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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
三章 ~虹の波紋~
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『湖の主』


湖上で戦闘が続く中、その様子を畔から見守る影があった


一人は黒髪の女性


一人は黒髪の女性と手をつなぐ少女


一人はグリフォンにのった水色の髪の少女


そして仮面を付けた男だった


カイが戻ってきたときにはすでに吸鬼は魔獣をつれて引き返した後であり、そこにはただ呆然とたたずむ3人と一匹の姿があっただけであった


すると残るはあそこにいる一体の吸鬼だけかとカイは振り返る


今や自分が吸鬼との戦闘で作り出した巨大な氷の台座は至る所が砕け、巨大な氷の固まりがいくつも浮かんでいるような状況になっていた


一体何をどうしたらあんな状況になるのか分からなかった


そう思っていると今度は大きな氷の台座が真っ二つに折れた


その揺れが波となって湖の岸へと向かってくるが、人を飲み込むほどの高さは無いため特に手を打つ必要は無いと判断した



「うゎぁ、あれ本当に人間?」



一条としては自分は常識人だと思っているため、目の前で起きている光景にはやはり驚きを覚える


少々のファンタジックなことぐらいなら驚きはするが受け入れることには苦労しなかった


やはり現実の世界でも作り物とはいえ、こういうファンタジーの世界の小説やイラスト、映画やアニメなどが沢山あったからだ


一条自身が美術系の大学に進んでいることもあってか自分でもそういうアニメや漫画などを見る機会はもちろんあったし、周囲の人間でそういうのが趣味な人間も今時そう少なくないものである


だが、やはり想像したり作り物を見るのと現物を見るのとでは大違いなのだなぁと思い知らされたように一条は感じていた


魔法やグリフォンなどならまだあり得るとは思っていたが、さすがにあれは人間をやめてないか?と思うような動きをしている


漫画やアニメでよくやるような消えるような素早さではないが、それでも目で追うのが精一杯というような走りをあの女性はしていた


ファンタジーとは違う、もっと人としての限界を超えているかのようでいて彼女は歴とした人間なんだという事を聞いてやはり自分は驚き、そして恐れを感じた


ファンタジーではなく、現実という物を見せられたような気がしたのである



「四天王とはいえ・・・苦戦はしているようだね」


「あぁ。あいつは強かった」



それだけを言ってカイは黙ってしまった


助けに行けるなら行きたい所だが、足手まといになってしまうと分かっているのだろう


カイですら手も足も出なかったのだから、本人も何も言えずに静かに近くて遠い戦場を眺めていた



「おいっ!大丈夫だったか!?」



するとその後ろの小さな林から数人の集団が現れた


それぞれが知っている人間に駆け寄った



「アーヤん!」


「お兄ちゃん!」


「ルオ・・・チッ」


「オイ待てアリス!てめぇなんで俺の名前出して舌打ちした!?」



駆け寄ってくる二人の姿を見て彩輝は少しホッとする


自分も同じように駆け寄った



「怪我とかは?」


「ううん。大丈夫」


「だいじょうぶだよー」



彩輝は二人の体に目を落とすが目立った外傷が無いのを見て今度は心からホッとする


そこで彩輝は先ほどから会ったら聞こう聞こうと思っていた事を聞く



「あの、さっきのでかいのは・・・?」



彩輝達が林に入った頃合いから何故か一瞬にして消えてしまったあの巨大な魔獣が何処へ行ったのかと聞いてみる



「えっと・・・なんか消えちゃった」


「へ?」


「それは私から説明しよう」



女の子らしい口調じゃないなぁと今更ながら思った彩輝は手を挙げて発言したアリスの方へと向き直る


グリフォンから降りているアリスは最後の男との会話の内容を伝えた


謎の力を使い魔獣を小さくしたという吸鬼


そしてこれまた一瞬にして移動するという能力を伝える


信じられないような話ではあったが、彩輝はまぁ異世界だし自分の知らない事もあるかと受け止める


逆に頭を抱えたのはシャンとルオだった


訳が分からない、何がどうなっているのだと二人で話し合ってみるが吸鬼が首謀となった異変ということぐらいしか結論が出ない


なぜならずっと戦っていた自分たちが得ている情報は少ない


町を襲わせ、マナを湖に集め、巨大な魔獣が現れてまで、一体何をしに来たのだと思う


その真意が分からずも、それぞれ何かしらの理由はあるのだろうとは思うがその理由が分からない


カイがいろいろと説明しようかと言葉を選んでいた時だった



「いったいなんだってんだよ!?」


「その事で少しお話が・・・」



またもや背後から現れたのは彩輝達が一晩お世話になったリク・ヒノトだった


その後ろで腕を組んだごつい体格の親方ことゼン・クリードがまるでいつもの仕事をしている時のような厳つい目を細めて湖の方を凝視していた


そうして一同が集まり始めた頃、未だに氷上の戦いは続いていた




「だらぁっ!!」


「っはぁ!!」



ガキンと音を立てて重なったのは傘の先端と男の拳


まるで金属と金属がぶつかったかのような音を響かせると同時に、シェリアは足下の氷の感触の変化を感じ取る


ヒビが走り、今にも砕けそうな音を立てる氷の台座


今ではそこら中に穴や割れ目が走っており、安全な場所などほとんど無い事から普通に考えてこちらが不利である


こうしてまた貴重な足場が一つ砕け散った


その頃には離れたシェリアが新たな足場へと飛び移った所だ


目に見えて足場が減っており、シェリアは早々にケリをつけたい所だった


が、男が新たに二つの能力を使ってくることからそういうわけにも行かなくなってしまったのである


おそらく新たな能力の一つは肉体変化の能力だと読んでいる


先ほどから拳をパラソルの金属部分で受けるのだが、どう考えても生身の人間の感触ではない


何も変わらないように見えるのに、その手に伝わってくるのは紛れもなく同じく堅い金属のような感触に最初はシェリアも戸惑いを覚えたが、相手は普通とは違う何らかの異能を使うと分かっているのですぐに気持ちを切り替えて反撃に出ようとする


その度に遠距離の見たことのない魔法を使って牽制して距離を取ってくる


相手も接近戦が主のようだが、ペースとしてはやや相手に取られている風に感じる


シェリアはもどかしくも、じっくりと耐えて相手の隙を窺うが何度か攻防を続けても隙が出来る様子はない


こちらのカードはまだ一枚だけばれていない


この一枚を何処まで隠し通して追いつめるかが勝負の分かれ目だとシェリアは考えている


まぁ相手も自分が魔法を使えることは知っているだろうとシェリアはパラソルを空中の吸鬼へと向けた


距離を取ったところで、こちらも遠距離攻撃が出来ないわけではない



「そんなに距離を取りたいならどうぞご自由に」


「風の魔術かっ!!」



吸鬼は翼を折りたたむようにして急降下してくる


マナを取り込み、風の魔力へと変換する


その魔力は杖の代わりとなるパラソルを伝い、その先端に二つの魔法陣を浮かばせた


発光するその魔法陣の周囲に文字が浮かび上がる



つがいの翼よ、追い風を此方に、向かい風を彼方に。フシュールステホーン!」



術を唱えている間にも吸鬼は接近を続ける


これだから魔術は、そう思いながらシェリアは瞳をしっかりと相手に向ける


今度は相手も此方の体の自由を奪うことは出来ない


もし奪ったとしてもそのまま此方の自由を奪いつつ自分の体自由を捨てる訳は無いはずだからだ


一瞬、カッと魔法陣が光ったかと思うと光と魔法陣は空へと消える


それと同時にバンッと何かがパラソルの先端からはじけ飛ぶ


反動でパラソルを振り上げる形になったが、風の魔術はほぼ相手に視認されることは無いので至近距離から打たれる事を想定して突っ込んでくるならば相手は打つ直前に避けるはずだ


便利でありながら、風や雷の魔術を操るというのはかなり高度な魔術であり、自由に掌握して動かせる程の人間は数少ない


その数少ないうちの一人がシェリアである


打ち出した風を手の動きで操るぐらい、今のシェリアに取っては大して難しい事ではない


が、普通の魔術師がこれをしようとすればその魔術師人生の半分近くを消費するであろう難易度なのだ




「それ」


「効く・・・かっ!!」


「あら?」



予想外にも、打ち出した風は吸鬼に当たる直前ではじき消された


霧散した風を突っ切り、テンが拳を振り上げた


何が起こったのかよく分からないうちに突っ込んできたテンの攻撃を防ぐシェリア


避けるそぶりも、何か魔術を使ったというそぶりもなかった


ということはこれが三つ目の能力かとシェリアは判断する


振りかぶった右腕を左腕で受け止める



「ちっ!」



今度はテンが左足を振り上げた


直撃コースだったが、それをシェリアは右腕で足首をつかんで止めた


手放した傘がカランと氷上に落ちる


おかしな体勢になったテンは翼でバランスを取っている


が、今度はあいていた右足でシェリアの顔面を蹴り上げようとした


しかしバシッと音を立てて右足はシェリアの左足に受け止められた


膠着状態だったが、シェリアはにこりと笑って吸鬼を見つめる


シェリアが発動した魔術はまだ終わっていないのである


この魔法は前方に向かって強力な風を吹かせる魔法である


だが、実際にはあまりに強力すぎる風が一瞬にして相手を吹き飛ばすため、空気の固まりが飛んできたかのようにぶつけられた相手は錯覚する


そしてそれと同時に自分の後ろから前に向かって強力な風の流れが生まれる


これは二つあったうちのもう片方の魔法陣によって発動したものである


この風の流れによって押し出される前方の風の固まりの威力が増すと同時に、自分への追い風となるのだ


だが風の固まりは何故か四散してしまった


少しぐらいはスピードが落ちるかと思ったのだが、はじかれるというのは予想外だった


とはいえシェリアは咄嗟に反応して吸鬼の攻撃を受け止める


だが、再び足下の氷にヒビが入る感触が伝わってきた


無理に押し返そうと力を込めれば恐らく足下の氷は割れて水中へと落ちてしまうだろう


こんなところでカードを使いたくはない


まだ、その時では無い気がする


シェリアはだが、ここで一つ相手をはじき返す案を思い浮かべた


未だに自分への追い風は止んでいない


好機っ!!


氷が割れるのを覚悟で氷に対して力を込める


そして一気に跳躍


追い風に乗って自分は吸鬼を押し返す事に成功する


テンの方も翼を広げて何とか押し留まろうと翼を広げるが、乱れた空気の流れに寄って翼は空気を上手く捉えられない


そのままシェリアがテンを押し倒そうとするが、叩きつけた方の氷の台座に巨大なヒビが入った


咄嗟に上になっていたシェリアは吸鬼を地面へと蹴り飛ばす


が、やはりその体は硬い


が、固体を蹴ったようなしっかりとした威力が手に入り一気に距離を取った


その蹴りの威力によってヒビが完全なる裂けとなり、氷の台座はまたもや真っ二つに折れてテンを巻き込んで巨大な水の柱をたてた


その水柱を突き破って出てきたテンは上昇しながら回転し、水を振り払う



「・・・・・・!!」



そしてピタリとその動きが止まる


下から見上げたシェリアもテンのそのおかしな様子に振り返ることにした


そして、落ちていたパラソルを拾い上げる


どうやら自分の出番は此処までのようらしい






 湖の一同も、その視線の全てが湖へと向けられていた


カイとリクの吸鬼が宝玉や聖天下十剣を奪っていった事を伝える


その最中、それは起こった


ガキリと音を立てて虹色の閃光が湖上に浮かび上がった


何かの隙間から漏れるような光は徐々にその数を増やしていった


気がつけば、その光は湖全体を包んでいた


そしてその光は湖に走った亀裂から漏れているのだという事を


ガリガリガリッ


亀裂は徐々に広がっていき、漏れる光が強くなっていく



「あ・・・あぁ・・・」



ただ一人、リクだけがそう言葉を喉から漏らしていた


全員がその虹色の光に見とれていた


その瞬間、湖の四カ所で同時に小規模の爆発が地中内で起こった



カァァァァン!



そして、まるでガラスを割ったかのように透明な薄い膜が割れた


無数のガラス片のようなものは虹色の光をそこかしこに跳ね返しながら宙を舞った


その幻想的な空間の中心に影が見えた


魚影だ


彩輝にはそれが魚のような影に見えた


ゆらりと揺らめいたそれは次の瞬間、水から飛び出していた


その姿はまるで虹色の水を纏っているような美しさをしていた


まるで解放を喜ぶかのような姿に見えたそれは全身のヒレを広げ、一瞬だけだが空を飛んでいるようにも見えた


揺らめいた羽衣も、広げたヒレも、身を包む鱗も全てが虹色に見えた


それは大きな水しぶきを上げて水中へと落ちた


その場にいた全員があっけにとられていた


巨大な波が氷の台座を飲み込むかのようにしてシェリアを襲う


シェリアは波に揺られて浮き沈みする氷の台座をつたってその場に留まる


吸鬼なんかはもう身動きが取れず空中で制止しながらその巨影が生み出した水しぶきの雨を受けている



「神獣・・・虹魚」



ようやく紡いだ言葉は考えるより先に自然に口から漏れた


だからようやくこれが神獣なのだと理解した





 「虹魚様・・・」


リクがそう呟いた


あぁ、あれが前から聞いていた虹魚という神獣かと彩輝は思った


確かに凄かった


全長何メートルあっただろうか?


5、6メートル?いや、10メートル近くあったかもしれない


遠くからでもそれほど大きいと感じられるほどにその存在感は凄まじかった


全身虹色に包まれており、背には羽衣をしていた


二度神獣を見ている彩輝にとって、この虹魚を神獣だと確信するのは早かった


そして一体どこからその威圧感が出てくるのかと思った


先ほどまでは全く感じ取れなかったのに、その姿を現してから感じるこの感覚は確かに虹の不死龍が姿を現したときに感じていたものと同じであると彩輝は感じた


そういえば前に不死龍は隔絶された結界のような空間にいたと言っていた


今回も虹魚はそこに居たのだろうか?


にしては、異変を察知して出てくるのが遅かったような気もする


いや、人前に姿を現せない仕来りでもあるのか?とも思ったが、思いっきりあの一角天馬は人前に姿を現していたのでそれは無い・・・と思う


竜なら人前に出られないというのは仕方ないが、巨大であるとはいえ神獣である虹魚が人前に出られない理由はそう無いと思う


崇められる存在だとしても、畏怖の対象にはならないと彩輝は思った。少なくとも過去に恐怖政治とかしてなければだけど


ならば何故姿を現さなかったのか


水玉や聖天下十剣がその祠という場所から奪われたのであれば尚更に


出てこなかったのではなく、出てこれなかった?


彩輝がいろいろと考えていると、今度は空に異変が現れた


浮かんでいた雲の一つが突如大きな穴を開けたのである


まるで何かが通るために退いたかのような


その中心に彩輝は見た


白い翼を広げ、美しい毛並みと逞しい四肢を持ち、立派に天を貫く白き角を


一角天馬が翼を羽ばたかせ優雅に降下してきた


水の中から虹魚がぷかりと顔を浮かばせた


西の霊湖イレータ湖にて神獣の二柱が見つめ合った歴史的瞬間を、多くの町人や商人の多くが目撃したのである






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