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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
一章 ~龍の神子~
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『異世界生物図鑑』




「これが『ら』の音で、これが『り』の音か」



腹の痛みが無くなった俺は今、この世界の文字を学んでいる


子供用の本を手にして俺は唸る


まさに外国語の授業の真っ最中である



「そうです。そしてこれが『る』の発音になります」


「なるほどね。五十音とさほど変わらないみたいだから何とかなりそうだよ」



ティリアに文字を指して貰いその文字の発音をこうして白紙の紙に書いていく


とりあえず自らの発音に対し、ティリアがその文字の音を本に書いてあるモノを指さして照らし合わせる


見たこともないような文字を俺はひたすら凝視する


パッと見なんじゃこの子供の書いたような訳の分からん文字は


まぁ日本語に比べれば全然楽なんだろうなきっと。とはいえ言葉は通じているのだからあまり大きな問題は無いのだがせめて自分の名前ぐらいは書けるようにならないと


とりあえずこの早見表を完成させて練習しないとな


そして・・・



「おっしゃー完成〜」


「お疲れ様です」



これでとりあえず読めないという事は無くなった。この表を見れば時間はかかってもとりあえずは解読できる


自らの書いた紙をうんうんと頷いて眺めていると、ティリアがいつのまにやら退室していた事に気がつく


さてどうしたものかとベッドに座る


紙を机の上に放り、バタリと倒れ込む


天井を見上げる


が、何もない



「何しようかな」



枕元に置いてあった刀を左手で引き寄せる


鞘をまじまじと見つめる


本当に俺、異世界にきちまったんだなぁと実感した


机の上に置かれた本のうち、一冊を手に取る


この本はティリアに頼んで持ってきてもらったものである


中には子ども向けの本もあるが俺にとってはちょうど良いくらいである


文字の書き方、生物、礼儀作法、地図、魔法基礎等々、俺に無い知識を取り込むためのモノをとりあえず適当に持ってきて貰った


早見表を手に取り、早速題名を呼んでみる


分厚く茶色い表紙に書かれた文字を読みとってみると其処には生物図鑑と書かれていた


ペラッと適当にめくってみる


すると其処に描かれていたのは



「これって・・・ドラゴンか?」



ゲーム、漫画、アニメなどでもドラゴンは最強のモンスターとして描かれている


硬い鱗、鋭い爪、巨体を浮遊させる翼、ずらりと並んだ牙が描かれているのだが、黒一色で色は塗られていない


恐らくハンコのようなもので押して量産しているのだろう



「本当に居るのかよ・・・ファンタジー世界恐るべし」



そこに乗っていたのは巨大なドラゴンの絵


大きさを比べるためか人が横に小さく描かれているが全く大きさが違う


桁違いなほどにその巨体は大きい


人間なんかがかなうとはとうてい思えないような姿形をしている


深紅の瞳、翼についたかぎ爪、巨大な四肢、岩石すら砕けそうな牙が二本口からはみ出ている


しなる尾が巨木を一撃で吹き飛ばしている様子が描かれている



「・・・出会ったら死ぬなこりゃ」



こんなのと戦ったら10秒ぐらいで負けると思う


束になってかかっても多分勝者はあちらだろう


彩輝は絶対にドラゴンと出会ったら戦わずに逃げようと心に誓った


いや、そもそも逃げ切れるのか?


数ページめくるとそのドラゴンの他にも何匹かの種類があった


巨大な翼を持つモノや水中を泳ぐモノ、大きな四肢を持つモノから浮いている変なモノまで、彩輝達のいた世界では信じられないような生物が多数描かれていた


他にもグリフォンやサイクロプス、ゴブリンなども描かれている



「ま、滅多な事じゃこいつらと出会うことは無いかな」



こんな町中にそんな魔物が居たら大騒ぎだ畜生め


というより俺たちの世界で思い描いた空想の生物が何でこんなところに居るのやら


いや、案外もしかしたら本当に向こうの世界にもいたのかもしれないな


俺はその図鑑を閉じ、次の本に手を伸ばそうとした


その時ドアがノックされた



「どうぞ〜」


「やぁ、少年」



そこに入ってきたのはチルであった


白髪を揺らし、騎士服を纏いながら部屋に入ってきた


ただ、彼女は俺と別れる前と少し様子が変わっていた


というのも頬に大きな赤い手痕がついていたからだ



「どうしたんですか?」


「ん?あー、これ?王妃にやられた」



チルはそう言いながら頬をさする


あの暴力女めーと呟きながら視線をそらす


てか王妃に対してそんな口調でいいのか?


あぁ、その対価がその手痕か



「ところで俺になにか用ですか?」


「あ、そうそう。さっきの続き、やらない?」



・・・食後の運動か・・・


とはいえ・・・



「パス。あーえっと。止めときます」



年上なのを思い出し言い直す



「あり?予想外だなぁ、楽しみにしていたのに」


「いや、まぁ確かにこいつの感覚は覚えておきたいところなんですけどね、この後ちょっと行くところがありまして」


「あらそう。しょうがない。手合わせは延期だね。午後からは仕事だし」


「多分勝てませんけどね」


「気にすることないさ。一応君の力を見ておきたいっていう興味のが大きいんだよ」



異世界の剣術に対する興味、みたいなモノだろうか


彼女はまだ自分の知らない剣の世界を見ようとしているのだろう


ちょっとばかり落ち込んだそぶりを見せた彼女だったがすぐに笑顔に戻る



「楽しみにしてますよ」


「こっちこそ」




 退室したチルはドアの横の壁に寄りかかったアルレストを見つける


アルレストはチルが出てきたことに気づくと閉じていた目を開いた



「どう思う?」


「いやぁ、あんたの方が強いんだから私よりも見る目はあると思うけど?」


「・・・・恐らくあいつはまだ発展途上だろう。お前の話を聞く限り、途中怪我でで剣の道から外れたらしいがそのせいで多少腕も落ちていると思ったんが・・・」



多少加減したとはいえ、しっかりと剣を目で追い、さらにはその動きを完璧に読み切っていた


そうでなければ振るわれる刀に手を添えて飛び越えるなんて事は出来ない


全くの初心者でないことは、身なり、足の運びなどを見ても分かる



「あれで腕が落ちたとなればまだ上を知る人間ということだ。腕が落ちていないとすれば・・・それはあいつが俺達の力を盗めば」


「対当、あるいはそれ以上」



利き手じゃない左手を使い、さらにはしっかりと体を動かす所まで来ている


それは此方の戦い方をしらない上で取った、ある種の本能や反射に相当している


そしてそれを使いこなせるようになった暁には



「よし、今度機会が合ったらしごいてやる」



チルはニヤニヤとにやけながら廊下を後にする


残されたアルレストも閉じられた扉を見つめ、そして視線を外してその場を去った


そしてその10分後、部屋から彩輝が出てくる


彩輝は昨日ファルアナリアに頼んだ住まいの件について、朝食の後に来るように言われていたのである



「刀持ってた方がいいのかなぁ・・・」



下手したら合わせてくれないかもしれない


そんな気もしたので部屋の中に短刀を戻すと扉を閉める


ファルアナリアの部屋は最上階


もちろん警護の兵も居る


そんな甲冑着てて重くないか?


全身を鎧でかためた男達が槍を手に、最上階の階段の上に立つ



「だれだお前は」


「えっと・・・桜彩輝って言うんですけど・・・あの〜、ファルアナリアさんに呼ばれてたんですけどぉ・・・」



気迫で押しつぶされそうな感じがする彩輝は言葉がどんどんと小さくなっていった


重圧



「少し待て。確認を取る」



男はそう言うと角を曲がって歩いていく


ガッチャガッチャと甲冑が音をたてる


早くこないかなぁ


ドキドキしながら待っていると先ほど消えた男が戻ってくる


するとその男はスッと身をかがめる


それを見たもう一人の男も低頭をし、すぐにファルアナリアが廊下の角から姿を現した


こうして大の大人が頭を下げている光景を見るとやはり偉い人なんだなぁと思う


あまりこうした光景は見たことが無かったから実感が湧かなかっただけなのだろうが俺も頭を下げた方が良いような気がした


そんな俺が頭を下げようとすると、「ついてきてください」と言われる


2人の騎士の間を抜けて俺はついていく



「食事等はどうでしたか?」


「え、あぁ、美味しかったですよ。見たこともない料理ばっかりで怖かったですけど」


「それはなによりです。困ったことが合ったらなんでも言って良いのですよ。別に私が王妃だからといって遠慮することはないのですから」


「はぁ。どうも。でも今のとことは特に」


「そうですか。さて、貴方の住居の話なんだけど、本当にこの城に住まなくて良いのですか?」


「はい。これ以上お世話になるわけにもいかないですし、それにこんな機会、二度と無いですから。出来ればいろいろと体験しておきたいんですよ」



これ以上ここに甘えるわけにはいかない


そんな卑しい存在になる気はもとより無い


何でもあるが、上を知ると人間は下には居られなくなるものである


長居は無用


生きるだけならここじゃなくてもいい


それに俺は庶民だ。こんな暮らし、合わない


ファルアナリアの部屋に入る


いろいろなモノがあったあり目を部屋中に泳がせた



「珍しいですか?」


「えぇ、なんかよく分からないものがいっぱいです」



フフッと笑ってファルアナリアは数枚の書類を俺にわたす


完璧には覚え切れていないがいくつかの文字は練習したとおりに読める


どうやら俺の家に関する書類らしい



「とりあえずこれは大事に管理しておいてね。まぁ王族が買った土地に妙なことする輩はいないとおもいますけどね」



勧誘とかそういうのだろうか?


まぁ確かに・・・王族が買った土地にいちゃもんをつける人間はあんまりいないだろう。よっぽどのことが無い限りだが



「貴方の家は第4地区、シリル水路通りの第三水門の側に立っています」



この国では道より水路が多い


物資の補給などは基本的にはこの水路を使用するらしく、通路を使う事は少ないという


四方大水路から枝分かれするそのシリル水路は比較的第4地区の中でも城に近い場所だ


とはいえ、城の周囲を囲んでいるのは貴族達の屋敷であり、そこは第2、第3地区となる


その周囲には比較的裕福な国民が住む第4、一般の国民第5地区が広がっている


第4地区は商業区を兼ねているため、おそらくは大通りをさけた場所に立っていると思われる


水路だらけな国のため、橋も多い


ただどうしても水路だけでは無理があるため、この前ちらりと耳にしたクェトルの籠台のような乗り物が少ない陸路を行き交うのだという


見たことは無いがどうやら生き物が引っ張る乗り物のようである



「本当にいろいろとありがとうございます」


「気にしないで。でも実際に住めるのは一ヶ月後くらいだからしばらくはこの城で過ごす事ね」


「ま、そのうちにいろいろと勉強しておきます」



このまま社会に出てもまぁ通用するわけ無いもんな


それにお金の支援は最初の方だけということになっているため、蓄えが尽きる前に自分で仕事も探さないといけない


この国では15歳からが仕事をすることができる制度になっているため俺が仕事をすることにはなんら問題はないように思える


あるとすれば、身分証明がかなり難しい事ぐらいか


出身、異世界とは言えないわけだし・・・


まぁ支援を断ったのは自分なんだけどね


あんまり支援に頼りすぎる訳にもいかない


とはいえ、苦労するかもなぁ


いざとなったら城で働かせてもらおうかな・・・



「じゃぁ公務があるので私はそろそろ」


「あ、わかりました。お時間とらせてすいません。ありがとうございました」



一礼をして俺は部屋を出る








「これがクェトルか」



自室に戻った彩輝は生物図鑑を手にしてベッドに転がっている


度々耳にするそのクェトルなる生物が気になったためである


見た目は馬のように見えなくもないが決定的に違うのは・・・



「甲羅がある・・・」



馬のような型ではあるが体には鱗があり、馬よりも足回りが太く、少し短い


どっしりとした体型に、背中には平坦な甲羅


ただそれは背を覆っているのみで亀のように甲羅の中から手足が出ているわけではないようである


たてがみは無く、変わりに二本の角が横に伸びている


文字を読んでみると気性は穏やか、人畜無害とある


まぁ向こうでいう馬のような存在なのだろう


その他にもいろいろな生物がいた


額に一本角のある魚、レクコインや翼が4つ、顔が二つある鳥、フーフェル等々、興味をそそられる生物が沢山のっていた


中には巨大なサソリやクモなどといった、元の世界でも見られた生物によく似た生き物なども見受けられる


まぁ大きさが桁違いではあるが


両者とも人と同じ、あるいはそれ以上の大きさをしている


得に気になるのはこの二つの?マークで描かれた謎の生物だ


此方の世界でいう?マークの記号が二つ描かれていたそれに興味を持った彩輝は先ほど作った文字早見表で説明文を読んでみることにした



「そ・・う・・・魔獣?そうは双ってことか?対になってる魔獣・・・大昔に北方で現れた魔獣で・・・」



片方は鳥、片方は甲獣でそれぞれ一度しか目撃されていない謎の魔獣・・・ねぇ


一体それが何なのか、いくら考えてもそれは実際に見たわけではないので彩輝には分かるはずもなかった


そもそも他のページに比べて書かれている事が少なすぎるためその程度の事しか分からなかった


この事を彩輝はサラリと流して次のページをめくっていってしまう


だがこの対なる魔獣と彩輝は遠くない未来において出会うこととなるのだが、それを今の彩輝が知る訳も無かった



「なんでもありだなこの世界・・・」



こんな人よりも恐ろしい生物が居る中でよくこれだけ繁栄できたなぁと苦笑いする


それも魔法が関係しているのだろうか・・・?


そういや魔法ってどうやって扱うのだろうか


昨日彩輝はファルアナリアに自らの体内に吸収された魔力についての説明を受けていた


すぐにそのコントロールを覚える必要は無いが自分の体には大量の魔力が内蔵されていると言うことを忘れるなと言われた


それというのも俺がどうやら魔力を吸収しやすいタイプの人間なのだからだそうだ


詳しいことは分からないが俺は元々魔力を無意識のうちに吸収する体質なのだそうだ


昨日ファルアナリアが彩輝の周囲をとりまく魔力はまた別物でこれは精霊殿とレ・ミリレウの狭間に存在していた魔力の層を通過した時にまとわりついたものらしい


一度魔力についても詳しく聞きたいなぁ


そう思った俺は居るかは分からないがとりあえずティリアを呼んでみることにした



「ティリアさん。いるー?」


「います。何か御用でしょうか?」



間髪開けずに部屋に入ってくるティリア



「あのさ、ティリアさんって魔法って使える?」


「え?えぇ。使えますけど、どうしたんです唐突に?」



ティリアは首をかしげる



「いやさ、なら話が早いんだけどさ、俺に魔法教えてくれないかな?」



どうせ夢にまで見た魔法が使える世界ならはやくならって使ってみたいと思う彩輝なのであった





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