『駆ける翔る魔獣に向かって』
ちょうど湖で異変が起こり始めた頃
湖を見下ろす崖の上に二つの影があった
この場所は町の裏手にある小さな山である
小さいとはいえ、周囲と比べて小さいという意味である
小山には厳重に防壁を張った火薬倉庫がある
火薬を保管する場所は人里から離れた場所でならないといけないのでもっぱら作業はこの山奥で行うことが多い
湖の近くにある小屋は生活するうえでは町に近い方が何かと便利なのでそこを使っている
そちらには使えなくなった火薬や備品の倉庫などの物置状態になっている
そしてリクはそこで見張りの役目も兼ねて物置横の小屋に住んでもらっている
仕事のため、ご飯と睡眠の為に使っている下の小屋を出て小山にある作業場を目指した
「今日は良い天気ね」
作業場の前に一人女性が立っていた
小さなパラソルを片手に若い女性は声をかけてくる
「そうかぁ?いつも通りだろ」
「あら、つれないわね。照れ隠しかしら?」
「バカか。お前さん相手に誰がそんなことを―――すまん。俺が悪かった」
ギロリと睨みをきかせる彼女に俺は躊躇うことなく土下座する
いつまで経ってもこの癖は直らない
癖というより防衛本能だろうか
「わかればいいのよ。わかれば。物わかりのいい人は嫌いじゃないわよ」
「お前に好かれても―――何でも無い」
睨むな睨むな
いつも思うが此奴の眼孔はやばい
こいつが人を睨み殺せるのではないかと思うのは俺だけではないはずだ
此奴は小さい頃からサドっけが強かったからな
「それで、朝っぱらから四天王のお一人が山奥に何の用だ?」
あいにく俺には全くこの女が俺を訪ねてくる理由が分からない
いや、一つだけ心当たりがあるといえばあるか
大方ここ最近の湖の異変の事だろう
「貴方に話があってきてるって分かってるくせに」
パラソルを開きながら若い女はニッコリ笑う
その笑みに俺の顔はきっと引きつっていること間違い無しだ
女はその笑みを浮かべたままゆっくりと歩き始め、今俺が登ってきた山道を下りていこうとする
「歩きながら話すわ」
ピタリと足を止めたのは俺を待っているからなのか
「・・・・俺今登ってきたばっか―――あぁ、俺に選択権はないんだっけか」
「そうよ。今頃気がついたの?」
「気がつきたくなかったね。俺も仕事があるんだ。早めに頼むぞ」
「そんなに火薬弄ってて楽しいの?綺麗な女の人と一緒に歩けるなんて火薬弄りよりも素敵なことだと思わない」
あぁ、確かにそうかもしれなな
ただそれはお前以外の女性に限る
お前と並んで歩いて何が楽しい
そうは思うが、足は自然と彼女の歩幅にあわせて動く
「まぁ私のこれも仕事なのよ」
「その割にはつまらなそうな顔をしているな。お前ほどの立場なら仕事も選べるだろうに」
四天王とはこの大陸にいる4人の実力者の事である
この大陸にはそれぞれの国から代表を決めて作られた天平評議会、そしてその天平評議会が選出した大陸でも最強の部類に入る力を持つ四人をそれぞれ大陸の東西南北から選出し、それぞれの地域の守護に当たらせている
天平評議会のお膝元として各地域の守護を任された四人にはそれぞれ『北の双刀』『東の六天』『南の砦』、そして俺の目の前にいる『西の頂』という四つの位階がそれぞれ授けられている
守護という名目で大陸の四カ所をそれぞれ見張っている彼らだが、主に行っていることはギルドに廻ってくる仕事である
とはいえ通常のギルドでは受けることのできないほどの高位の依頼を専門としている
それぞれに数人から十数人程度の部下を評議会から選出して貰い、それぞれ部下としてギルドの活動を行って周辺地域の守護をしている
もちろんそのまわってきた依頼を全て四天王がこなさなければいけないわけでは無いので部下に任せっきりにしても誰も文句は言わないし、言えない
「今回は・・・ね。ただの勘よ。部下には任せられないのよ」
「む、お前にしては珍しい事もあるもんだなぁ」
いつもは面倒くさくてッ仕事を部下に押しつけて日々いろんな所をフラフラ歩いているような女だというのに
そんな事をふと真っ先に思う俺は一体此奴のことをそんな風に見ていたのかと改めて実感した
「へぇ、日頃どう思っているかしらねぇ私のこと?」
心でも読まれたのか、ニッコリ笑うその笑顔は俺に恐怖を与えてくる
笑顔が恐怖を与える者だと知ったのは何時の頃からだったか・・・あ、此奴と出会ってからか
「さぁてね」
「あら、熱そうね。汗が滝のようよ。ちなみにさっきのは半分嘘よ。勘じゃなくて評議会から直接命令が来たのよ」
「・・・・評議会から直接だと?そりゃまた珍しい。いつの間に会議してたんだよ。全然そう言う話は聞かなかったが」
「そりゃね。今回の件はあまり公に広めないように上も注意しているみたいだったしね。少し前の吸鬼がアルデリアで開かれた武闘大会に乱入して大暴れしたっていうのは知っているでしょ?」
その話は少し前から南から訪れた旅人によってこの湖周辺の町にも伝えられているので俺も知っていた
なんでも吸鬼が突然巨大な魔獣を引き連れて大会を襲撃したのだとか
吸鬼自体もはや伝説とも等しいほどに大昔の生き物だと人々は思い始めているが、まだ彼らが姿を見せなくなってから1000年もたっていないが、吸鬼は人の何十倍もの時間を生きるという言い伝えがある以上絶滅したと誰が証明できるだろうか
少なくとも姿を隠しているだけかもしれないと警鐘を鳴らす者が一人や二人いてもおかしくないとは思ったことはあるが
「それぐらいは聞いたことがあるな。それにお前や議会が動いてる理由に関係するのか?」
「むしろそれが理由。貴方には一応今後の布石として話しておくのだけれども、議会はアルデリア襲撃に関与している吸鬼を危険対象として見て殲滅を考えているようなの」
「そりゃまた・・・吸鬼に関してまだ分かってる事なんてほとんど無いんだろう?決断が早い事は結構だが、そんなあっさりと・・・」
言い伝えによれば昔は人間と吸鬼が手を取り合っていた時期もあったらしい
その最たるものを上げるとすればアグレシオン達との戦闘における大戦における共闘ぐらいだろうか
あれを共闘と呼べるのならばそれも入るが
「一方的と思うかも知れないけれど、共通の敵というのは各国の結束力を高めるものよ。北に置いてもそれは同じ」
「北・・・か。まだいざこざが続いているらしいが、大陸南部の吸鬼騒動にそう関係してくるのか?」
「さぁね。ただ、そっちの方にも評議会はそろそろ首を突っ込むと思うわ。しばらくは静観していたようだけれど、ね」
「ふぅむ・・・それで、今回お前が此処に一人で来ている理由、俺に会いに来た理由、そろそろ教えて貰おうか?」
俺はそう四天王が一角『西の頂』シェリア・ノートラックに問いつめる
理由もなく会いに来るはずが無い
一人で来る理由、吸鬼の事を話した理由、俺に会いに来た理由
それらをどう結びつければいいのか、それは俺が勝手に予想して決めつけるものではないが、多少なりとも歩きながら俺はそれを考えていた
「一人で来たのはそういうお達しだったから。もう世間に吸鬼の復活という噂を封じ込めるのは無理と判断してるらしいわ。観客に何人か目撃者がいて噂は今も広がり中。まぁ噂の出なんて何処からでも漏れるんだからどうでもいいのよ。だからこれからこちらがとる行動を悟られないようにする方を徹底するらしいわ。故に本当に一部の人間にしか伝えられてないのよ。部下にも教えるなってきつく上に言われてるからね。恐らくどの国の王も知らないのではなくて?今動いているのは実質私のような四天王、それと評議会メンバーくらいかしら」
「少ないな。だからお前一人でその命令とやらで此処に来ているのか」
「・・・正確にはここに来て何かをしろという命令ではないわ。半分嘘と言ったでしょう?勘よ。私が神子のことや宝玉のことを知らないと思って?」
なるほどそういう事か
だから此奴は俺の所に来たのか
「・・・・リクか」
俺は静かに弟子の顔を思い浮かべる
隣に並んで歩くシェリアがニッコリと笑ってパラソルをクルクルと回す
「ご明察。吸鬼はどうやら宝玉を集めているという情報があるの。だから商品に出された宝玉を狙って大会を襲撃したらしいし、その少し前にあったアルデリア郊外で起こった、『魔龍事件』って上はつけたらしいけど、それにも吸鬼と宝玉が関わっていたらしいわ」
「それは初耳だな。やっと事件の正式名称を決めたのか」
「ただ暴れてただけじゃなくて吸鬼が関わってたらしいからね」
「それで、リクをどうするんだ?」
「それが本題ね。少し彼に湖の社を開けて欲しいと思ってね。吸鬼の情報収集力がどの程度なのか分からないけど、大々的に広告された紅玉はまだしも確認されていなかった黒の宝玉を持っているらしいからね。その辺は少しややこしかったから忘れてしまったわ。旅人が持っていたのをギルドを装って盗賊が奪ったのを奪ったとか・・・よく覚えてないわ。まぁとりあえず、私の管轄だからとりあえずもう奪われてないかの確認よ。別に場所を移して隠したりするつもりは無いわ。只の確認。いつから動いているのかは分からないけれど、人目につかない場所なら尚更確認の必要があると思ってね」
「なるほど・・・な。で、なぜそんなことをお前が知っている?」
「あぁ、神子制度の事?それとも宝玉の事かしら?どちらも先代から聞いていたからね」
「・・・奴の事か」
俺は少し前に死んだ前の神子の事を思い出す
「奴・・・ねぇ」
シェリアは視線を落として呟いた
「何だよ」
「別に。もちろん彼が今神子の力を失っているって事も聞いているわ」
「・・・・何?」
なんだそれは?
神子の力を失った?
「あら、失言だったかしら?」
「おい、そりゃどういう―――」
「まぁいいわ。今この国にいる神子は全員その力を異世界から来た異邦人に奪われてる状態で神子の力はほぼ使えなくなってるらしいわ。能力はどうかは知らないけど、少なくともその権限で神獣との接触ができないようになってるらしいわ」
「おい、俺の話を―――」
しつこく言い寄る俺にシェリアは顔を上げて俺を見つめた
歩みを止め、俺をジッと見つめるシェリアの表情は真剣そのもので普段浮かべている自然な笑みは何処にもない
「全てを答える義理は私には無い。それにそんなことを聞かれても神子でもない私がどうしてその理由を知っていると思う?ちょっとは頭を使いなさいな。私が知っているのは結果であって過程では無いわ」
「そりゃそうか。俺も頭が回ってなかったかもな。スマン」
俺は一度深呼吸して再び俺は歩き始めた
当たり前の事なのに何でも此奴が知っていると思うなんて俺はバカだと改めて思う
「そういう訳で、リクは何処?一応貴方に断りぐらいは入れておかないとと思って来たんだけど、ついでに場所を教えて貰わないと何処にいるか分からないんだけど」
「・・・湖の側の小屋だ。そろそろ起きてきていると思うが」
あいつはいつも俺より30分ほど遅れて起きてくるはずだったと思いだし、それを伝える
「ふぅん、じゃぁ山を下りればもう起きてるわね」
「あぁ。・・・ん?」
そこで俺はふと異変に気がつく
足を止め、自分が踏みしめている山道の土を見下ろした
違和感を理解するより先に、感じ取った俺は足を止めた
「あら、どうかしたのかしら?」
「いや・・・」
俺はしゃがみ込んで土へと触れた
冷たい土と落ち葉に触れ、そしてその異変に気がついた
「いつもより落ち葉が少ないんだ」
「風で飛んだのではなくて?」
「いや・・・ここ数日強い風は吹いていないと記憶している。この道は元々獣道を多少ならして使っていたんだが、常日頃から掃除をしている訳ではない」
「ここを通った魔獣ではないの?でもそれがどうかしたのかしら?私としては早く下山したいのに木偶が足を止めるんだもの。早く行きましょう」
木偶って俺かよという突っ込みはしなかった
俺はちょっとした焦りを覚える
確認したいことができ、俺はシェリアに訪ねる
「お前、この道を通ってきたんだよな。ならその時道はこうなっていたのか?」
確かシェリアは俺に会いに来たときにはこの道を登ってきていたはずだ
そして俺もこの道を使ってここまで来たのだ
だから俺が登ってきたときにはこんなに綺麗ではなかった
「・・・いいえ。落ち葉が鬱陶しい道だと思って登ってきたもの」
もしかするとまずいかも知れない
だが、そんな事は無いはずだ
魔獣が人里へ下りるなどと
それもこの落ち葉のズレ具合からしてかなりの数、恐らく一つか二つの群れが同時に通ったと思われる
よくよく見てみれば獣道から逸れた場所に落ち葉が雑に落ちているのが分かるし、地面にはそのかぎ爪が抉ったであろう土も分かった
飛ばされた落ち葉はいくつかひっくり返っており、まだ葉の裏に土の湿り気が残っている
そんなに大群で村里へ下りるなど、普通は考えられないが
今年は木の実も例年に比べて少ないと言うほどではないというのに
「なら何故・・・?」
「あれじゃないかしら?ほら、湖の」
「!!」
俺は失念していた
この山の管理もある程度は任されるようにはなっていたが、そんなことでまさか魔獣が村へと下りていくとは思わなかったのだ
だから俺はハッと顔を上げ、そして歯ぎしりをした
魔獣が食すものは何も木の実や動物だけではない
その魔力も食料の内に入るのだ
「マナか・・・」
正確には目的地は村ではなく、おそらくはその先の湖なのだ
マナ不足なんて俺は全く気にしていなかった
そういえばそろそろマナの実りが巡ってきてきていてもおかしくない時期である
いや、むしろ遅いくらいだ
「くそっ・・・」
「別に全て貴方が悪い訳じゃないわ」
ドンと地面を叩いて俺はすぐに立ちあがってどうしようかと頭を働かせた
今から小屋へと戻って武器を取ってくるか?いやそれでは間に合わない
とはいえ素手で魔獣とやり合うなんて正直無理に近いと俺は心のどこかで思っている
「・・・仕方ないわね。先に行くわ」
呆れたようなシェリアの言葉のあとにザッと音を立ててその姿は消えてしまった
俺はどうする?
村に向かうか?間に合うのか?武器もなく行っても意味が無いのではないか?
いや
「俺にはまだこの肉体がある」
男は自分の最大の武器を思い出し、シェリアと魔中を追って俺は駆ける
「何だっていうの・・・これ・・・」
一匹のグリフォンが町の上を旋回している
あまり風はないが、それでも上空はまだ風が吹いているらしく、体に浴びる風のせいで一気に気温が下がったかのように思う
そんな雲一つ無い空から少女は町を見下ろす
そこかしこで戦闘が行われているのが遠目からでも分かる
煙やあわただしく動く人や黒い影が小さな町を埋め尽くしている
まだ町の異変が起こる前、異変を察知したグリフォンはまず主である少女を乗せて上空高く舞い上がった
それと同時に町の物見櫓から警鐘が鳴り響いた
そのせいで先ほど敵視していた少年のことをすっかり忘れて少女は眼下の町を見下ろし始めた
近くの小屋や警備をしていた町の自警団らしき人物達が町の裏手、山の方向へと向かっていくのが見えた
こういう森や山など、魔獣が多く済むような場所に近い村や町には魔術師がかけたセンサーのような魔法がいくつか森の裏手に仕掛けられている
ある一定数の魔獣が一度にこちらに向かってくる場合にそれは作動し、町の魔術師はそれを感じ取ることができるようになっているのだ
群れで移動していて偶にセンサーに引っかかるくらいの事はよくあるり、見逃すことも多いが今回はどうやらそうではないらしい
魔術師が優秀だったのか、いつもと違う異変に察知していたのだろう
そしてここ最近の湖の異変などの事も会わせると十分に危険があることは魔術師ならば予想できていたはずだ
村人にも気をつけるようにと伝令は来ていたのだろう
普段ならセンサーに掛かったくらいで警鐘をならすことは珍しいが、今回はまだ村に異変が無いのを見ると一応早めに行動できていたとすくなくとも私は思った
一分ほどたっただろうか
町の人々が荷物や武器を構えているのが見えた
だが、そのあとアリス・メルストンはそこで予想外の光景を目にした
ある一カ所に自警団が集まっていくのが見える
一応攻めて来るであろう大まかな場所は魔術師によって予測できるのだろう
だがそれは突如起こった
自警団が森の方を見て動きを硬くするのが遠目でも分かった
その緊張が解けるより先に、森から飛び出してきた幾つもの黒い影が町めがけて飛び込んできた
多い!!
その黒い影は一点突破、自警団の中央に突っ込み、瓦解したその隙間を塗って町へと侵入し始めた
しかも最初に飛び込んできた影がとても大きい
恐らく群れを統率するリーダーだろう
あの程度の人数ではまともに時間を稼ぐのも難しいだろう
こうして魔獣が人を襲う理由を、以前シャンに教えて貰ったことがあった事をアリスは思い出してみた
『いいですか?まず一つは食料が無くなったとき。森の木の実が少なくなったとき、稀に腹を空かせた魔獣は人里へと下りてくることがあります。ですがそのときはさほどの脅威にはなりません。腹が減って人相手にも見境無く襲ってくるでしょうが、基本魔獣は人里に下りてきません。それは人間が圧倒的な恐怖の対象だからです。人間にとって魔獣は脅威ですが、魔獣にとってもまた人間は脅威なのです。理由は分かりますか?』
『んーん。つよいから?』
『惜しいですね。強さにもいろいろありますが、今回の強さは団結と知恵の力です。人一人ではできることは限られますが、多くの人間がいればいろいろな事ができます。たとえば一人ではずっと狙われていても、二人ならどちらを狙うか迷いが生じ、片方を狙えばもう片方が、もう片方を狙えばもう一人が。力の差を人は数と知恵で埋める事ができます。人は賢いことを魔獣は分かっているのです。ですので例え餌だとしてもそれに釣られて襲ってくることは滅多にありません』
『へぇー。じゃぁそれがわかる魔獣さんも賢いんだね』
『その通り。だからといって人間が魔獣を侮る事は決してしてはいけないのです。勝つ事ができるのはその知恵と数、そして武器と魔法があるからです。武器を持たず、魔法が使えず、たった一人の人間がどうやって魔獣に勝てましょう。さて、実はもう一つ魔獣が人里へ来る理由があります。それはなんでしょうか?』
『んんーとねー、人と遊びたいから?』
『フフ、面白い答えですね。それなら仲良くできて楽しそうですね。それができる人も世の中には少なからずいます。そういう人は命の重さを知っているとても良い人間です。人を見分けるのに使えるかも知れませんが、魔獣と友達になるのと、魔獣を道具として使う人間、それを見誤らないようにしてくださいね。さて、正解を言うと人間を憎んで里へと下りてくることが有ります。これは非常に厄介です』
『なんで?』
『生き物が群れで行動するのは天敵に襲われないため、食べ物をとるときに協力したりすることができたりするから、とまぁいろいろ理由はあるのですが、ある程度の意思疎通能力があるようなんですね。人間なら言葉で会話をするように、魔獣も鳴いたり、あるいは人に聞こえない方法で意思を疎通しているといいます。それ故に、一度人間に恨みを持てばその恨みを共有した魔獣が群れを成して襲ってくる』
『なんで人間をうらむの?』
『理由は様々です。住処を奪われた。食べ物を盗られた。仲間を殺されたなど様々です。ですが決して魔獣が悪いのではありません。人間にたいして恨みを持つのは心を持つからです。心があるから、人も喜び楽しみ、魔中も怒り怨み、悲しむ。人と魔獣は姿は違っても心は同じです。そのことを、お忘れ無きよう』
少女は町へと入ってきた魔獣を見下ろす
まず最初に飛び込んできた大きな魔獣を見つけ、グリフォンの背を撫でた
今頃シャンとあの男の人も町へと向かっているのだろう
「行くよミャー!あの子を止めるよ!!」
「くみゃっ!!」
「いけっ!!」
足で思いっきりグリフォンの横腹を叩いた
だけどぼふっとふかふかな羽毛に跳ね返された
それでも命令を受け取ったグリフォンは一気に急降下した
急降下、視線の先に居る存在を目指して少女とグリフォンは天を翔る