝の体が吸鬼を襲っている訳だが、肝心の吸鬼の少女はするりするりとその攻撃をかいくぐるだけで反撃に移ろうとしなかった


なので傍目に見れば彼が一方的に吸鬼の少女を追いつめているかのようにも見えた


とはいえその戦場に残っているのはこの二人、そして少し離れた場所からそれを見つめるシェリア、そして周囲に犇めく魔獣達だけであった


シェリアはこの戦いに介入するべきか否かを迷っていた


あの黒髪の少年は恐らく味方・・・なのだろう


だがしかしあの異形の触手、そして理性を失っているかのような言動にシェリアは少なからず判断を迷った


どう考えたところで、あの姿形はまともな人間には見えないのだ



「さて、どうしたものかしらね」



彼を助けるならば、早いほうが良いだろう


あの少女も、さすが吸鬼というだけあって動きが人間のものではない事に油断は出来ない


対してあの彼を助けたところで、此方を味方と認識してくれるものか否か


吸鬼に対しては殺さず生け捕りにしておきたいというのが本音ではあったが、それもまた難しい事は分かっている


同じ女という身で有りながら、吸鬼と人間との差がどれほどの物かはさすがに想像つかない


が、少なくともあの少年を軽々と吹き飛ばした事からは恐らく、成人男性の平均以上の筋力はあるようだろうと予想する


それぐらいなら問題無いが、もしあの先ほどの男の吸鬼に近いくらい強いというならばさすがにそれは軽視できなくなってくる


そもそも吸鬼と実際に手合わせするのは今日が始めてであり、吸鬼がどの程度の力を持っているのかが想像出来ないのもまた確か


不確定な賭に賭けるよりかは冷静に勝ち戦だけをするのは別に恥じる事では無いと考えているシェリアは故に物事を静かに見つめていた


少なからず怪我をしているとはいえ、この私の魔術を吹き飛ばしたのがあの少女なのは確定している


そしてその吸鬼の少女は今桜彩輝と戦っている


その彼はというと完全にこれまでの彼とは別人のようになってしまい、それこそ手を貸すべきか、それとも止めるべきなのかの判断がつかなかった


一体何がどうして、彼がああなったのかは分からないが、どうも良くない雰囲気なのは感じ取れる


もし彼の暴走が止まらないようで、それが周囲の村へと向くようならば私もそれなりの対処をしなければならなくなってくる


それは出来れば避けたいのだけれども・・・ね



 「ぐゥ・・・あアッ!」



と、突然彼の体に異変が起こった


彼女を追い回して攻撃していたのだが、突如その動きは止まる


吸鬼の方は迷うことなくそのまま一気に距離をとり、様子を見ることにしたようだ



「ウウルゥォ・・・オオオ・・・」



彼の方はというと、さらに大きく体を一度震わせ、そして右肩の触手が空中に四散した


だがその代わりに真っ黒な尾が生えてきたのである



「なんなのよ・・・まったく・・・」



完全にシェリアの理解の範疇外だった


対して吸鬼の方の少女はクスリと笑う


まるで、楽しんでいるかのようである


一度は不意打ちを食らって少年の触手に捕まった少女だったが、その拘束を逃れて以降はまるで相手にならないわというような軽やかな動きでその攻撃を避けてきていた


その余裕が出たのだろうか?それとも何かを待っているのだろうか?


そうで無ければこれ以上この場に留まる理由は無いはずなのでその方が納得がいく



「フフッ、やっと尾がでたわね。間違い無いわ。さて、貴方は一体何本目なのかしら?」



レミニアは嬉しそうにそう呟き、翼を大きく広げて再度飛行を開始した


それを追うかのように、尾を生やした少年は空を獣のように駆けていく


その姿はまるで四つ足の獣のようだ


途中、一匹のグリフォンが乱入してきた



「ガッ!!」



だがグリフォンは少年がそう叫ぶとビクリと動きを止め、次の瞬間そのグリフォンの巨体は突如意思を持ったかのようにして動いた尾によてイレータ湖へと叩き込まれた


ちょっと、少なくともグリフォンはそう簡単に倒せるような魔獣じゃないわよ


ま、私には余裕だけど


そう突っ込みを入れつつも静かに状況を見守る


彼の腕にあった触手が消え、尾が生えた以外に目立った変化は無い


と、またもや彼の動きが止まった


今度は両手で顔を押さえて空中でうずくまる


その光景に、「あら」とレミニアも動きを止めた



「ぐぅる・・・・っ・・・あっ!あ・・・ああ・・・・ああああああああああああああ!!」



突如、彼が天に向かって大きく吠えた


心の底から、めいいっぱい叫んでいるのがシェリアにも解った


そして次の瞬間、さらに理解不能な事件が起こった


突如、彼の腕の中にあの黒髪の女性が現れたのだ


それは全くの突然な出来事だった


どこから現れたでもなく、気がついたらそこに居たのだ



「アーヤん?」



私は彼の顔を見上げていた


自分が一体今どういう状況なのかを瞬時に判断し、赤面した


お、お姫様だっこ!?


彼はきょとんとした顔で私を見て、そして微笑んだ



「ありがとう。一条さん」


「・・・・うん」


「何となく、気を失っていたときの記憶はあるんだ。だから・・・うん。ありがとう」


「どういたしまして」



私は、そっと彼の胸に顔を埋めた


あぁ、暖かい


心臓の、とくん、とくんという音が体全体に伝わってくる


嬉しい


その気持ちでいっぱいだった



「ソーレも、ありがとな」



彼の視線が腰の鞘に収まった紅い短刀に向けられる


そういえば、あの後彼女は一体どうなったんだろう?


魔獣を足止めする為に戦って、その後は?



「大丈夫。あいつはもう俺の中には居ない。その点は虹魚に感謝だな」


「え、どういう事?」


「これは仮説なんだけど、たぶん君が俺の最後の扉を開いてくれた事で、虹魚が浄化の力を流し込んでくれたんじゃないかな?そんな気がする」


「そう。じゃぁソーレちゃんも無事なの?」


「ちゃん?あぁ、そういやあいつ女だったんだな。全然気がつかなかったよ」



私はあれ?と思う


確かに彼女の自称は僕だったが、アーヤんは何度も彼女と会話をしていた記憶がある


その事を聞くと



「あぁ、確かに会話はするんだけど、なんていうのかな。耳で聞く訳じゃないからか意味だけが伝わるんだよね。字を頭の中で読んでる感じに近いかな。俺もてっきり僕っていうもんだから雄だとばかり・・・」


「じゃぁ謝らないとね」


「だな。その前に・・・」



アーヤんは目の前に向き直った


表情がしっかりとした物に戻り、その視線は吸鬼の少女に向けられる



「おい、お前、何か知っているようだな」


「あら、何の事かしら?」


「とぼけるな。あの魔獣について何を知っている?」


「さぁて、知りたいなら力ずくで聞いてみれば?」


「力ずくがご所望か。なら、いいぜ。ってことで一条さん」


「ん?何かな?」



私はそこで『少し待っていてくれ』とか『腰の短剣を取ってくれ』とか言われるのかと思っていた。思っていた、だ


あっけなく幻想は壊れた



「ちょっと飛んできてください」



・・・・はい?


たっぷり言葉の意味を理解するのに5秒ほどかかった


あれぇー?私は一体今何をいわれたのかな?かな?



「オーバーアビリティ」



!?何でアーヤんがその言葉を知ってるの!?


彩輝の体が赤と緑の魔力に包まれる


魔力が体から漏れだし、魔力は神子の本質を形作る


すなわち、彩輝は龍の神子であるため、その本質、ドラゴンを魔力が形作りはじめた


赤の魔力は真っ赤な翼を、翠の魔力は透き通るような翼を作り出した


それは魔力の色であり、またその魔力が持つ性質を表していた


紅い炎の翼と、翠の風の翼を彩輝は大きく羽ばたかせた


そして先ほどの漆黒の尾とは違い、今度は透き通る深紅の尾が彩輝の下半身から生える


その姿はまるであの山脈で見たドラゴンのようだと、唯は思った



「言いませんでした?気を失っているときの事は何でか覚えてるって」


「あぁ、言ったね。って勝手に心読まないでよ!それって外の事とかじゃ無かったの!?」


「まぁ、人の心の中であれだけ叫べば・・・・ねぇ?」



あれ?私彼の心の中で変なこと言わなかった!?


私はうーとうなりながら台詞を振り返る


そしてボンと音をたてるかのようにして顔が真っ赤になった


恥ず!!恥ずっ!!



「にゃー、にゃー・・・・」


「ってことで、飛んできてください」


「え!?だから!なんで私が飛ぶの!?いやいやいや、振りかぶらないでって、まず意味がわからなぁっっぁあああああああああ!?」



私は理解が結論へとたどり着くよりも早く、ものすごい勢いで天高く放り投げられた


内心、突然過ぎて意味が分からなかった


私はものすごい勢いで雲を突き抜けた


 その光景を唖然と眺めるレミニアはついその姿を目で追ってしまった


突然現れた黒髪の女性が、同じく黒髪の少年に雲の上までとばされた



「!!」



叫びながら雲を突き抜けていった女性から、今度は少年の方に視線を戻した


戻さざるを得なかった


彼が小さく何かを呟いた途端、その姿は先ほどとは一変していた


まず、火の魔力が彼を取り巻き炎の翼を作り出している


そして風の魔力が彼を取り巻き風の翼を作り出している


二つの魔力がねじれ一本の尾を作り出すが、風の魔力自体はかなり透明に近い為にその紅色の尾が綺麗に私の視界に飛び込んだ


あんな量の魔力、一体どこから出したのだと私は考えるが、検討もつかない


湖や空気中のマナに動きは無かった


ならば一体どこから出てきたのだというのか


答えに行き着けば何のことは無い


考えられる事としては二つほどあった


一つは彼が魔石を持っているという事


もう一つは私たち吸鬼の用に体内に魔力を直接有しているということ


だが魔石で具現化出来るほどの魔力が宿るものと言ったらもはや持ちきれないほどの大きさになるのでそれは無い


ならば後者か


だが、どうみても彼は吸鬼には見えないし、同族である私が見間違うはずが無い


ならば彼は吸鬼にあらず、体内に魔力を有する人間という結論に私は到達する


なんなのだ彼は


あんなおぞましい程の魔力を有し、そんなものを具現化して身に纏う?


本当にあの少年が人間なのか目を疑うわね・・・


それに加えムラがあるものの水火雷土風氷の六天を持つあの少年


よく見ればあの黒髪の女性も六天を有しているようだ



「っ!?」



考えを巡らせる私はそれを中断せざるを得なかった


何時の間に接近されたのか、かなり近い距離まで詰められている


早すぎる!


咄嗟に私は能力を発動させ、先読みをしようとする


だがそれすら遅い


読んだ瞬間にはすでに彼の拳が私を捉えるだろう


その一瞬の判断により私は全力でバックステップして距離を取ることだけを考えた


少しでも距離を取り先読みをしないと、追いつけない早さであった


彼の拳が目の前で空をきる


その隙に僅かに距離をとった私は先読みした


目の前の彼の蹴りの軌道が脳裏に浮かぶ


すぐさま私はそれを避ける体勢を取った


その瞬間、首筋に音速を超えるかのような蹴りが通り過ぎる


あんなものを食らっては、さすがの吸鬼である肉体を持つ私でさえただでは済まないだろうと冷や汗を流す


だが、蹴りを外した少年の横向きになった体は今の私から見れば隙だらけだった


先ほどの早さを見てまだ走ったり飛んだりで逃げようと思う奴は居まい


ならば逃げ切るためには何をするべきか


目の前の少年を行動不能に、倒さないと行けない


今がそのチャンスであった


私は全力の一撃を彼の脇腹へと叩き込もうとした


火力としては今ひとつかも知れないが、少なくとも多少なりとも距離を取るだけ吹っ飛ぶ事を期待はしていたのだ


当たる!


ハイスピードの攻防だったにもかかわらず、そんな事を思う位にゆっくりとしたスピードで意識が働く


刹那、私の魔力を込めた全力の一撃が空をきる


理解した瞬間には、遅かった



「人はそれを、隙という」



しまった


それすら思わせてくれない程に、私の心臓が警鐘を鳴らす


そう突然後ろからそう呟かれるほどに、余裕だというのか?


何なのだあのスピードは


吸鬼の中でも、比べたことはないが、恐らくは一位二位を争うくらいのスピードを自慢とする私ですらこのざまか


こんなもの、勝てるはずが無い


まるで、神を相手にしているかのような・・・




 彼は本当に、これが自分なのかと疑った


わき上がる力も、己を取り巻く魔力を感じるのも、全てが全て自分じゃないかのような気分である


翼と尾、それだけで俺はこれが龍を模している事を悟った


ソーレのお陰か、そえとも龍の神子であるせいか


それすらどうでも良くなるぐらいに、俺の体は勝手に動いた


相手の吸鬼の少女も驚いているようである


とりあえず、全力を使わず俺は腕を振るう


だが避けられてしまう


全力でないのに俺はそのスピードに驚いた


自分で殴りかかっておいて火力が分からないというのもまた問題だったが、全力で叩けばこの少女が滅されることぐらいは承知していた


それぐらいにも自分でこの体はおかしいと思えたのだ


彼女も全力で避けているようだが、此方としてはまだまだスピードは上げられる為余裕がある


そんな彼女も、先ほどの俺を軽々と吹っ飛ばす技量と力を持っているはずなのだ


それを考えるとやはりこの体は異常なほどに強化されているのだろう


もう一発蹴りを入れるとこれも彼女にかわされてしまう


だが彼女の方もやっとこのスピードについてこられているという感じであった


と、彼女の右拳に魔力が一瞬にして溜まる


そして俺に向かってその右拳で殴りかかってくる


俺はスッと回り込むようにして楽々と彼女の後ろを取った


取ったと思った瞬間、その隙は致命傷へと繋がる



「人はそれを、隙と呼ぶ」



今思えば龍とは確か早さを司る魔獣だったような気がする


だからか、こんなに早いのは。と勝手に解釈して俺は今後の展開を考える


割と思考回路もすっきりとしている


俺はその白い髪を上から押さえつけ、そのまま高速で彼女を水中へと自分諸共叩き込んだ


俺は彼女を水中に置き去りにして一気に飛翔する


そして呆気にとられていたシェリアの腕を掴み、再飛翔


そして叫びながら落下してきた彼女を掴んでさらにさらに上へと飛んだ


それは吸鬼を湖に叩き込んだ瞬間だった


――湖の遙か上空へと――


そんな虹魚の声が聞こえてきたのである





 「よし、今だ!!」



それの姿を遠目で見たカイは叫んだ


今、魔獣達はあの桜彩輝の残した魔力の残骸に群がり始めている


周囲の町々の避難をすませ、そしてその瞬間を待っていた


味方が湖から離れ、そして魔獣が湖へと集まる瞬間を


彩輝本人に話をしていなかった為に一度湖へ行って伝えてこようかと考えていた所であった


だがその彼は残った人間を連れ、湖から距離を取ったのである


何にせよ、今がチャンスであろう


あの魔獣が再度湖の外へと群がる前にすべてを仕留めなければならない


一体何がどうなるのかはカイにも検討がつかなかったが、まぁ賭けるしかあるまい


あの数の魔獣を相手にするのはさすがに体がいくつあっても足りないのだ


湖の上空に犇めく黒い影を見ながら俺は水のマナを吸い取り、そして氷の魔力を生成する



「冷たき空、冷たき地、繋げるは氷柱の花。コールディンランス!!」



魔法陣から生まれた巨大な氷の槍が魔獣目掛けて飛んでいく


それに気がついた魔力をむさぼる魔獣の一匹が、その一撃を受ける


瞬間、氷が一気に形を変え、敵を氷の花の中へと閉じこめる


そしてその飛び散った氷の破片が魔獣へと触れると、連動するかのようにその花と氷が繋がる


一度に数体の魔獣が、翼を凍らされ、生まれた氷に突き刺され、悲鳴を上げる






その光景を、山の上から見下ろす者が居た


今こそその時だと彼は思った



「今だ!打ちやがれ!!」


「おりゃぁぁぁ!!」



ガチンと留め具を外し、大砲に火種をぶち込んで蓋をする


二人そろってダッシュで茂みに飛び込み耳を塞ぐ


次の瞬間、山と湖を振るわすほどの大音響と共に巨大な一つの玉が湖を目掛けて飛んでゆく


その一発をはなった大砲はというと、何十にも地面に固定した金具ごと後ろの方へと飛んでいき、木々をへし折って山を転がり落ちていった


一方、放たれたほうのそれは緩やかな弧を描きぴたりと湖の中心へとたどり着いた


その計算はリクが計算し、ゼンが確認何回も計算しなおした通りの軌道を描いた


その瞬間、この計算を一瞬でやってのけ、火薬の量を調整したリクをゼンはやはりという顔で見つめた


やはりこいつは、天才だ、と




「今だ!」


「いけええ!」


「吹っ飛べぇ!」


「やっちまえ!」


「今です!」


「うおおおお!」


「やれえええ!!」


「いっけえええええええ!!」





そんな思いを乗せたいくつもの叫びが、湖の周囲であがった


そして爆ぜたそれは虹色の光を四方八方へとまき散らし、湖の中心にたまっていた魔獣達を残すことなく吹き飛ばした


そんな色とりどりの光が粒となり、ぱらぱらと湖へと落ちてくる


爆風で湖に巨大な波紋が浮き上がり、その波紋は虹の粒によって色鮮やかに輝いていた


彩輝と一条は静かにそれを見下ろし、あの懐かしさを思い出していた









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