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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
三章 ~虹の波紋~
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『天より授かりし才』

こんなに遅れるとは思ってなかったです。すいません。とはいえもう高三なんでと言い訳させてください。そして察してください。そして最近謝ってばかりな気がする・・・。今後も遅れることがあると思います。高三なんでと言い訳します。察してくださいorzてな訳で77話目『天より授かりし才』です。どうぞ~





牙を研げ


爪を研げ


肉を食い千切れ


肉を切り裂け


本能のままに息を潜めよ








「ふむ、なるほどね。その試作火花大輪が完成すればこの辺一体の観光が増えてイレータ湖の新しい名物になると」


「あぁ!その為に今試行錯誤して作ってるんっすよ!」



バンと机を思いっきり叩いて勢いよく立ちあがるリク


卓上のお椀がぐらりと揺れる



「うるせぇぞリク。もう少し静かに食え」


「あ、すいません親方」



親方に一礼して静かに座るリク


言い分としては最近イレータ湖を訪れる観光客が少なく、新しくこの火薬で何かができないかと模索していたのだという


その中でこの火薬を空で爆発させ、その迫力ある光景を名物にできないかと試行錯誤をしているそうだが未だに完成はしていないらしい



「あのさぁ、それ、ちょっと心当たりあるんだよねアーヤん」


「え、あ、うん。ある」


「こ、心当たり?」



不思議そうな顔をするリク


まぁ確かにこの大陸に花火は無いらしいし心当たりと言われても少し違和感があるだろう


なんで無い物に心当たりがあるのだと


その事について軽く補足を入れる



「あー、ちょっと俺と一条さん、あと千尋ちゃんはちょっと遠くから来てまして、そこに似たような物があるんだわ。花火っつーんだけど」


「ハナ・・・ビ?」


「んー、まぁこう球体の玉に火薬を詰めて空に打ち上げて、バーンってやつ」


「その説明じゃ分かんないと思いますけど一条さん・・・」



身振り手振りで説明しようとする一条さんだったがあまり上手く伝わってないようだ


代わりになけなしの知識を集めて俺が説明することにした


まぁ俺も似たような説明しかできないんだけど・・・



「そうだなぁ。俺も作り方とかはあんまり詳しく知らないんだけど火薬と一緒に金属の粉末を混ぜるんだけどそれで綺麗な色を出せる・・・はずだった気がする」


「色・・・でも火薬を詰めただけってことは色つきの爆発って事でいいんですかその花火って」


「うむぅ、ただの爆発じゃなくて、もっと綺麗な爆発・・・って言葉じゃ説明しづらいな。紙とかってある?」



リクは立ちあがって後ろの棚から紙とペンを持ってきた


そのペンを受け取った俺はふと視線を感じて横を向いた


すぐ目の前に身を乗り出した一条さんが居た



「・・・・すっげぇ目がキラキラしてませんか一条さん?」


「そう!?」


「・・・描きたいんですか?」


「いいの!?」



なんで俺に聞いているのに返事も待たずペンを持っていくんですか一条さん?


ふんと鼻息を荒げて紙とペンを手にした一条さん


さりげなく久しぶりに絵を描きたかったのかもしれない。俺には分からん感情だが


芸術関係の大学行ってるって言っていた気もするしなぁ


そんなことを考えている間にいつの間にやら一条さんは紙に花火を描き上げた。ってか早いな


紙には綺麗な花火が白黒で描かれていた


簡単で最低限の線のように見えるがそれでもしっかりと花火だと分かる絵だった


素人目にも凄いと思う


花火の発光まで紙には描かれており、花火を知らない人でもそれが中心の爆発によって生まれた星の飛散だと分かる



「おぉ、上手ぇ一条さん」


「あぁ、絵を描いたのいつぶりだろう・・・君の絵を描いたとき以来だよぉ・・・」



なんか一人悦に浸っていたが気にしない



「へぇ、これがハナビですか」



そのイラストを見てリクが今この瞬間に全てが結びついたような顔をする


それを表現するならば、目を見開きその目の焦点は部屋の何処にも合っておらず、口を僅かに開けて閉めることを忘れ、スッと立ちあがったのである



「リク、火薬はお前に渡した分だけを使えよ」



その親方の言葉に、これまで無視することの無かったリクが無言で外へと出て行った


静かに閉められたドアを部屋の中にいた全員が唖然、いや呆然と見つめる


どうしたのだろうか?様子がおかしかったようにも見えるが、それにしても何も言わずに退室するのはすこし妙だ。っていうか妙だろ



「あいつはな―――」



まるで補足をするかのように唐突に親方が口を開いた


いや、実際あの様子の訳を教えてくれるのだろう



「ある意味天才なんだよ。そこの仮面の旅人のようにな」



それはカイさんをさして言っているのだろう


今現在、カイさんは面を取って食事をしている


その顔にはご飯粒がついていた



「俺は天才じゃない」


「いいや、天才以外にお前さんを何と呼べばいい。高位の魔術を使えて自分で式を作れるんだろう?そのレベルに達するにゃちとお前さんは若い。若すぎる。まぁいいか。旅人さんに話すような事じゃぁねぇかもしれないが、まぁ飯のおかずとでも思って聞いてくれ」



ニヤリと笑った親方の真意は分からないが、どうやらリクの事についていくつか教えてもらえる、そう解釈すればいいのだろう


突然やって来た旅人に聞かせるような大層な話ではないのかも知れないし別に今後必要になることもない無駄な世間話のようなものだ


それでも話してくれる内容に興味はあった


天才


その言葉に、俺は引かれた


何故かな



「あいつは火薬を扱うことにかけてはこの俺以上の素質がある。どのくらいの量でどの程度の爆発をするのか。それぐらいならしばらく火薬を扱ってりゃ誰でも習得できるだろう。だがな、あいつはそれに加えて発想、そして爆発の僅かな加減なんかを自由に操る。何処で覚えたのかはしらねぇが、俺とあいつが出会った時、まぁずいぶん前になるな。あいつが6歳の時だったか。ある日仕事をしていた俺に近付いてきて言ったんだ。弟子にしてくださいってな」



・・・・弟子にしてくださいって・・・6歳だろ!?



「六歳って・・・若すぎるじゃん・・・」



一条さんもボソリと呟いたが、若すぎるって!


普通の人間でも火薬を扱うなんて事はしない


何故かと問われれば、それは危険だからとしか言いようがない


普通6歳の子供が火薬を扱うなんてことはあり得ない


普通の人間が扱えない代物を6歳の子供が扱えるはずがないのだ



「まぁ俺も何処のガキがこんな馬鹿げたことをと思ったさ。最初は悪戯か何かだとさえ思ったさ。だがよ、その目が・・・」



そこでぷつりと話を切ってしまった親方の瞳を俺も見つめた


思い出しているのだろうか?その時の情景を


その時に見た彼の目を


きっと其処にあったのは・・・



「その目が―――その目に―――炎が灯っていた・・・。笑いたければ笑えばいい。俺はあの時、初めて実力以外の、経験以外の、これまで見てきた物とは確実に違うそれを見た気がした。そえを言葉で表すなら“天才”という言葉が相応しいと思った。そして試してみたくなった」


「試す?」



一条さんが聞き返す


このリクの親方がその時目に灯った才能の光というものを試してみたくなったのだろう


本当の“天才”というものがどれほどの物なのか


実際に見たことがない。経験したこともない。それでも確かにそのとき彼の才能が灯ったのだろう


彼の目に届く程に輝いた光を放っていたに違いない



「こんな小さいガキがこれまでに火薬を扱った事は無いだろう。それは恐らく間違いない。だからリクに見たその“天才”を試してみたくなったのさ。六歳だからこそ、その才能だけ(・・)を試せると思ってな」



この人がリクに引かれ、その才能というものがどれほどの物なのかを試したくなったというのも無理はない


努力に勝る才能は無いと言うが、物事には要領が良い人と悪い人という二つの人間が居る


同じ努力によって得られる経験値が同じで、レベルの上がり方が違うなんてそんなのレベルが上がらない人間にとってはそんなの不公平にしか思えない


だが頭が良い、要領が良い。そんな程度に与えられる言葉では無い。天才という言葉は


天才レベルの人間はそんな頭が良く要領の良い人間で、そこに努力家という性格がプラスされたとしても、それすら楽々と越えてしまう者に与えるべき言葉なのだ



「俺は不思議とその時リクに問題を出した。正解すれば弟子にしてやるなんざ・・・今思うと六歳のガキに何言ってんだって話しだがな・・・」



そう言って親方はよっこらせと立ちあがる


そしてゆっくりと後ろの棚を開き、中身を漁り始める


ずいぶんと奥の方まで手を突っ込み、それを取り出した


親方がそれを机の上に置く


小さな鉄の塊を取り出した



「耐火石・・・ですか?」


「おうよ」



カイさんはその石ををズバリ言い当てたようであるが、全然分からない・・・なんだそれ?


耐火石?燃えない石・・・って訳じゃないよな。普通石は燃えないし・・・まぁ燃えるやつもあるけど


ってことは燃えないのではなく熱を通さないとか?



「あの、それってどういう石なんですか?普通の石と違うんですか?」


「まぁ専門的な物だからしらねぇのも無理ないか。此奴は結構貴重な石で火のマナ、火の魔力を弾くんだ。だから此奴を熱する事はできない。溶かすこともできなきゃ加工も難しい上に硬い。普通の石とそっくりだがそこらの石は火のマナを通過させる。だから火によって熱がまわる。だがこの石は完全に火のマナだけを遮断する。別名断熱石とも呼ばれる」



そう言われても普通の石とどう違うのか全く分からん・・・


一条さんも手にとって部屋の明かりに透かしているが眉をしかめている



「その小さな一欠片でも時にはベル銀貨数枚は必要なくらいの価値がある」



カイさんがそう呟く


ベル銀貨数枚って・・・結構な大金じゃん


この石っころがそんなにするのか・・・俄には信じがたい事実を聞かされ俺は顔が引きつる


そんなに価値が高いという事はよっぽど需要に対して供給が少ないのだろう


ということはこの小さな一欠片すらなかなか手にすることは難しいのだろう


この握り拳一つ分も無い小さな石の値段に驚いているとゼン親方が話を続けた



「まぁ俺も直接買った訳じゃなくて譲って貰ったんだがな。まぁんなこたぁどうでもいいんだ。兎に角そいつは炎の熱を弾く性質があるんだ」


「つまりその石と火薬を使って何かをつくってみろとか?」


「ん、聡いな嬢ちゃん。どこで分かった?」



ニッと笑った一条さん



「んー、まぁ半分くらいは勘なんですけどね。加工が難しい。火薬を使う。天才の能力を確かめる。その三つかな。話しに出てましたけど、普通の人ができない、考えつかない事ができるような事を天才と言うならそれをどうさせるか、って考えたときにやっぱりその二つを組み合わせて何かをさせるって事になりますよね?なら考えられるのはその火薬で石と組み合わせて物を作らせるか石を壊すかのどちらかだと思ったわけよ。でも石は硬いし熱を通さないし、尚かつそんな貴重な物はこんな事の為に消費させるのは違うと思う。二つを使って作る以外の事をさせるっていう考えも合ったけど私はその作らせる以外の何かを私は知らないし思いつかなかった。ま、結局は勘で言ったようなものよ」


「・・・じゃぁ嬢ちゃんは勘が良いんだな。あいつはその場で此奴を作りやがった」


「え?」



そう言いはしたが、親方は座ったまま何も取り出そうとしない


てっきりそのリクが作った物を見せてもらえると思っていたので不意をつかれて小さく声を漏らしてしまった


いや、何も出す必要がないという事はすでにその場にそれが出ているということ



「・・・・これですか?」



机の上には先ほど取り出された耐火石


え、でもこれって普通の状態なんだろう?


・・・いや、先入観をもって見たら駄目だと自分に言い聞かせる


すると先ほどとは違ったようにその石が見えてくる


高価な物であり、これが全く手を加えられていない物とは言っていない


少し考えたらそんな高価な物がいくつも有るわけがない


火薬と合わせて作ったと言うから何か別の物を作ったのかと思ってしまったがそれは間違い


実際には最初から加工済みの石を出されていたのだ



「で、普通の耐火石とどう違うんですかこれ?」



とはいえ、どこに手が加えられているのかが分かるわけでもなく俺にはそれがただの石にしか見えない


元の状態を知らないから・・・という訳では無いだろう


見たところ加工された痕跡はない


じゃぁどう手を加え、何を作ったのか?



「仮面の旅人は気がついているのかい?」


「・・・そうですね。恐らく石の半分ほどに術式がかけられているんじゃないですか?微弱でわかりにくいけど・・・たぶん反発・・・。マナを反発させる術式・・・かな?いや、火のマナだけを反発させる術式だ。火のマナを通さない元々の特性を上書きしているのか?」


「流石だなぁ。それを調べるだけに俺は半年もかかったんだぞ。全く術をかけた本人も何をしたのか分かってないようでな。何が変わったのかを調べるだけでも相当苦労した」


「・・・どう違うんだ・・・」



少し考え、訳分からんと頭を抱えてゴンと机に打ち付ける一条さん


まぁ確かにどう変わったのか分かりづらい


火を通さないのと弾くのは違うのか?


通さないから弾いていると思っていたんだが



「そうだな・・・。普通の状態は火のマナを通さない。通さないがこれは弾いている訳ではなく、ただ通さないだけなんだ。逆に火のマナ、魔力を弾くという事は完全に寄せ付けないという事になる。言い換えるなら無力化だ」


「そういうことだ。そこの小さい嬢ちゃんの為にも簡単に説明してやる」



お願いします。なんか高校生の俺でもさっぱり理解できません


親方は立ち上がり、シチューもどきを暖めていた竈へと近づく


手には先ほどの耐火石が握られており、火がパチパチと薪を燃やしている音が聞こえる



「普通の石をこの中に入れてもその石は熱くならない。耐火石というのはそういう物だ。だがこのリクが術式を組み込んだ耐火石。こいつは火のマナ、炎その物を弾く。マナの結びつきすらバラバラにして・・・・つまり――――」



鍋をずらし、ゆっくりと耐火石が握られている手をユラユラと揺らめきが増したように見える炎の上に差し出す


そしてその手が開かれ、クルリと反転する


重力に従いその石は炎の中へと消え、そして炎が消し飛んだ


文字通り、炎はそこから一瞬で消え去ったのだ


それと同時に顔や手のひらに暖かい空気が流れてきたのを感じた



「つまりは、こういう事だ」



竈には妙な魔術がかけられているようで、熱風と同時に舞い上がろうとした灰は竈の周囲に漂って部屋に飛び散るのを防いでいる


その事よりも一瞬で火が消えてしまったことの方に関心は行ってしまう


一条さんもカイさんも、千尋ちゃんでさえその光景から目を離すことは無かった



「ま、これが俺がリクに出した問いの結果だ。あいつは火薬を使ってこの耐火石を世界でたった一つの石をつくりだした。名付けるなら炎滅石。炎を弾き、マナの結びつきによって成り立っている炎をマナごと石とマナとの反発で吹き飛ばす。そんな石にしちまったわけよ」



灰に埋もれた炎滅石を親方の分厚い大きな手が拾い上げる



「予想したとおり、あいつは天才だったわけだ」



天才・・・


その言葉が俺の心の中で揺れる




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