表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈風のアヤキ  作者: 夢闇
三章 ~虹の波紋~
76/154

『見習い火薬師』




「結局何も無かったな」



湖の探索を初めて一日目


日が暮れかけてきたためこの日の探索は終了


この日の探索で湖の外周をおよそ半分まわった事になる


異変は感じなかったが、湖の上空に一角天馬を見つけた


しかし一角天馬はそのままスウッと空へと消えてしまい、手がかりは何一つとして得られなかった


ただ何ら目に見えるような異常は無かったがやはりまだ違和感があるように思う


気のせいかと思いその事をカイさんに話すと



「宿題だ。自分で考えてみろ」なんて言うのだから恐らくカイさんはこの違和感の正体に気がついているのだろう


とはいえ答えが全く分からない


ヒントを訪ねると「目には見えないが違和感を感じているんだろう?ならば違和感の正体は目に見えないものだ」というヒントがもらえた


目に見えないものってなんだろう、と考えながら町へと向かう


当たりが暗くなり始め、町の灯りがチラチラとつき始める


と、空が光ったような気がした


そして小さな破裂音が聞こえた


一同足を止めて湖の上を見る


すると小さな煙が月明かりを跳ね返していた



「およ?何だ何だ?」



一条さんが湖の方へと駆け寄る


千尋ちゃんを任された俺は一人、あぁこれか。なんて思っていた


おじさんに聞いた試作火花大輪なるものの存在を思い出しながらその煙を眺めていると、また軽い破裂音と小さな光りが夜闇に閃光を映し出し、湖もそれをうつす



「あ、ちょっとお店の人に聞いたんですけどなんか試作火花大輪なるものが・・・」



一行に店のおじさんに聞いたことを話す


と、千尋ちゃんも一条さんもその言葉に引っかかるものがあったようだ



「ねぇ、それって」


「うん、たぶん」


「花火?」



千尋ちゃんが手を繋いだままこちらを見上げて話しかけてきた



「でもまぁ、試作段階っぽいよね。見たところ只の爆弾じゃない?」


「ですね。まだ花火を作る技術が確立していないんでしょうね」



そんな会話をしていると



「俺だけ仲間はずれか・・・?」



そのカイさんの言葉に俺は苦笑いをし、元の世界の花火の事を説明した


カイさんは興味深そうにその話を聞いてくれた


やはりこの世界ではまだ花火は作られていないらしく、存在すらも知らなかったようだ



「ね、なんかちょっと行ってみたくない?」



一条さんがそんなことを言い出した


てか俺に聞くなよ。リーダー俺じゃ無いし・・・


一条さんが俺を見て、俺がカイさんを見る


千尋ちゃんもカイさんを見上げている


二人とも目がキラキラしている気がする。いや、している。断言しよう


興味津々早く行きたいオーラが出ている


いやまぁ確かにその花火らしきものが発射された場所はそう遠くないように思うが・・・


カイさんも押されているようで仮面の下は恐らく苦笑いだろうと思っているとカイさんが渋々承諾した


実は俺も興味が湧いていた、なんて後からこっそり聞かされるわけなんだが


ていうか何であの女子二人は疲れを感じていない


ここしばらく歩きっぱなしで俺は疲れた。疲れたぜジョー。


真っ白になって湖の畔を歩くこと十数分



「ここかな?」


「だろうね」



小さな小屋がいくつか点在する場所に出る


木々が切り倒されたその広場には薪や木箱が沢山置かれていた


湖には小さな桟橋があり、その小屋の窓やドアの隙間からは光りが漏れている


煙突からは煙が立ち上り闇へと消えていく



「あー。あれー」



千尋ちゃんが指さす先を俺と一条さん、そしてカイさんが見つめる


桟橋の上を指す千尋ちゃん


その桟橋の上には一人の青年が立っていた


一人桟橋に佇む少年はゆっくりとこちらへ振り返る



「こんばんは~」



一条さんが真っ先に挨拶をした


相手の方もお辞儀をしてこちらへと向かって歩いてくる



「こんばんは。何か用ですか?」



少年はそう挨拶を返して何か用かと訪ねてきた


身長は170前後で紅い髪に白い鉢巻きをしている


上着の袖を肩まで捲り上げ、その下に白いシャツを着ている



「いや、さっきの爆発は君がやったのかなーって思って」


「え、そうっすけど。旅人・・・ですか?」


「まぁね。ちょっと南の方からやって来た旅人ってところ」



俺と一条さんは帽子を被っているため黒髪はばれておらず、妙な服装をしている旅人だな位にしか思われていないだろう


ただちょっと旅人にしてはおかしなメンツではあるが


それも含めればかなり旅人だなと思われているだろうがまぁ気にしないで話を進める一条さん



「私は一条唯。君は?」


「え、あっと、リク・ヒノトです。あ、さっきのやつ気になります?」



さっきのやつとは恐らく先ほど湖上で炸裂した物の事だろう


俺たちは恐らく花火ではないかと想像しているのだがその答えも聞いておきたい



「気になる気になる。それでわざわざここに来たんだから」


「あ、そうっすか。えーっと、じゃぁどうしようかな・・・。旅人なんですよね。今日の宿はもう?」


「いや、まだ宿は決めていない」



後ろで話を聞いていたカイさんが答えるとリクはニヤリと笑って鉢巻きを解いた



「ならうちに泊まっていきませんか?」






 「ばっかやろおおお!!」



家の中でドカーンと何かが爆発したような気がした。いや、実際に火山が噴火したような勢いだった


家長に叱られる長女とか長男の最後にじゃんけんするアニメとかってああいう感じなんだな


そりゃあの兄姉も恐れるわけだ


恐らく今リクはこっぴどく叱られているのだろう


そりゃまぁ通りがかった旅人を突然泊めるなんて普通あり得ないだろ


内心はそう思いつつ、リクはその小屋の主に許可を取りに行ってものの十数秒でその怒鳴り声が聞こえてきて「やっぱりなぁ~」なんて小声で呟いたりした


しばらくすると小屋のドアが開き、リクが出てきた



「だ、大丈夫だった?なんか今凄い怒鳴り声が聞こえたんだけど?」


「え、あ、何とか許可とってきました。うちの親方、あ、ゼンさんっていうんですけど親方もたぶん泊まって欲しいと思ってるんであんまり気遣いとかは無用ですよ」



先ほどリクを叱っていたのは親方だったらしい


そういえば店の店主も火薬師とか言っていたな


その見習いが試作火花大輪とやらをやっていると言っていたので恐らくリクはその火薬師見習いといったところなのだろう


光りが漏れるドアをくぐり中へと入る


それと同時に良い匂いがしてきた



「おう、入ってくれや」


「おじゃましまーす」


「お、おじゃまします」



全員が入り終わったところでリクがドアを閉めた



「初めましてだな。うちの弟子がなにやら妙な提案をしたようで申し訳ない」



親方はまず謝った


ごつい体型で筋肉がとてもたくましく見える人だった


大きな机の上には二人分の料理が置かれている


その奥のキッチンでは大きな鍋が火にかけられており、中身も沢山余っているようであった



「いえ、お気になさらず。我々も疲れていたのでとても嬉しいお誘いでしたものですから」


「そう言ってもらえるとありがたい。まぁこんな所に来客というのも珍しいもんでな。とりあえず話は飯を食べながらにしましょう」



カイと親方とが会話をしている間、もう一度部屋をぐるりと見渡した


ロッジのようなイメージのその小屋には料理の匂いが立ちこめている


きちんと手入れもされているようで虫食いや蜘蛛の巣などは見あたらなかった。というか蜘蛛ってこの世界にいるのか?



「おい、リク。旅人さんの料理もだしてやれ」


「うっす親方」



リクは親方に命令されて飛ぶように食器を棚から取り出し始めた


ん、と思ったときには俺も足を動かしていた



「手伝わせて」


「あ、悪いっすよ、客人にそんな」



俺はそういうリクを無視して器を一緒に取り出す


木でできた器をいくつか取り出し、大釜でぐつぐつと火にかけられているシチューのような物を同じく木でできたおたまで掬う


借りを作りたいという訳ではないが、なんだか率先してやりたくなったから手伝ったまで


やろうと思ってやらない事にはしたくない主義なのだ


つまり後悔したくないわけである


今ではこういう事にさえ後悔の幅を広げてしまったために何かと不自由もあるかと思うこともあるが、さりげなく今の自分にはこれでいいような気がするのだ


全員分の食事を配り終え、急遽小屋の奥から椅子を人数分持ってくる


それももちろんリクの仕事だったらしいが俺も同じく手伝った


皆椅子に座りいざ食事会が開かれた



 「俺はゼン・クリードっつうしがない火薬師だ。んでこっちが弟子のリク・ヒノト」



自己紹介が大体終わり、全員の手が食事へと伸び始める



「カイさんは魔術師なんですか?」


「ん、そうだが、よく分かったな」



カイがスプーンを口にくわえたままリクの問いに正解だと答える



「いや、水の入った瓶つけてましたから」


「あぁ、そういえばそうか。それでか」



俺もそういえばとカイの腰に目をやる


カイの腰には瓶がいくつかロープでくくりつけられており、その中には透明な水が揺れている


確か出会った当初のツキも持っていたような気がする


水や氷の魔術師はもしもの時に備えて常備していると聞いたことがあるがそういえばカイさんも氷の魔術師だったなぁと思い出す



「それなりにできるのか?」



そこにリクの師匠であるゼンさんが声をかけてきた


魔術師としてのカイさんの実力を聞いているのだろうか?


そういえばカイさんの強さってどんなものなんだろう?


っていうか、この世界での魔術ってどのくらいが普通のレベルなんだ?基準が分からないからカイさんの事をどう判断すればいいか分からない


そう思うと俺も気になってくる



「上位級ならそれなりに。あとは実際に登録されてない魔術で自分で作った奴ならいくつかありますかね」


「・・・・」


「・・・・」



リクとゼンが顔を見合わせる


両者とも食事中だというのに口をぽかーんと閉め忘れている


そうして両者同時にカイへと向き直り、真っ先に叫んだのはリクだった



「す、すごいっす!!」


「あぁ・・・ちと驚いたなこりゃ。これまたどえらい旅人さんじゃて」


「皆さんも魔術師なんですか?」



ここであんまり目立って印象づけるのはあまり得策ではないだろうと首を横に振った


同じように一条さんも違うと身振り手振りで意思表示する



「あはは、そんなわけないじゃん。だからこの人は護衛も兼ねてるのさ」



そう言って一条さんはカイを指さす


二人の驚き方を見て俺は少し考えてみる


あれ、もしかしてカイさんって結構凄い人?


そういえば大会の時にもどこかの隊長さんと互角に戦ってたって聞くし・・・


いやまぁ前から凄い人だとは思ってたけど、予想以上なのか?


ゼンさんは背もたれに体重をかけてふうと息をつく



「何処の出身だ?」


「北です。フェリエス王国のシーグリシアの生まれです。一応このメンバーでそこに向かっている途中です」


「・・・・遠いな。北方小国群じゃねぇか」


「えぇ。長旅ですがゆっくりしている暇がありませんでして。此処へは遠回りになるんですがちょっと用事があってよったんです」


「そうかい。大陸を斜めに突っ切るふうに行くのか?」


「今のところその予定です」


「ってぇとファルトの大脈を行くのか?」


「はい。その方が早いと思って」


「なるほどな」



カイさんとゼンさんの会話に聞き慣れない言葉が出てきた


ファルトの大脈ってなんだ?


とはいえそれをここで聞くのは少しまずいかもしれないと俺は予想する


この世界に来てから多少のことは知ったつもりだ


だが知らないことも少なくはない。むしろ知っていることの方が少ないくらいだ


生活上での常識は多少知っているが、歴史や地名などはあまり知らないためにあまり人前でそういう事を聞かない方がいいと出発前に王女達から警告はされている


俺たちが異世界人であるということは未だに極秘情報であるためにそういった不審に思われるようなことは控えなければならない


黒髪であることを隠すこの帽子もそのためだ


だから後で二人がいない場所で聞こうと思ったのだが



「ファートのたいまくって?」



千尋ちゃん!?


い、いや、これはチャンスだ!


少し慌てそうになったが少し考えて千尋ちゃんの年齢で言えばべつに怪しまれないということに気がつく俺は心の中で少しガッツポーズを取っていた


そうかその手があったか!



「あぁ、嬢ちゃんはまだしらないか。まぁ知らない方が普通か。ファルトの大脈な。ファルト。あとたいまくじゃなくて大脈だ。まぁおっきな道だと思ってくれりゃぁいいよ」


「おっきな道?道路?」



まぁ会話の内容から恐らくそういった道の名称みたいなものだろうとは予想していたがどうやらその通りのようだ



「そう。道のことだよ嬢ちゃん。覚えときな」


「あ、そう言えばさっきの―――」



そこで俺は先ほどの湖の上でみた爆発の事を話題に出した


あまりこの辺の事で詳しいこと話されても分からないこととか多そうだし話題をずらしたかったのもあるが、そのせいでボロが出て怪しまれるのはまずいと思ったためだ


その話題を出すと、やっと来たかというリクの目がキラキラし始めた


そりゃもう目に見えてカッと見開いた目に希望やうれしさみたいなものがものすごく伝わってくる


そんなに振って欲しかったのか


にしては親方さんの顔色が優れないような気がするが



「お前等さっきのリクの遊びを見てたのか?」


「遊びじゃ無いです親方!あれはこの町の事を思ってのことなんです親方!」


「はぁ・・・そうかい。じゃぁ旅人さんに好きな風に説明しろ」




リクは待ってましたと言わんばかりの顔で説明を始めた




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ