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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
三章 ~虹の波紋~
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『統合』





「どうぞこちらへ」



蝋燭がユラユラと揺れている


薄暗い通路を案内され、二つの人影が巨大な扉を抜ける


ぐるりと壁を一周するようにして並べられた蝋燭と絵画がこちらを見つめているようだ


円形の部屋で床には真っ赤な絨毯、天井には巨大なシャンデリア状の燭台があり、無数の蝋燭の炎がこの部屋を照らしている



「や、お久しぶり。へぇぇ、凄いね。君の趣味かいゼロ?なんともまぁ古臭い好みだこと。流石古株。最古参は伊達じゃないね」


「口を慎めニール。三族長の一人とはいえその発言には気をつけねばならぬ」



闇の奥に椅子に座った人影が見えた


ユラユラと蝋燭の炎に光りと影が揺らめいている



「や、そんな怒らないでよ」



蝋燭の炎の光りがゼロの皺の一つ一つを克明にする


その一つ一つに年期を感じる



「最後に会ったのは何時だっけ?」


「・・・侵略者どもと戦ったときでは無かったか?」


「あぁ、そういやあの時会ったっけ。まだ僕も小さかった頃だね」



アグレシオンという侵略者が異界より侵攻してきた際、人と手を組み戦った時たしかに彼と出会っていたことを思い出す


戦闘狂として前線に立っていた頃の全盛期の自分だ


とはいえそんな大昔の話はあんまり覚えていないんだけど


そう思うと彼は一体何時の頃まで覚えて居るんだろうか?自分でさえ忘れたことの方が多いというのに



「そういう意味では尊敬するんだけどねぇ・・・」


「何か言ったか?」


「別にぃ~」



どさりと椅子に座って次なる到着者を待つことにする


大きな時計の振り子がカチリカチリと静かな部屋に響き渡る



「そういえば僕を呼んでいるってことはレミニアも呼んでるんでしょう?会ったことはあるの?」


「無い。ニールはあるのか?」


「いやいや、あれから一度も他族とは関わってないんでね。ルシェナールが死んで娘が次期継承者になったって事ぐらいしかしらないな。完全に研究のために引きこもっていたものでしてね。今回の遠出も久しぶりの外出なんですよ。あ、でも可愛いといいなぁ」


「フン・・・」



ごくりとワインを飲み干すゼロから視線を外してまだ見ぬルシェナールの娘の想像にふける


ルシェナールが人界より広がった病気で死んでから早何年経ったことか


娘を産んでから百年近くはたっているので少女もそれなりの年齢ではあるはずだがまだまだひよっこだとゼロは踏んでいるだろう



「おや、来たかな?」



ゼロが眉をピクリと動かし、僕は先ほど入ってきた入り口を見つめた


その瞬間、ドアは吹き飛び僕の頭を強打した


変形したドアはそのまま壁に当たって落ち、扉諸共吹き飛ばされた壁の破片や煙が周囲に散らばった



「おーおー派手な登場だこと」



強打した頭を振って髪についた誇りや砂を落とす


こんなことならもう少し奥に座っておけば良かったかなぁ・・・


なんて考えていると砂煙の中から一人の少女が出てきた


真っ赤な双眸で部屋をぐるりと見渡す



「・・・・なぁ、みんなこんなに弱いのか?」



開口一番それかよぉとか思いつつもその彼女の右手には案内役であっただろう吸鬼の男の首があった


有らぬ方向に曲がった顔と体の吸鬼を片手に登場とはこれまた予想を裏切る展開だこと


現れた少女は人で例えるなら15、6歳前後の見た目をしている



「人の領地であまり派手に暴れるな。只でさえ同胞が少ないのだ。派手な行いは謹んで貰おう」


「あら、ごめんなさいね。にしても、脆いわねぇ貴方の同胞とやら」


「まぁその好戦的なのは若年期だけだっていうしね。僕もそうだったし」



あの年代は難しい


思春期とでも言おうか



「貴方がニールとやら?」


「うん。よろしくレミニア」


「えぇこちらこそ。そして貴方がゼロとやら?ふーん、確かにかなりの年数生きてるみたいね」



ツインテールの少女は右手に掴んだ吸鬼を後ろの廊下へと投げ飛ばす


おお恐い恐い。あんまり挑発しないようにしないとなぁ










そんな光景を扉の奥から覗く影があった



「うゎ、恐っ!!なにあれ!?あれが新しい族長!?」


「みたいだね。あーぁ、呆気なくイチも死んじゃったね」



振り返ってみると其処には最早原型を留めていないイチの姿があった


哀れなイチ。あんなところで族長を口説いたりするから・・・



「テンと良い勝負するんじゃないかなぁ」


「かもねー。今テンが居なくて良かったよー。下手したら此処吹き飛ぶよ全部」


「だね」



ヨンとロクはそんな最悪な光景を想像しながら前方で恐らく開かれるであろう会議の行方に聞き耳をたてた



「何をコソコソしている?」


「わぎゃ!?」



ヨンは目の前の光景に集中しすぎたせいで後ろからの接近者に気がつかなかった


飛び上がって後ろを見ると其処には新入りである男が立っていた


先日共に南のアルデリアを襲撃した元ファンダーヌの王族側近アークス・ガランドーラである


すでに老い始めを感じさせる白髪とその肌がスウッと闇へと浮かんだ



「び、びっくりしたぁ~」



声をかけてきたのがアークスだと知ってほっと胸をなで下ろすヨンは奥の部屋に立っている少女の事を説明した


それを聞くとアークスは腕を組む



「一度戦ってみたい気はするがな」


「・・・・自殺志願者?」


「失敬な」







 「んで、わざわざ私ら呼んで何したい訳?」



分かっているくせに聞くなんてと言ってやりたかったがとりあえずは静観していようとニールは決めていた


あまりこういう事に積極的になるのは性分じゃない


何事も成り行きに任せるのが一番だ



「私は人間に恨みを持っている。領地を奪われたのも、先の大戦で駒として使われたことにも」


「ふん、それで人間に復讐したいって私たちを集めたの?」


「無理に参加しろとは言わぬが、その口からやるか否かを聞きたい。お主の母も美しい女だった。それなのに人に貰った流行病で呆気なく死んでしまった。怨んで居ないのか?」


「別に。人間から貰った流行病だとしても、直接殺したくて殺した訳じゃないし、私は別に気にしてない。・・・・あのさぁ、もうこういうの止めるわ。で、何したい訳?人間への復讐・・・だけじゃないんでしょ?」


「そこんところ、僕にも詳しく聞かせて欲しいなぁ。あっちこっちで動き回ってるって聞いてるけど別に同胞捜しって訳じゃぁ無いよね?」



そこにニールが入ってくる


ピクリと眉を動かし、ワインの入ったボトルへと手を伸ばす。が、その手が届く前にワインのボトルは粉々に吹き飛んだ


赤い液体と砕けたガラスが机上へと広がる



「この儂の力を知っているか?」


「へぇ、ぜひその口から聞きたいわね」



面白そうな展開じゃないかとニールは思った


吸鬼にはそれぞれヨンやロクのような児童期の当たりからレミニアのような若年期になる頃、それぞれ特殊な能力を使えるようになる


誰に習うわけでもなく自らの内に潜む力、ただその力を知るのだ


ゼロの能力はある意味戦闘向きの能力であるために若年期を過ぎてなお前線に立つ珍しい吸鬼であった


“ただ有って死を司る能力”


先の大戦ではこの能力のおかげで彼は死ななかったと言っても過言ではない


相手の死を操り、自らの死を操る


ただその能力にも僅かばかり制限はある


操る相手に可能な限り近づくほど効果が上がる。操る相手は一度に一人。死して時が経った者は蘇らない。


大戦で彼が救えた仲間はごく一部


大陸全土で起こった大戦に彼が全ての同胞を救えるはずもなかった


逆に言えばその経験こそが彼を今族長の位置に立たせている



「“ただ有って死を司る能力”これが儂の能力。そしてその力を持ってして人間を滅ぼす。過去の恨みを果たす。それだけが望み」



いやいや、そんなはず無いでしょうと口が勝手に言いかけたがそこはグッと堪える


ここは口を挟むより見ていた方が面白い展開なのだ


そんなはずは無いだろうゼロ氏



「ふーん、しらばっくれるの。宝玉集めに勤しむのはこれの為かしら?」



レミニアは突如服から一つの巻物を取り出した


ゼロの目つきが変わり、ニールも興味深そうにその巻物を見つめている


相当に古いものだと思われる巻物でニールは恐らく大戦前の物だと推測した


魔術が確立していない時代の物にしては保存状態がいい


恐らくいつかどこかで紙が朽ちないようにするための魔術をかけたのだろう


あの汚れはそれまでについたものということか



「なんだそれは?」


「しらばっくれているのか本当に知らないのか、まぁどっちでもいいわ。これは母さんから受け継いだ物の一つでね、宝玉集めてるって聞いたからもしかしてと思って持ってきたんだけど」



巻物を紐解き、それを縦に開いた



「面白いでしょ。九つの玉が描かれてる。そして十の剣」



ニールもその巻物の絵を眺めた


筆で描かれたものだろうか


色は多少落ちているが、確かに九つの玉が円を描き、十の剣がそれぞれ玉を貫いている


そしてその円の中心には黒く塗りつぶされた闇


円の外には九人の人が描かれており、九つの剣が玉を貫いているが余った一本は塗りつぶされた闇の中心にある


所々に読めない文字がある


恐らく精霊語だろう



「そ・・・れは・・・」


「ね、面白いでしょう?精霊語が解読できればまだいろいろ分かると思うんだけど、これだけじゃ何の事か分からないわよね?私が思うに他にも似たような物があると思うの。ゼロ、何か知らない?」


「・・・・そうか。ルシェナールが持っていたのか・・・」


「それじゃぁもう一度聞くけど、何がしたいの?」



ゼロは少しばかり沈黙を続けた


机上に零れたワインがぽたぽたと静かに床に落ちる


そしてゆっくりと立ちあがった



「お前は知りすぎた」



杖でトンと床を叩く


その瞬間、何かがレミニアの立っていた場所で弾けた


それを見た瞬間、己の能力がそれを見た


“ただ有って見抜く力”がその瞬間を見抜いた


ゼロの能力が発動したようである


ただもう一つのものを自分の目は見抜いていた


実際に目に見えて弾けていたのはゼロの能力による効果であり、だがその場所からは確かにレミニアの能力も感じていた


その瞬間、これまで見たことも聞いたこともなかったもう一人の族長の能力を知る



「これは・・・」



“ただ有って先を知る能力”それが彼女の能力である



ただゼロと違って能力がそのまま相手に干渉するものではなく、能力はあくまで補助なのである


つまり実際に戦うのは彼女の身一つということだ


まぁ魔術も使えるとは思うんだけど


“ただ有って死を司る能力”と“ただ有って先を知る能力”


やっぱり見ていた方が面白いね。うん



「む」



ゼロが突如姿を消したレミニアを目で追った


瞬間、再び閃光が弾けた


今度も外れたようでそこにも彼女の姿はない


この室内くらいであればゼロの能力は十分に効力を発揮する


とはいえ、レミニアも能力を発動させたまま移動を続けているようでゼロの能力が当たるかどうかは分からない



「早いねぇ」



残像が消えては現れ、消えては現れ、ゼロの能力は全てその残像へと直撃している


方向転換する際僅かに落ちるスピードで残像が見えているのだとすれば恐らくゼロはその動きを追えているのだろう


次の瞬間、ゼロは杖を振り上げた


おっと、これはまずいか?


カンと音を立てて何かが地面を滑っていった


ナイフか?


とりあえず、自分の見抜く力が今ゼロがやろうとしていることを知って全力で回避しろと警鐘を鳴らしている


本気で殺す気なのかいゼロ?


自身の出せる最速のスピードで部屋の入り口から外へと出る



「うぁっ!?」


「ん?」



見下ろすと小さな少年がいた


ちょっと今の早さはびびらせてしまったかな?


うっすらと笑みを浮かべて振り返るとそこにではゼロが能力を発動させていた



「部屋ごと殺すなんて」



机、椅子、蝋燭、燭台、全てが同時に粉々に吹き飛んだ



「君も殺す気満々じゃ無いか」


「仕掛けてきたのは向こうよ?何か問題でも?」



突如目の前に現れたレミニアはそのまま部屋へと戻っていった


別に。そう小さく呟いたが聞こえたかどうか。まぁどちらでも良いのだが


次の瞬間、ゼロの目の前で閃光が炸裂した


が、それと同時にゼロの首がごとりと落ちる様子を見ていた


死を操るとはいえ流石に死んだんじゃないかなこれは?


ゼロの体もゆっくりと倒れ、その後ろから小柄な少女がナイフを持って立っているのが見えた



「案外あっさりと死んだけど気分はどう、ゼロ?」


「不快だ」


「・・・・首だけになってもしゃべれるってどうなんだい?」


「お前の能力で見抜いてみればいいだろう」


「見抜いてどうするのさ?」



しゃがみ込んでゼロのしわくちゃの顔を見下ろす


首が取れているのによく喋ること


こっそりと能力で見抜いてみると己の死を認めていないようだ


まぁ死を司る能力をもっているのだから自らの生き死にぐらいは操れるのも頷ける



「そろそろ遺言は終わり?」



ニールの後ろに少女が立つ



「フフ、ルシェナールの娘がこんなお転婆だとは思わなかったな」



床に転がった首が笑みを浮かべた


お転婆じゃすまないだろぉとニールが思っているとレミニアは無表情にその顔を上から踏みつぶした


ゴリッと音を立てて骨が砕けた


頭蓋骨か、鼻の骨かそれとも顎か、鈍い音を立ててゼロの首は床へとめり込んだ


それなりにパワーもあるようである



「さようなら“ただ有って死を司る能力”名前の通り無に帰りなさい」



音もなく、首はレミニアの魔力に包まれ黒い霧となった


霧が晴れればそこにはもはやゼロの首はなく、残った体はピクリとも動かない


今度こそ死んだな。とニールは確信する



「これで大戦前から生きてる吸鬼は僕だけか」


「あなたも私と殺し合う?」


「遠慮するよ。そんな気は欠片も無いし、たぶん十中八九君が勝つから」


「そう。残念」



振り返り、自分が吹き飛ばした部屋の入り口を見つめるレミニア



「さて、そこに居るあなた達、出てきなさい」



レミニアは入り口にいたゼロの配下の吸鬼に出てこいと命じた


ゆっくりと出てくる子供の吸鬼が二人、そして人間


まぁ恐いよねぇ。うん



「ここは今から私が、吸鬼の王族の直系であるこの私レミニアが支配するわ」


「え、マジで?」


「何よ、殺されたいの?」


「ナンデモアリマセン」


「よろしい。文句がある者はいつでも私を殺せばいいわ。その時は私も全力で殺すから。実力は今見た通りよ。どうする?」



子供の吸鬼二人が顔を見合わせる


人間も腕を組んで考えている


っていうか人間なのに吸鬼側につくなんてなんて珍しい人間だろう


後でちょっと話を聞きたいかも


そうこう考えているとその人間の男がそのレミニアの要求を許諾した



「弱い者が強い者に従うのは世の摂理」


「そちらの子供はどうする?」


「んー・・・どうするロク?」


「私は研究ができればそれでいい。研究させてくれる?」


「何の、とは聞かないけど、それぐらいなら別にいいわよ」


「そう。じゃぁ貴方に従う。他にも何人か居るから呼んできましょうか?」


「えぇ、そうしてちょうだい」





程なくしてゼロの戦力はこの場に居ないテン、ゴ、ハチを除いてそのすべてがレミニアの傘下となった


ニールとレミニアは同盟を結び、三つに分かれていた吸鬼は一つのグループとなった


レミニアはゼロとは違う理由で戦力を欲していた


その能力はすでに先を見据えていた


とある異邦者がそう遠くないうちにこの地を訪れることに、一番最初に気がついた者は静かに呟く



戦いは近い・・・と






執筆速度が戻ればいいなぁと思う

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