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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
三章 ~虹の波紋~
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『巨影の上陸』





オオオオオン



肉だ 


血だ


あぁ、あぁ、潤う


潤う潤う!だが、まだだ


あの先にあるもので、俺たちは真の意味で潤う


そしてたどり着けさえすれば俺の力はまだまだ増えよう


あの満ち足りたマナを取り込めば


人間どもに奪われた大地のマナを奪い返すのだ!!



オオオオオオオオン



そこは戦場だった


前回グレイと街道で戦ったときとはまた別の空気がこの町には流れていた


死と血の匂い


そう、それはきっとそういう匂いなのだろう


嫌いな匂いじゃない


でも、悲しいニオイだと私は思う


手下を従えたボスグレイが町の中央で雄叫びをあげた




「ミャー、大丈夫?」


「クァーッ」


「そう・・・じゃぁ、あの大きな肉、食べて良いよ。行くよ!!」



少女はグリフォンの腹を足で蹴った


やっぱりふかふかの体毛に跳ね返された


合図を受け取り、螺旋を描くようにしてグリフォンは僅かに上昇を始める


町が僅かに小さくなったところでグリフォンは空中で旋回をして狙いを定める



「町の真ん中・・・ボスグレイがいる。周りの小物は無視して一気に行こうかな」


「クァッ!」



ぐるりと宙返りして一直線に町の中央へと向かってグリフォンは急降下をする


振り落とされないようにしっかりとその羽毛にしがみついたアリスはその冷たい風を我慢してうっすらと目を開ける


どんどんと近くなる町の中央、の大通りに見える幾つかの黒い影を見つけた


そしてその中心にいるひときわ大きな影


・・・・気づかれた!いやでも大丈夫!!このままっ


ボスグレイがフッとこちらを見上げたのが見えた


だがそれを気にしない程の勢いでグリフォンはボスグレイにかぎ爪を向けて突っ込んだ


瞬間、ドンッという反動と同時にグッと足のかぎ爪がボスグレイの腹へと突き立てた


ドンと倒れるボスグレイの体に乗りかかったグリフォンはギロリと周囲に群がるグレイに睨みをきかせた


獣として上位に立つグリフォンにグレイ達は怯んで後ずさる


統率のとれなくなったグレイの一匹が、突如として空中へと跳ね上げられる


それをグリフォンの上から見ていたアリスは叫ぶ



「ルオ!」



従者の一人が大きな槍を天へと突き上げている



「朝嗅ぐ匂いは朝食の方がうれしかったな」



そう呟いてくるりと槍を持ち直す


矛にべっとりと付いた血糊を振り払って次の標的を見定める


今やグリフォンにのしかかられているボスグレイに率いられていた統率がとれたグレイの群れは一匹たりとも獣の猛りを失っていた


グリフォンは再度しっかりとボスグレイの体を鷲掴みにして暴れる巨体を押さえつける




「ッガァッア!」



逃れようと暴れるボスグレイだったがグリフォンのあまりの脚力に体を浮かせることが出来ず、その度に体に食い込んだ爪が深々と刺さり血があふれ出る


グリフォンは翼を大きく広げてボスグレイを覆い隠すようにして押さえつける


喉元へと何度も嘴を向け、肉を引きちぎる


次第に弱るボスグレイの体がついに動かなくなったとき、二本足で立ち上がったグリフォンは大きく翼を広げて勝利の咆哮をあげた


が、その瞬間、湖の方から巨大な音が聞こえてきた


それにアリス、グリフォン、そして周囲のグレイを退治していたルオが気を引かれて湖の方向へと視線を向けたその瞬間


グリフォンの背後から巨大な影が飛びかかってきた


もう一匹!?


そう思った瞬間、アリスの耳に獣の唸る声とルオの叫び声が同時に響いた



「アリスッ!!」






「二歩切り一閃っ!!」



俺は思いっきり叫んで突っ込んだ


そうでもしないと気持ちで負けて途中で尻込みしてしまいそうな気がしたからだ


最初の一歩を踏み出したその瞬間、大地を蹴るのと同時に一気に魔術で風を操り体を押す


そしてそのまま勢いに乗り、二歩目でさらに勢いをつけて相手へと接近して斬りつけるというのがこの技だった


案外この技はバランスを取るのが難しい


風に上手く乗れなければ上体が反ってしまったり、バランスを崩して頭から地面にキスをする事にもなってしまうのだ


本当はアルデリアの武闘大会の時に使う予定で魔術とは別にもう一つの秘策として用意していたものだった


当の大会は途中で中止となってしまい、使う機会は無かったので実戦で使うのはこれが始めてとなる


ユディス先生に教わった数少ない技の一つであり、魔術とは別に唯一自分が自信を持って習得したと思える技だった


まぁこればっかり練習していたのでもう体がバッチリ技についてきてくれている


早さこそが強さだと俺は昔から思っている


力、技術、素早さ


どれか一つを選べと言われたら俺は恐らく素早さを取るだろう


理由は何とでもあるが、一番の理由は自分に合っているからというのがある


そこに理由なんて無い


煌めいた風王奏の刃は一瞬にしてボスグレイの胴を切り裂いた


あまりの切れ味にゾッとした


吹き出す返り血を僅かに浴びてすぐさまもう片方に持っていたソーレに魔力を込める


炎を纏うイメージで


すると剣に赤みが増し、紅を映す剣はボスグレイの顔に突き立てた


走ってくるボスグレイに対して横からぶつかる形で初撃を決めた俺はそのまま間髪入れずに二撃目を決めた


体ごとぶつけて、痛みと突然の乱入者にバランスを崩したボスグレイは彩輝諸共市場の屋台に突っ込んだ










「この辺にはもうグレイも殆ど残ってないようね」



町の騒ぎは徐々に収まっていった


シェリアを中心にまるで死が訪れたかのように、多くのグレイ達が倒れている


ぐるりと周囲を見渡したシェリアは血に濡れた拳を倒れていたグレイの毛皮で軽く拭き取る


とはいえべっとりと付いた赤い血は取れていないため後で洗おうとシェリアは決めた


今現在その後ろでびくついているリクは、シェリアから預かっているパラソルを片手にそろそろとシェリアの後ろをついて行く


いつの間にか村の中までグレイ討伐のために移動していたらしい



「あ、あの、シェリアさん?」


「何かしら?」



首だけ振り向いたシェリアはにっこりと聞く



「さっきの話の事なんですが、すごい心当たりがあるんですよ」


「へぇ、どっちに?」



シェリアは今現在の状況と自分がここに来ている理由を伝えた


そして二つの質問を投げかけたのだ



「黒髪の人間、この湖の宝玉、どちらとも・・・っす」



ぴくりと眉を動かしたシェリアは体もリクの方へと向ける


一つ目の質問はこれまでに黒髪の人間に出会ったことは無いかというものだった


そしてもう一つはこの湖にある宝玉の安否の事を聞かれたのだ


黒髪の人間は確かに昨日一夜を共にし、宝玉の方は衝撃の展開すぎて今でも嘘なのだと信じたい位だ


これまでの事をリクはシェリアに説明すると、シェリアは意外にもフフフと笑みを浮かべていた



「そう。吸鬼が・・・ね。匂いがしていたのよ。私と同じ匂いが。それに宝玉と聖天下十剣も持ってるのね?」


「え、えぇ。でもなんでそんなにニコニコしているんっすか?」


「そうね。きっと嬉しいのよ私は」


「嬉しい?」



理解できないといった顔でリクは首をかしげるがそれを無視してシェリアは湖の方向へと歩き出す



「えぇ、だって強い者と戦うのが私の生き甲斐と言っても過言では無いもの。それに絶滅したと思っていた種族と手合わせ出来る機会なんてそう無いわ」



フフッと笑い、笑みを浮かべたまま湖へ向かうシェリアを見てリクは次元が違うと思った


自分とは生きている世界も、感じているものも違うと思った


だから、止めても無駄なのだろうし(止める気はさらさら無いが)それにあわせる気も起きなかった


西の頂、四天王が一角のシェリア・ノートラックと知り合ったのはまだリクが神子に成り立ての頃だった


その当時は何故か自分の事を神子として訪ねてきた彼女にとても驚いたものだった


何しろそれまで自分が神子であることを誰にも教えた事も無かったのに、彼女はそれを知っており、さらには親方にまでばらしたのだからあのときほど強烈な出会いは忘れないだろう


まぁとりあえず、吸鬼がここ最近の異変などの黒幕だった事を伝えたのでひとまずは安心だ


あとはもっとこのことをあの黒髪の旅人や町の人に知らせて避難をさせようかと考えていたその時だった



町中に巨大な叫び声が響き渡る


そして僅かに遅れるようにして巨大な轟音が聞こえてきた


森や山から無数の鳥たちが空へと飛び立つ


これまでずっとこの地で暮らしてきたリクですら、それは初めて聞く鳴き声だった






カイは見上げる


その巨体は湖の上からでは木々と同じほどの高さがあるようにも見えた



「化け物じゃねぇか・・・・」



その背に見えたのは太陽を象った紋様


俺はどこかでこの模様を見たような気がする


あれは・・・どこだったか


そう遠くない、そう、あれはアルデリア王国の大会の時だ


翼を広げた真っ赤な鳥の羽織られた布に刻まれていた紋様と同じなのだ!


一体、どういう事だ・・・






開いたドアから外へ出てみればそこには巨大なものがいた


足は無いようにも見える


羽織った布の下から覗くのは尾だろうか?


それも浮いている


その影に太陽が隠れた



「何・・・・これ・・・・?あ・・・っ・・・」



一条唯は腰が抜けた


その姿はまるで一昔前に流行っていた怪獣映画を彷彿させた


後ろからひょっこりと湊千尋が顔を覗かせた



「・・・でっかい亀さんだー」


「が・・・が・・・・」



急いで下山する親方は足を止め


グリフォンは押さえつけたボスグレイをついばもうとした状態で、アリスと共に固まった


ルオは一歩後ずさり苦笑いする


グレイ退治をしていたシャンも鎌を止めた


そして崩れた屋台からはい出してきた彩輝はピタリと動きを止めた



「・・・・・・・・亀?」



どこか遠くからガメラじゃん!とかいう叫び声が聞こえた気がした


いやまぁ全然ガメラには似てない気もするけどね




そして丁度その頃


湖の北で作業を続けるゴはふとその異変に気がつく


マナが動いている


それも湖の周囲の何カ所かで


その位置に何があったかを思い出したゴはこれまで貫いていた無表情を僅かに崩す



「まずい・・・」



ぽつりと呟くが、彼はその異変に何らかの手を打つことはしなかった


というより最早諦めに近かったのかもしれない


ゴは黙々と自らの作業を続ける


少しばかりペースを上げるゴは目に見えて焦り始めた


そろそろ結界が破られるのが近いかもしれない


湖に不穏な空気が渦巻き始めた




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